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「先ずは3人とも全員が記憶を無くしていたなんて不自然過ぎます」

「それは俺も思ったが、襲われた理由になるのだろうか?証拠もないのだぞ」

「ええ、ここまでは不自然なだけでしたがモネのブローチが外れていた事で襲われた可能性が裏付けされています」

「ブローチが……」

「モネはあのブローチを大切にしてくれていました、毎日付けた時は外れないように念入りに確認するほどです、簡単には外れないは、ブローチが外れる程の強い衝撃があったはずですがその記憶もないのは無理がありませんか?」

「それは…そうだが」

「とはいえ、これはこじつけのような理由ですが一応は警戒すべきと思ったのです」
 

 アイザックは頷き、先程までの私の頼みの意味を分かった事で頷いた。

「それで、敵意を向けてくる者を調べたかったのか……しかし君の言う話はあくまでも憶測だろう?そこまで警戒する必要はないだろう、俺もモネ達も疲れていただけの可能性も充分にある…俺は納得はいかないがな」

「いえ、私は誰かが貴方達を襲ったと思われるもう一つの疑いを持っています」

「な?目撃者でもいたのか?」

「いえ、全て貴方達の会話から感じました…相手が意図してなのか分かりませんがとある情報が掴めたのです」

 私はアイザックに微笑みかけながら、手にしたとある情報を伝える…それは今朝の会話から分かった事だ。

「少なくとも、貴方達を襲って運んだ人物の性別は分っています…貴方達を襲ったのは男性です」

「………その確証はあるのか?」

「今朝の会話です…記憶がないといった怪しい情報に隠れておかしな点がありました……モネとエリザは寮の前に倒れていて、貴方は自室にいた」

 そこまで言ってアイザックも分かったのだろう、「なるほど」と頷いた。

「男子寮と女子寮は互いに別姓は入れません、貴方達を運んだ相手は部屋も内部の構造も分からぬ女子寮へ忍び込む事は諦め、部屋と寮の内部構造が分かっていた男子寮のアイザックだけは部屋へと運んでいました」

「しかし、何故そこまでしたのだ?俺も寮の玄関口に置いておけばいいのに」

「昨日は夜風の冷たい日でした、外で寝ていれば体調を崩す可能性があったからです……現にモネとエリザは同時に起きていました、2人の会話ではどちらかが先に起きて片方を起こしたのではなく同時にです、気つけを行った誰かがいると考えています」

「俺は自室のために起こす必要もなかったと…」

「はい、とは言っても物的証拠もない事です…信じる必要はありませんが他言無用という事で」

「デイジー、君の言っている事は分かるが……明らかにおかしな事があるだろう?俺達が襲われたと言うのであればなぜまだ生きている?もしくは監禁されていてもおかしくないだろう?」

「考えられる可能性があるとすれば、今は大事にしたくないという事かと……もしくは、私達を利用してなにかを行おうとしていると思います」

「利用して………か、俺達はいいように動かされているのかもしれないと?」

「可能性の話です、とはいえ相手がいれば何を考えているのか分かりませんし、貴方を気絶させる程の者でもありまます、狙いは王子関連で私でしょうし、危険があってはいけないので私がなんとかしてみせます」

 アイザックは不敵に笑うと、私の肩を掴んだ。

「抱え込むなデイジー、俺はその犯人に不覚をとってしまったかもしれないが二度は思い通りにさせない、愛する君や、モネもエリザも守り通すさ」

「あ…愛す……貴方はいきなりですね…」

「想いは積極的な方が良いだろう?明日も無事に会える保障などない、なら素直な気持ちを君に届けたいのだ」



 一回目の人生の仕打ちはどこへやら、私は彼の積極的な言葉や言動にほだされつつあるのだ…これでいいのだろうか?そんな迷いが私の頭の中を駆け抜ける。

 私の肩を掴んでいた彼の手を離し、私は冷静に答える。

「まずは、お互いの身の安全を大切にしましょう…私は大丈夫ですから」


 そう言って、距離をとった私を見て…少しだけ悲しそうな表情を見せた彼にずきりと心が痛んだのは気のせいだ。
 きっとそうだと自分に言い聞かせ。

「授業に戻りましょう」と呟き、振り返らずに教室へと戻った。




 偉そうに彼に愛だ恋だの講釈を垂れていたが、前に進めていないのはきっと私なのかもしれない。























   ◇◇◇

 あの舞踏会の日から特に記憶に残る日はなく、平穏で楽しい日々を過ごしていた。
 エリザも私達の中に馴染んできており、少しだけ生意気な口調は今では彼女の個性として見られている、ランドルフも謹慎から明けて一度だけ見かけたが、こちらを睨むだけで特に何か言ってくることもなかった。
 アイザックも、襲われた可能性については特に言及もせずにモネとエリザに不安を与えないようにしてくれているために平穏な日々を過ごせて………いた。



 平和だった日々だったが、相変わらずの口調でやって来た彼によって状況は変わった。
 

「デイジー!モネ!エリザ!!君たちは乗馬はできるだろうか!?」

 終礼の鐘が鳴り、それぞれが自習のために教材をまとめていると慌てた様子でアイザックが私達に話しかけてきた。

「馬に?いきなりなんですか?」

「い、いいから教えてくれ!」

 何やら焦った様子のアイザックに戸惑いながら、私達は顔を見合わせて答える。

「私は多少なら心得が…といっても速く走らせるのは無理ですが」

 私が答えると続いてモネとエリザが答える。

「私は全然です、平民だから農耕馬を見たぐらいしか…」
「フィンブル伯爵家で乗っていたけど、お兄様と一緒だったから……1人では乗ったことないわ」

 馬に乗る機会など滅多にない、特に女性である私達は尚更だった。

「そうか…いや、仕方がないか」

 がっくりと頭を落としたアイザックに問いかける。

「一体どうしたのですか?」と。

「実は…俺は昔から乗馬が苦手でな、いや…だからといって困ることはなかったのだが…」

 言いよどみ、言葉に詰まった様子のアイザックの彼らしくない態度に首をかしげていると隣にいたエリザが思い出したように声を上げた。

「もしかして……二ヶ月後の騎乗競技会に参加しようとしているんじゃ」

 騎乗競技会とは全学年が参加できる乗馬レースの大会であり、学園でのイベントの一つでもあり、それにアイザックが参加するのではというエリザの予想は当たっていたようで、アイザックは頷きながらも困った表情を浮かべていた、騎乗競技会に参加しようというのに馬に乗れないのでは話にならないからだろう。
 しかし、なぜ馬に乗れないのにわざわざ参加するのだろう?と疑問に思っているとエリザがニヤリと笑って私に耳打ちしてきた。

「良かったじゃない、高等部三年生の男子生徒にとっては最後の見せ場のような舞台よ、男子生徒達の間では競技会で優秀賞を取れば恋仲の相手に想いを告げる伝統もあるんだよ?無理して参加したいのってそれが理由でしょう?デイジー」


 そんな事をしなくても…そう思ったが彼の本意を考えると少し赤面をしてしまう、そうまでして気持ちを伝えたいという心意気に嬉しいと思う私がいるのもまた事実だ。
 
 
「そ……そこでだ、俺のこの悩みを解決してくれると言ってくれた者がいるのだが……1人ではいささか不安でついてきてくれないかと思ってな」

 アイザックに助言をした人物が誰なのか、私は少しだけ考えたやがて思い出した。
 そうだ、馬の扱いであれば協力したいと言っていた人物がいた気がする、アイザックの言っているのはきっとその人物だろう………それにしても、まるで導かれるようにその人物の元へと向かう事になりそうだ。


 まるでそう仕組んでいたように、何か月も前からの仕込みかのように私達はその人物と自然と関わる事になっている。
 
 もし、最初の出会いが意図的であれば?
 もし、アイザックが騎乗できないと知っていれば?

 
 考えすぎか…そう思いながらも私は今から会いに行く人物を少しだけ疑うことにした。 
 


















   ◇◇◇

マキナside


「よく来てくれました、皆さん…この間のお詫びをしたかったのです!」


 本当によく来てくれた…これで計画を進める事が出来るだろう、全ては彼らに取り入るために最初の事件も引き起こしたのだ。
 わざわざ手間をかけたのだ、気絶した彼らを処理しようと思えば簡単に出来たがわざわざ寮に運んだのはあくまでも標的はデイジーのみであり、彼らはそのために利用価値がある。
 ローザ様が不用意に彼らに接触してしまったために持っていた記憶処理剤を使ってしまったのだ。
 来てくれなくては困る。
 それにしても彼らの顔を見れば疑いさえ持っていない…記憶処理剤は不安定だが良く効いてくれているようだ。


「マキナ、無理を言ってすいません…実はアイザックに乗馬を教えて頂きたくて」


 何も知らずに頭を下げるデイジーに僕は微笑みながら「喜んで」と許諾する、これからゆっくりと彼らに取り入っていこう…全ては…計画のために…ローザ様のため。







 迷いがないと言えば嘘になる…しかし僕はこのために生きてきた。
 ローザ様が人生をかけて夢を叶えるため、保険の一つとして僕を凶刃に育てた。









––そしてようやく僕の生きてきた意味が生まれたのだ…デイジーを殺すという目的が。



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