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ローザside


「まずローザさん…貴方のお話は最初から違和感がありました」

 モネは思い出すように、私に語りかける。

「ランドルフ様に振られたと言っていましたが、あの懇親会での様子はどちらかと言えばデイジーさんが振っていたように見えましたよ?」

「モネの言う通りね、私達なんて悪口を言っていたら言い負かされたんだから…振られて傷心したようにはどう考えても見えなかったわ」

「エリザ、あの後は顔真っ赤だったもんね」

「…!!わ、忘れなさいよ」

 確かにあの懇親会で最後に見た彼女の姿に悲壮感はなく、振られたようには見えなかった…しかしそれはランドルフの前だけで見せた偽りの威勢だと思っていたのに…まさか長年愛していたランドルフ様に捨てられても挫けもしない女性だったなんて。


「それに、お金にがめついと言っていましたが…デイジーの装飾品などは女性として好きな物を身につけるプライドからです、目立ちたいだとかお金に興味があるとは思えません…私なんて装飾品のブローチを頂いた程ですから」

 大事そうに胸元に留めているアメジストの宝石のブローチを握り締めるモネに、これ以上何を言っても聞く耳さえ持たない事は私でも分かった。

「ア、アイザック様はどうして嘘だとお思いですか?…貴方に近づいているのはマグノリア公爵家の爵位を見ているに違いありませんよ!」

「ふははは、そんな訳がなかろう!俺は一度言い寄って振られているのだぞ…笑い事ではないがな………だがいつか振り向かせてみせる!」

 自分で言いながら傷ついたように俯いたアイザックを見て、エリザは小声でモネに話しかける。

「あの2人って………そういう関係?」

「うーーん…デイジーはどう思ってるか分からないけどね」


 な…………学園でも1、2を争う美貌の持ち主と呼ばれているアイザックを振った?デイジーは何を考えているの?ランドルフ様への復讐が目的であればマグノリア公爵家以上の有力貴族はいないというのに……
 いや、よくよく考えてみれば………デイジーは一切の動きを見せていないじゃない、私やランドルフ様が勝手に自滅しているような状況……考え過ぎたの?でも懇親会で見せたあの瞳には確かに燃えるような怒りを感じた、なにも考えていないはずない。


「それで、君の言っている事は嘘だと証明できただろうか?……俺からも話があるのだが」

 言いかけたアイザックに私は近寄り、手を握り抱きつく…最終手段だ、この美貌で言い寄られて断る男はいない。

「お願いです、信じてくださいアイザック様……私はデイジーさんに脅された事もあるのです、どうして信じてくれないのですか?……アイザック様…お慕いしております、信じてください」

 涙を潤ませて、抱きついて頭を彼の胸に摺り寄せて懇願する。これで落ちない男はいなかった…私はそれ程の美貌を身につけている事は理解している、そしてそれこそが今世で与えられた私の武器だ。

「お願いします、アイザック様…デイジーさんに騙されないで」

 私は彼の耳元で甘い囁きを放つ、どんな意志の硬い男性であろうとこの甘美な囁きで私の味方になってくれた……アイザックも同様だ、私のほほに手を置いて笑いかけて…。




 くれずに、彼は私の口元を手で抑える。


「俺の話を聞け、笑っていられるのも限界だ…貴様の言葉は腹立たしい、女性でなければ殴りつけてやりたいほどにな…」


 な………なんで…。


「それ以上、俺が恋したデイジーを侮辱すれば口が開けないようにしてやる………二度とつまらぬ噓を吐くな、貴様の妄言など聞く価値すらない」


 ………こんなに美しい姿を手に入れたのに、もうとは違うはずなのに……なんで、私の夢を邪魔するの?もう幸せにさせてよ、ずっと願った夢を叶えさせてくれてもいいじゃない。
 どうして神様や運命は私をそこまで追い込むの?もう幸せになってもいいはずなのに…あれだけ苦しんだのに…

「聞いているのか?」

 あぁ…もう…もういいよ、運命がそうやって私を追い詰めるのなら…私も罪悪感や遠慮なんてしない。



「もう、面倒だよ貴方達…………」

「なにを………っ!?」

 私はすぅと息を吐いて、小さく呟いた。


「やって…」















「マキナ」




 暗闇の中から飛び出してきた腕、彼らを抑えて首筋に強い衝撃を与えて気絶させていく、まずは突然の出来事に動揺していたアイザックから…次に叫びそうになったエリザ、モネを瞬きの間に気絶させ、仕事を終えて黒髪をかき上げて笑ったマキナに感心しながら彼に話しかける。


「もう、面倒になっちゃったし…覚悟は決めたわ、夢を叶えるためにこの世界で遠慮なんてしてられない…デイジーを殺しましょう…マキナ」

「………本当によろしいのですか?ローザ様」

「ええ、覚悟は決まったわ……だから貴方は私のために動きなさい…分かったわねマキナ」

 私は闇夜に浮かぶ月を見ながら答えると、傍で膝をついたマキナは静かに「はい」と返事をする…アイザック達はいつも通りの処置をすればいい…彼らと話したのは愚策であったが、あやふやであった覚悟は決まった。


 もう、前世のようにはいかない…幸せのために…。
 念願の夢のために私は動き出さなければならない。

「デイジー、貴方に恨みはないけど私は今世では幸せにならないといけないの」

 たとえ、悪役令嬢なんて呼ばれても。

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