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朝日の昇らぬ程の時間、僅かに辺りを照らす陽光を頼りに2人の女性が下を向いて周囲を見渡している、その足取りはフラフラと危なかしく、酷く憔悴した声で1人が口を開いた。
「ない、ないよ…どうしよう…エリザ」
「落ち着いてモネ、舞踏会では身に付けていたのだから…学園と寮までの道中には必ずあるはずよ」
エリザは落ち込んでいたモネを励ましながら自分も下を向いて何かを探し出す、モネの瞳は涙で潤んでおり、時折鼻を鳴らして涙を拭っている。
(こうなっているだろうと、早めに外に出ていて良かった…)
私は足早に下を向いて歩いていた2人に近寄って声をかける。
「どうかしましたか?」
「ひゃ!!」
「っ!?」
「お、落ち着いてください2人とも」
まだ辺りはうす暗いために驚くのも無理はないだろう、私は飛び上がったモネの背中を優しくさすって落ち着かせる、エリザは明らかに動揺しており、何処か気まずそうに私から視線を外していた。
「こんな早い時間に何をしていたのですか?」
問いかけにモネは沈黙し、代わりのようにエリザが口を開いた。
「な、なんでもないわ…少し早めに散歩でもと…ね!モネ!」
「………」
俯いているモネを見ると明らかに散歩といった気分ではない、と言っても私は少し意地悪をしていた……なぜ2人がこんなにも朝早くに下を向いて歩いていたか、その理由を知っていたからだ。
「…ごめんなさい、少し意地悪でしたね………モネ、これを落としていましたよ」
私は昨日の晩に中庭で見つけたブローチを手渡した、それは私がモネにあげた物であり、彼女が大切にしていた物だ。
「っ!!!デイジー!ごめんなさい!………ありがとう!」
ブローチを見た瞬間に明るい表情に変わり、大切そうに胸に抱いた彼女を見て一安心する…それにしても妙だった。
「モネ、ブローチを落とすなんて昨日は一体何があったのですか?中庭に落ちていましたが……貴方がこのブローチを大切にしてくれていたのは私がよく知っています、道に落とせば気付くはずだと思いましたが」
「うん………実は、昨日は疲れていたみたいで…寮に着くまで記憶があやふやなの、気付いたら寮の玄関口で腰掛けて寝ていて……慌てて自室に戻ったの」
「私もモネと同じタイミングで起きた、いくら疲れていたと言っても記憶があやふやになる程に憔悴していたとはね…恥ずかしいわね」
モネとエリザの言葉を聞いて、私は明らかにおかしな話に首をかしげる…2人して記憶が曖昧になっている、それに幾ら昨日の出来事は衝撃的だったとはいえ、気付けば寮の前で寝ていたなんて事があるのだろうか…。
しかし、2人とも噓をついているようには見えない、言っている事は本当なのだろう。
「とりあえず…まだ朝は早いので今は寮に帰りましょう…アイザックにも聞いてみます」
そう言って、私達は寮へと戻って行く…アイザックは2人と一緒に帰っていたはずだ、彼は日々鍛錬しているので少しの事で記憶が飛ぶほどに疲れたりはしないだろう、詳しい内容は彼に聞けば分かるだろう。
と、思っていたのだが。
「すまない!!俺も昨日の記憶が飛んでいるのだ…どうも舞踏会の会場を出た後が覚えていなくてな……気付いたら自室で寝ていたのだ」
学園へと向かう道中、いつものようにアイザックは私達を待ってくれていたので昨日について聞いてみたが、返ってきた答えは先の言葉であった。
「貴方もだったのですね…しかし3人が記憶を無くして帰路に着くなんて…不可解です」
「情けない…日々鍛えていたというのに学友の帰路さえ見届けられぬ腑抜けだったとは!!」
「アイザック、貴方は落ち込み過ぎですよ…皆は無事なのですから気にしないでください」
不思議な事ではある、しかし誰も記憶に残っておらず情報は何もない…幸運にも3人とも身体に異常はない、そこには安堵する。
聞いた情報を整理しても、あまり分かることはない…いや、たった一つだけ分かる事はあったのだけど…今は誰にも言わないでおく。
それに、下手に3人の不安を煽ってもどうしようもない。
「とりあえず…3人とも無事で良かったです…今回の事は疲れていたのでしょう、昨日はそれ程の衝撃でしたので……しかし気を付けてくださいね」
「わ、私…これからは気を付けるよ、もう二度とブローチを落としたりしない!」
「そうね、フィンブル家としてこれ以上の醜態は晒せない…私もこれまで以上に気を付けないと」
モネとエリザはお互いに頷き、これからの生活を気を付けるように意識していた…しかし問題があるとすれば、彼だ。
「………、俺はデイジーの学友さえも守れぬ腑抜けだったのか?日々の鍛錬を活かす事が出来ねば無駄と同じだぞ!アイザック!」
落ち込み過ぎですよ、アイザック…。
自分自身を𠮟責する彼に、背中を叩き励ます。
「考え過ぎですよ、貴方は明快に明るい性格が素敵なのですから、あまり落ち込まないでください」
「す…!素敵だ…と!?」
……?
私からするりと出てきた励ましの言葉、自分自身で動揺してしまう…素敵だと言うつもりはなかったのだけど、滑ってしまった言葉に首を傾げる。
どうして…私は素敵だと言ったのだろうと…。
だが、考えている暇もなく目の前のアイザックはいつも通りの笑顔になった、その頬は赤らんでおり、何処か気恥ずかしそうにしていた。
「嬉しいぞデイジー!やはり俺の事を考えてくれていたのだな!!」
「貴方だけではなく、モネやエリザの事も考えていますけどね…」
「しかし!!この失態を何かで償わせて欲しい!何か出来ないだろうかデイジー!」
「話を聞いてくださ…いや、いいです…」
気分が戻ったら、それはそれで面倒な事もあるアイザックに苦笑しながらも私はとあるお願いがある事に気づいた、ちょうど安心のために男手が必要であったのだ。
「では、アイザック…少しだけお願いがあります」
微笑んだ私の言葉に、彼は自信に満ち溢れた笑みと共に言葉を待った。
「ない、ないよ…どうしよう…エリザ」
「落ち着いてモネ、舞踏会では身に付けていたのだから…学園と寮までの道中には必ずあるはずよ」
エリザは落ち込んでいたモネを励ましながら自分も下を向いて何かを探し出す、モネの瞳は涙で潤んでおり、時折鼻を鳴らして涙を拭っている。
(こうなっているだろうと、早めに外に出ていて良かった…)
私は足早に下を向いて歩いていた2人に近寄って声をかける。
「どうかしましたか?」
「ひゃ!!」
「っ!?」
「お、落ち着いてください2人とも」
まだ辺りはうす暗いために驚くのも無理はないだろう、私は飛び上がったモネの背中を優しくさすって落ち着かせる、エリザは明らかに動揺しており、何処か気まずそうに私から視線を外していた。
「こんな早い時間に何をしていたのですか?」
問いかけにモネは沈黙し、代わりのようにエリザが口を開いた。
「な、なんでもないわ…少し早めに散歩でもと…ね!モネ!」
「………」
俯いているモネを見ると明らかに散歩といった気分ではない、と言っても私は少し意地悪をしていた……なぜ2人がこんなにも朝早くに下を向いて歩いていたか、その理由を知っていたからだ。
「…ごめんなさい、少し意地悪でしたね………モネ、これを落としていましたよ」
私は昨日の晩に中庭で見つけたブローチを手渡した、それは私がモネにあげた物であり、彼女が大切にしていた物だ。
「っ!!!デイジー!ごめんなさい!………ありがとう!」
ブローチを見た瞬間に明るい表情に変わり、大切そうに胸に抱いた彼女を見て一安心する…それにしても妙だった。
「モネ、ブローチを落とすなんて昨日は一体何があったのですか?中庭に落ちていましたが……貴方がこのブローチを大切にしてくれていたのは私がよく知っています、道に落とせば気付くはずだと思いましたが」
「うん………実は、昨日は疲れていたみたいで…寮に着くまで記憶があやふやなの、気付いたら寮の玄関口で腰掛けて寝ていて……慌てて自室に戻ったの」
「私もモネと同じタイミングで起きた、いくら疲れていたと言っても記憶があやふやになる程に憔悴していたとはね…恥ずかしいわね」
モネとエリザの言葉を聞いて、私は明らかにおかしな話に首をかしげる…2人して記憶が曖昧になっている、それに幾ら昨日の出来事は衝撃的だったとはいえ、気付けば寮の前で寝ていたなんて事があるのだろうか…。
しかし、2人とも噓をついているようには見えない、言っている事は本当なのだろう。
「とりあえず…まだ朝は早いので今は寮に帰りましょう…アイザックにも聞いてみます」
そう言って、私達は寮へと戻って行く…アイザックは2人と一緒に帰っていたはずだ、彼は日々鍛錬しているので少しの事で記憶が飛ぶほどに疲れたりはしないだろう、詳しい内容は彼に聞けば分かるだろう。
と、思っていたのだが。
「すまない!!俺も昨日の記憶が飛んでいるのだ…どうも舞踏会の会場を出た後が覚えていなくてな……気付いたら自室で寝ていたのだ」
学園へと向かう道中、いつものようにアイザックは私達を待ってくれていたので昨日について聞いてみたが、返ってきた答えは先の言葉であった。
「貴方もだったのですね…しかし3人が記憶を無くして帰路に着くなんて…不可解です」
「情けない…日々鍛えていたというのに学友の帰路さえ見届けられぬ腑抜けだったとは!!」
「アイザック、貴方は落ち込み過ぎですよ…皆は無事なのですから気にしないでください」
不思議な事ではある、しかし誰も記憶に残っておらず情報は何もない…幸運にも3人とも身体に異常はない、そこには安堵する。
聞いた情報を整理しても、あまり分かることはない…いや、たった一つだけ分かる事はあったのだけど…今は誰にも言わないでおく。
それに、下手に3人の不安を煽ってもどうしようもない。
「とりあえず…3人とも無事で良かったです…今回の事は疲れていたのでしょう、昨日はそれ程の衝撃でしたので……しかし気を付けてくださいね」
「わ、私…これからは気を付けるよ、もう二度とブローチを落としたりしない!」
「そうね、フィンブル家としてこれ以上の醜態は晒せない…私もこれまで以上に気を付けないと」
モネとエリザはお互いに頷き、これからの生活を気を付けるように意識していた…しかし問題があるとすれば、彼だ。
「………、俺はデイジーの学友さえも守れぬ腑抜けだったのか?日々の鍛錬を活かす事が出来ねば無駄と同じだぞ!アイザック!」
落ち込み過ぎですよ、アイザック…。
自分自身を𠮟責する彼に、背中を叩き励ます。
「考え過ぎですよ、貴方は明快に明るい性格が素敵なのですから、あまり落ち込まないでください」
「す…!素敵だ…と!?」
……?
私からするりと出てきた励ましの言葉、自分自身で動揺してしまう…素敵だと言うつもりはなかったのだけど、滑ってしまった言葉に首を傾げる。
どうして…私は素敵だと言ったのだろうと…。
だが、考えている暇もなく目の前のアイザックはいつも通りの笑顔になった、その頬は赤らんでおり、何処か気恥ずかしそうにしていた。
「嬉しいぞデイジー!やはり俺の事を考えてくれていたのだな!!」
「貴方だけではなく、モネやエリザの事も考えていますけどね…」
「しかし!!この失態を何かで償わせて欲しい!何か出来ないだろうかデイジー!」
「話を聞いてくださ…いや、いいです…」
気分が戻ったら、それはそれで面倒な事もあるアイザックに苦笑しながらも私はとあるお願いがある事に気づいた、ちょうど安心のために男手が必要であったのだ。
「では、アイザック…少しだけお願いがあります」
微笑んだ私の言葉に、彼は自信に満ち溢れた笑みと共に言葉を待った。
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