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ランドルフside

「学園の夜間舞踏会に一緒に出る?」

 ローザの提案に俺は言葉を返すように復唱すると彼女は頷きながら俺の手を握って包み込む、その仕草と可憐な表情にドキドキと胸が高鳴って子供の頃にデイジーに感じたような初恋の気持ちを思い出して緊張してしまう。
 しかし夜間舞踏会とは日々勉学に励む学生へのレクリエーションのようなもので実際に成績等に関係はなく、熱心に参加する学生はあまり少ない、なぜローザはそれに出たいと思ったのか…そんな疑問は続く彼女の言葉で消えてしまった。


「はい、私と出てくださいませんか?ランドルフ様以外に相手がいませんので、それにランドルフ様も踊ることで少しでも気が紛れればと…」

 なんと愛いのだろうか、舞踏会のダンス相手に俺を指名してくれるだけでも嬉しいのに…俺の心配までしてくれる彼女を思わず抱きしめたい強い欲求を抑えて頷きで返す。

「もちろんだローザ、俺も君となら参加したく思う」

「嬉しいですランドルフ様…此度の夜間舞踏会には講師のガーランド・フィンブル様が見に来られるとの事で参加希望者が大勢おられるようです」

 なるほど、ガーランド殿はフィンブル伯爵家出身の教育者だ…確か同学年のエリザという女性の兄だっただろうか、デイジーに突っかかっていたあの女性だ。
 彼女のフィンブル伯爵家は代々、他国との国交を結ぶ外交官として多くの功績を残してきており、ガーランド殿も次期当主としてその道に進むかと思われたがこの学園の講師を希望した。
 フィンブル伯爵家は当然反対をしており講師としての任期を過ぎて功績を残せなければ連れ戻さる事が噂されている、講師として実績をあげるなど困難どころか不可能に近い、つまりガーランド殿は次期フィンブル伯爵家の当主となる事が確約されている。


 当然、婚約者を狙って女性達の目つきは鋭く光るだろう…注目を集めるのも無理はない、しかしこれが俺にとっては大きな閃きとなり、思い浮かんだ名案に心が躍りローザに言葉をかける。


「ローザ、ガーランド講師が来て下さるのなら名案がある…どうせなら盛大な舞踏会にしようではないか」

「ランドルフ様?なにをお考えに?」

 俺はローザに自身の案を話すと彼女も明るい弾けた笑顔で同意の声を出す。

「とても良いと思います!しかし了承してくださるでしょうか?」

「無論、問題ないぞローザ……心配せずとも俺は交渉術に長けている、安心して舞踏会に向けて心を合わせようではないか」

 落ち込んでいた気分が澄み渡る空のように晴れ渡った、この計画がうまくいけばデイジーの評判はガタ落ち…上手くいけば周囲の取り巻き共も一網打尽に学園の爪弾き者にできるかもしれない。

「善は急げだ、俺は早速ガーランド講師と話し合ってくる」

「ええ、頑張ってくださいランドルフ様」


 俺は足早にガーランド講師を探しに歩き出した、昨日までの曇天だった気持ちを晴れやかな空とするために。



















   ◇◇◇

ローザside

 能天気な方だ、先程の話を聞いていて何をしようとしているか大方予想はついたが口出しも出来ないために応援する他ない。
 王子だというのに、思考や考えは幼稚で…どうして彼が王子なのかと嘆いてしまいたい。

 ランドルフが居なくなってから、周囲に人もおらず誰もいない事を確認して独り言のように声をだす。

「もうよろしいですよ」

 校舎の影となった部分から人が現れるがその顔は見せずに陰に埋もれたまま、器用なものだが昔から修練を積んで身につけた技術だと知っているために特に気にもせずに彼に視線を向ける。

「––––––––」

「ええ、あの方が私の夢なのです…デイジーに邪魔をされては迷惑なのですよ」

「––––」

「知っていますよ、確かに彼には倫理的な問題があるとは思います…でも長年の夢が叶う今となっては些事に過ぎません」

「………–––––」

「分かってくれればよろしいです、舞踏会に彼と出るのは周囲に私が彼に好かれていると知らしめるため、他の女達が手垢をつけようと迫る前から牽制するためですが、思った以上に彼はこちらの思う通りに進んでくれています」

「………………」

 無言でいる人影に向かって私は淡々と命令を行う、そこに可憐なオルレアン家の珠玉と呼ばれる女性はいないだろう、自覚している…今の私はまさに悪その者だ。

 「前世」の記憶をなぞり、物語に倣うのであれば…私こそがとでもいうのだろうか?
 

「貴方は命令通りに、接触があれば望むように進めてください…対応は任せます、しかし本来の狙いを忘れずに私の夢の邪魔になりそうであれば退学に追い込むか……最悪は」


「殺してくださいね?」


 前に言った言葉を今度は罪悪感さえ感じずに告げる、覚悟を決めてしまえば人の心は変わるものだ……心の芯まで悪に染まるのは簡単だ。

 
 言葉を告げると人影はまたも消えていき、残った私はただ一人で冷たい笑みを浮かべていた。


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