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学園長室の扉は一見して質素であり、とても学園を代表する者の部屋へと繋がっているようには見えない、だがそれもアメリア学園長の好みの一つなのだろうと思い、扉を数回ノックする。
「入りなさい」
「失礼します、アメリア学園長」
入室すると、山のような書物が書棚に綺麗に整理されている、対称的にアメリア学園長が座り、筆を走らせている机は書類が積まれており、埋もれそうな程だった。
「汚くて申し込ないわね、東の国の視察中でも仕事は待ってくれないから…」
「いえ、問題ありません…お忙しい事はよく分かっておりますので…」
「ありがとう、早速だけど聞かせてもらおうかしら?」
アメリア学園長は机の上で走らせていた筆を止め、引き出しを開けて一枚の手紙を机の上に投げかける、それは私には見覚えがあった…なぜなら舞踏会の開催前に講師に無理を言って出した手紙であったからだ。
「この手紙…送ったのは貴方ねデイジーさん」
「ええ、その通りです…アメリア学園長」
手紙の内容は簡潔であった、私の名義と短い一文……【学園に早急に戻られよ】という学生が送るにはあまりにも失礼な文を送っていた、しかしアメリア学園長はこの文の通りにこの学園まで戻って来てくれていた。
「失礼な手紙を送ったのは承知しております、しかしアメリア学園長はこうした方が来てくれると思っていました…噂では生徒一人一人の性格を知っていると聞いておりましので」
「……その通りね…貴方は大人しく性格と知っていたからこそ、この失礼な文を読んで何かが起きていると思って東の国から帰ってきたのよ…想像とは違った騒ぎだったけどね」
アメリア学園長は苦笑しつつ腰掛けていた椅子の背もたれに体重を預ける、警戒はしていない…きっと私が何かを目的に手紙を送った事を察しているのだろう、此度の騒ぎはただのきっかけに過ぎないと。
アメリア学園長は口を開いた。
「まずは私の質問に答えてもらおうかしらデイジー…貴方とランドルフ王子は婚約関係だった…なぜここまでこじれているの?」
「………知っていたのですね、私とランドルフの関係を」
「気持ち悪いかもしれないけど、生徒達の関係性をよく知っておくのも教育には必要なのよ…もちろん、私と一部の口の堅い講師だけが知っている事で、ここでの話も外部には漏れない事を約束するわ」
「人に教える事は大変な事ですね、では……今期が始まる前にランドルフが開いた懇親会からのお話をさせて頂きます」
私は懇親会での出来事を包み隠さずに話した、王妃として発表される直前にランドルフがローザを恋してしまい捨てられてしまった事を、一回目の人生についての記憶は一切話していない、どうせ信じられないだろうし、もし明かした時に研究対象として今の学園生活を過ごせなくなる事へのリスクも怖く感じた、ようやく楽しいと思えたのだから手放したくない。
「それで、王妃教育を受けていた人生が全て無駄にされた気がして…言いました、二度と私に関わらないで…と」
「なるほど………」
アメリア学園長は一冊の本を取り出して内容を吟味しながら、ぽつぽつと呟く。
「デイジー・ルドウィン………ルドウィン伯爵家令嬢で成績は1、2年生共に優秀、授業では意見はあまり言わずに内気な性格、友達らしき人物もおらず、弱気な性格で自分の意見を言うのは苦手、少しの失敗で落ち込みやすい……貴方の学園での過ごし方を見聞きして、私が分析した貴方の性格です…」
そう言って学園長は、バサリと本を乱雑に机の上に置いて私を見つめる。
「まるで違うわね、何かを経験したように………いえ、話を聞けば既に懇親会での出来事を知っていたような対応ですね?デイジー」
「………失礼ながら、アメリア学園長の分析能力が間違っていた可能性もあるのでは?」
反論をしながら、私は内心の驚きを隠せずに冷や汗を流す、一回目の人生での出来事を知っている事を隠している事を見透かしたような分析、蛇が私の噓を逃さないといったように巻き付いているような苦しさを感じる。
「あら?暑いのかしら………それともその汗は動揺?」
「私が懇親会での出来事を知っていたと思った理由を教えていただいても?」
「簡単、まるで悲しんでいないからよ………王妃教育は厳しい、学園との両立なんて並大抵の根性がなければ不可能…それが出来たのは紛れもなくランドルフ王子を愛していたから………なのに貴方はまるで悲しむ様子がない、まるでもう悲哀を澄ましたように」
「…………」
何も言えない、確かに私は一回目の人生を過ごしているからこそ悲しみを一切感じずに過ごしていた…だからこそその姿はかつての私の努力と愛への矛盾に等しい。
沈黙となってしまった私を見て、アメリア学園長は微笑を浮かべながら許すように話す。
「尋問のような真似をしてごめんなさいね、何か隠し事がありそうで気になったの……言えない事なら大丈夫よ、でもいつか言いたいことがあれば正直に言ってちょうだい」
意図的に見逃してくれたのかもしれない、私は正直に言えない事に若干の罪悪感を感じながらも頷く。
「はい……ありがとうございます」
「それじゃあ、貴方とランドルフの関係は分かったわ…先程の舞踏会での経緯を見るに、恐らく王妃教育を終了し王妃の素質のある貴方を捨てた事実をうやむやにする気のようねランドルフ王子は」
「私も…そう思っています」
「退学にでも追い込んで王妃の素質は無かったとでも言うつもりかしらね?………馬鹿らしいけど諸侯貴族達からの不信感を持たれないようにするにはそれしかないわね」
そこまで言って、アメリア学園長は頭に手を当てながら………大きなため息を吐いた。
「そうして、ガーランド講師を懐柔してあの騒ぎと…私は未熟ね、理念を追うばかりで足元さえ不安定なのだから」
「2人はどのような処罰を受けるのですか?」
「あなたには残念だけどランドルフ王子については数日の謹慎のみの対応よ…演奏曲を変えさせる指示だけでは重い処罰は与えられない、あの騒ぎも単なる喧嘩扱いね、学園の立場としては生徒は保護の対象……個人的な私怨での言い合いでは処罰なんてできないわ………」
「そうですか……」
予想の範囲内の処罰だけど、実際にはランドルフはそれ以上の痛手を受ける事になる、それはアメリア学園長も分かっていたようだ。
「まぁ、といってもランドルフ王子には厳しい風が吹くことは確実ね…一国の王子が貴方を貶めようとしたのだもの」
それもそうだろう、ランドルフが自滅してくれたおかげで彼の学園での評判は右肩下がりだ。
アメリア学園長から、さらに言葉が続けられる。
「ガーランド講師については残念だけど講師を下りてもらう…講師として生徒を貶める選択をした、それは許されない事よ………彼自身も講師として職を下りる事を決意しているわ」
「私は気にしておりませんが…最後にはエリザの説得で罪を認めてくれたので」
「そう言ってくれるとありがたいわ、もちろん……私も易々と優秀な人材を見逃すつもりはない、フィンブル伯爵家に取り合い、今回の件の責任を取る形で東の国へ行ってもらうわ…彼は講師以外にも研究者としての知識も優秀だし…東の国は私の目指した理念に近い国、きっと彼も新たな考えを持ってくれるわ」
「それは…エリザも喜ぶと思います」
「それなら良かったわ、事情も聞いたし彼らの処罰も決まりました………お話は終わりと言いたい所だけど貴方のお話を聞かないといけないわね」
アメリア学園長は私に視線を向け問いかける、私も微笑みながら言葉を返した。
「ええ、私もその時を待っていました…とある取引をしてもらいたいのです」
「取引……断る権利はあるのかしら?」
「もちろんありますよ?その時はルドウィン家から正式に此度の件を学園側に抗議いたします、先ほどは気にしていないと言いましたけど、学園関係者の講師が女生徒を貶めようとする…これって大きな問題ですよね?」
「貴方………まさかこうなると踏んで全てを進めていたの?あの騒ぎも予想して………」
「ええ、周囲に助けられた部分は大きいですが」
アメリア学園長はゴクリと私を見ながら息を吞む、全てを察していたわけではないが大方の予想通りであったことは確かだ、そしてこうしてアメリア学園長に対して優位をとるために敢えて舞踏会の嫌がらせを受けたのも功を奏している。
アメリア学園長は額に流した汗を拭いながら口を開いた。
「なるほど、確かにルドウィン家から正式に抗議されれば学園にとっても大きな痛手ね……内々で問題を収めようとしていたけど公にされては私自身の責任問題にもなりかねない」
「ええ、それでアメリア学園長には協力して欲しいので……」
私の言葉を遮り、アメリア学園長は言葉を挟み込む。
「殺し、暴力といった事は幾ら脅されても引き受けないわ、例え学園長を辞める事になろうと下衆な提案を受け入れる気はない」
凛として言い放ったアメリア学園長はやはり教育者でこの学園の代表者だ、自身の進退など気にせずに悪には手を染めないといった覚悟を感じる。
しかし……安心して欲しい……私の考えている事、それは平和で血が流れない復讐なのだから。
「安心してくださいアメリア学園長…私も悪人になる気はありません……そうですね、まずは目的からお話しましょうか?」
アメリア学園長の息を吞む声が聞こえる中で私はゆっくりと話す。
この先に思い浮かべている、私自身の目的を。
「私の目的は王家の瓦解………つまりこの王国を潰す事です」
淡々と言い放った私の言葉にアメリア学園長は冷や汗を流しながら、信じられないといった様子で「もう一度聞いていいかしら?」と尋ねた。
「入りなさい」
「失礼します、アメリア学園長」
入室すると、山のような書物が書棚に綺麗に整理されている、対称的にアメリア学園長が座り、筆を走らせている机は書類が積まれており、埋もれそうな程だった。
「汚くて申し込ないわね、東の国の視察中でも仕事は待ってくれないから…」
「いえ、問題ありません…お忙しい事はよく分かっておりますので…」
「ありがとう、早速だけど聞かせてもらおうかしら?」
アメリア学園長は机の上で走らせていた筆を止め、引き出しを開けて一枚の手紙を机の上に投げかける、それは私には見覚えがあった…なぜなら舞踏会の開催前に講師に無理を言って出した手紙であったからだ。
「この手紙…送ったのは貴方ねデイジーさん」
「ええ、その通りです…アメリア学園長」
手紙の内容は簡潔であった、私の名義と短い一文……【学園に早急に戻られよ】という学生が送るにはあまりにも失礼な文を送っていた、しかしアメリア学園長はこの文の通りにこの学園まで戻って来てくれていた。
「失礼な手紙を送ったのは承知しております、しかしアメリア学園長はこうした方が来てくれると思っていました…噂では生徒一人一人の性格を知っていると聞いておりましので」
「……その通りね…貴方は大人しく性格と知っていたからこそ、この失礼な文を読んで何かが起きていると思って東の国から帰ってきたのよ…想像とは違った騒ぎだったけどね」
アメリア学園長は苦笑しつつ腰掛けていた椅子の背もたれに体重を預ける、警戒はしていない…きっと私が何かを目的に手紙を送った事を察しているのだろう、此度の騒ぎはただのきっかけに過ぎないと。
アメリア学園長は口を開いた。
「まずは私の質問に答えてもらおうかしらデイジー…貴方とランドルフ王子は婚約関係だった…なぜここまでこじれているの?」
「………知っていたのですね、私とランドルフの関係を」
「気持ち悪いかもしれないけど、生徒達の関係性をよく知っておくのも教育には必要なのよ…もちろん、私と一部の口の堅い講師だけが知っている事で、ここでの話も外部には漏れない事を約束するわ」
「人に教える事は大変な事ですね、では……今期が始まる前にランドルフが開いた懇親会からのお話をさせて頂きます」
私は懇親会での出来事を包み隠さずに話した、王妃として発表される直前にランドルフがローザを恋してしまい捨てられてしまった事を、一回目の人生についての記憶は一切話していない、どうせ信じられないだろうし、もし明かした時に研究対象として今の学園生活を過ごせなくなる事へのリスクも怖く感じた、ようやく楽しいと思えたのだから手放したくない。
「それで、王妃教育を受けていた人生が全て無駄にされた気がして…言いました、二度と私に関わらないで…と」
「なるほど………」
アメリア学園長は一冊の本を取り出して内容を吟味しながら、ぽつぽつと呟く。
「デイジー・ルドウィン………ルドウィン伯爵家令嬢で成績は1、2年生共に優秀、授業では意見はあまり言わずに内気な性格、友達らしき人物もおらず、弱気な性格で自分の意見を言うのは苦手、少しの失敗で落ち込みやすい……貴方の学園での過ごし方を見聞きして、私が分析した貴方の性格です…」
そう言って学園長は、バサリと本を乱雑に机の上に置いて私を見つめる。
「まるで違うわね、何かを経験したように………いえ、話を聞けば既に懇親会での出来事を知っていたような対応ですね?デイジー」
「………失礼ながら、アメリア学園長の分析能力が間違っていた可能性もあるのでは?」
反論をしながら、私は内心の驚きを隠せずに冷や汗を流す、一回目の人生での出来事を知っている事を隠している事を見透かしたような分析、蛇が私の噓を逃さないといったように巻き付いているような苦しさを感じる。
「あら?暑いのかしら………それともその汗は動揺?」
「私が懇親会での出来事を知っていたと思った理由を教えていただいても?」
「簡単、まるで悲しんでいないからよ………王妃教育は厳しい、学園との両立なんて並大抵の根性がなければ不可能…それが出来たのは紛れもなくランドルフ王子を愛していたから………なのに貴方はまるで悲しむ様子がない、まるでもう悲哀を澄ましたように」
「…………」
何も言えない、確かに私は一回目の人生を過ごしているからこそ悲しみを一切感じずに過ごしていた…だからこそその姿はかつての私の努力と愛への矛盾に等しい。
沈黙となってしまった私を見て、アメリア学園長は微笑を浮かべながら許すように話す。
「尋問のような真似をしてごめんなさいね、何か隠し事がありそうで気になったの……言えない事なら大丈夫よ、でもいつか言いたいことがあれば正直に言ってちょうだい」
意図的に見逃してくれたのかもしれない、私は正直に言えない事に若干の罪悪感を感じながらも頷く。
「はい……ありがとうございます」
「それじゃあ、貴方とランドルフの関係は分かったわ…先程の舞踏会での経緯を見るに、恐らく王妃教育を終了し王妃の素質のある貴方を捨てた事実をうやむやにする気のようねランドルフ王子は」
「私も…そう思っています」
「退学にでも追い込んで王妃の素質は無かったとでも言うつもりかしらね?………馬鹿らしいけど諸侯貴族達からの不信感を持たれないようにするにはそれしかないわね」
そこまで言って、アメリア学園長は頭に手を当てながら………大きなため息を吐いた。
「そうして、ガーランド講師を懐柔してあの騒ぎと…私は未熟ね、理念を追うばかりで足元さえ不安定なのだから」
「2人はどのような処罰を受けるのですか?」
「あなたには残念だけどランドルフ王子については数日の謹慎のみの対応よ…演奏曲を変えさせる指示だけでは重い処罰は与えられない、あの騒ぎも単なる喧嘩扱いね、学園の立場としては生徒は保護の対象……個人的な私怨での言い合いでは処罰なんてできないわ………」
「そうですか……」
予想の範囲内の処罰だけど、実際にはランドルフはそれ以上の痛手を受ける事になる、それはアメリア学園長も分かっていたようだ。
「まぁ、といってもランドルフ王子には厳しい風が吹くことは確実ね…一国の王子が貴方を貶めようとしたのだもの」
それもそうだろう、ランドルフが自滅してくれたおかげで彼の学園での評判は右肩下がりだ。
アメリア学園長から、さらに言葉が続けられる。
「ガーランド講師については残念だけど講師を下りてもらう…講師として生徒を貶める選択をした、それは許されない事よ………彼自身も講師として職を下りる事を決意しているわ」
「私は気にしておりませんが…最後にはエリザの説得で罪を認めてくれたので」
「そう言ってくれるとありがたいわ、もちろん……私も易々と優秀な人材を見逃すつもりはない、フィンブル伯爵家に取り合い、今回の件の責任を取る形で東の国へ行ってもらうわ…彼は講師以外にも研究者としての知識も優秀だし…東の国は私の目指した理念に近い国、きっと彼も新たな考えを持ってくれるわ」
「それは…エリザも喜ぶと思います」
「それなら良かったわ、事情も聞いたし彼らの処罰も決まりました………お話は終わりと言いたい所だけど貴方のお話を聞かないといけないわね」
アメリア学園長は私に視線を向け問いかける、私も微笑みながら言葉を返した。
「ええ、私もその時を待っていました…とある取引をしてもらいたいのです」
「取引……断る権利はあるのかしら?」
「もちろんありますよ?その時はルドウィン家から正式に此度の件を学園側に抗議いたします、先ほどは気にしていないと言いましたけど、学園関係者の講師が女生徒を貶めようとする…これって大きな問題ですよね?」
「貴方………まさかこうなると踏んで全てを進めていたの?あの騒ぎも予想して………」
「ええ、周囲に助けられた部分は大きいですが」
アメリア学園長はゴクリと私を見ながら息を吞む、全てを察していたわけではないが大方の予想通りであったことは確かだ、そしてこうしてアメリア学園長に対して優位をとるために敢えて舞踏会の嫌がらせを受けたのも功を奏している。
アメリア学園長は額に流した汗を拭いながら口を開いた。
「なるほど、確かにルドウィン家から正式に抗議されれば学園にとっても大きな痛手ね……内々で問題を収めようとしていたけど公にされては私自身の責任問題にもなりかねない」
「ええ、それでアメリア学園長には協力して欲しいので……」
私の言葉を遮り、アメリア学園長は言葉を挟み込む。
「殺し、暴力といった事は幾ら脅されても引き受けないわ、例え学園長を辞める事になろうと下衆な提案を受け入れる気はない」
凛として言い放ったアメリア学園長はやはり教育者でこの学園の代表者だ、自身の進退など気にせずに悪には手を染めないといった覚悟を感じる。
しかし……安心して欲しい……私の考えている事、それは平和で血が流れない復讐なのだから。
「安心してくださいアメリア学園長…私も悪人になる気はありません……そうですね、まずは目的からお話しましょうか?」
アメリア学園長の息を吞む声が聞こえる中で私はゆっくりと話す。
この先に思い浮かべている、私自身の目的を。
「私の目的は王家の瓦解………つまりこの王国を潰す事です」
淡々と言い放った私の言葉にアメリア学園長は冷や汗を流しながら、信じられないといった様子で「もう一度聞いていいかしら?」と尋ねた。
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