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モネside

「急に呼び出してなんのつもりよ、モネ…それになにその…………そばかすも化粧で隠してるの?必死ね」

 中庭に呼び出したエリザの前に立ち。私はデイジーが付けてくれたブローチを握る、覚悟を決めたはずなのにまだ手が震えてる……誰かに自分の本音をぶつける事がこんなに難しいなんて、怖い…怖い…………けど。

––思いっきりぶつけてきなさい、モネ。

 彼女がくれた言葉がそっと背中を押してくれたように、私の口からはスラスラと言葉が溢れた。

「隠してない…これが本当の私なの、エリザの前ではいつもわざと自分を偽ってただけ」

「隠してた?なにそれ…じゃあこれからも隠して生きててよ、あまり目立つ振る舞いみせるならモネとは一緒にいてあげないわよ、今まで隠してたなら問題ないよね?破ったら罰ね!カバン持ち、課題もやってよね………てか、さっきデイジーと一緒にどこか行ってたでしょ?友達の私を置いていくなんて最低だよね、罰として今日の課題は任せたわ」

「……………………」

 私が無言でいると、エリザは笑いながら言葉を続ける。

「分かるよねモネ。友達だもん、化粧に髪型もブローチも…調子に乗ってない?モネ……そのブローチは捨てて、明日からまた地味な格好でお願いね…私も学園で婚約者を探さないといけないし、友達なんだから…少しは気配りしてよね」

「…………で」

「は?なんて言ったの?モネ」

 私は大きく息を吸い込みながら、自分の想いや怒りを…溜まっていた全てをぶつけるように叫んだ。

「ふざけないでっ!!!」

 中庭に響いた私の声、周囲の視線は集まりざわめきが波となり数多くの瞳は騒ぎの張本人である私に注がれて、その中には奇怪な目で見るものもいた、いつもの私なら恥ずかしくて逃げ出していた…けど、そんな状況なのに怒りを初めて叫んだ私の心は真夏の澄み渡る青空のように晴れ晴れと、心地良く爽快な気分だ。

「い、いきなり大きな声で叫ばないでよ!」

「軽々しく友達なんて言わないで、もう終わりにしよう……こんな関係は友達なんかじゃない、利用されてるだけ」

「なに言ってるのよ、私とモネは仲良かったじゃない?」

「仲良くなんてない…便利なだけだったんだよね、エリザにとって私は便利な人形で、同じ人形が手に入れば捨てるなんて簡単だった」

 自分の言葉に情けなくて思わず涙がこぼれる、友達じゃなくてただ便利な人間だった私自身が惨めで悲しく思えてきた。
 こぼれる涙が頬を伝い、それでも俯きはせずに顔を上げてエリザを見つめる、彼女は本心を突かれたためか居心地の悪そうに視線を逸らしている。

「私はこれからは素直に生きるって決めたの…素直になった私とエリザは友達でいたくないと思うから……今日でこの偽りの友達関係を終わろう?……でも最後にデイジーに悪い事したのだから、一緒に謝りに行こう」

 水をかけたのは私ではあるが、命令したのはエリザ…だから一緒に謝罪をしてほしかったが、彼女は顔を赤くしながら怒りのまま詰め寄る。

「デイジーに何を吹き込まれたの知らないけど!もう友達じゃない貴方なんて必要ない!!絶交よ!……目障りなのよ、消えてちょうだい!!!」

 彼女は平手を私のほほに向けて勢いよく振り下ろす、あまりに突然の事で逃げることもできずに思わず瞳を閉じて痛みに備えて拳を握った。









 だが、私が予想していた痛みはいつまでも訪れることはなく……不思議に思ってゆっくりと瞳を開くと平手を受け止めて立つデイジーが目の前にいた。
 黒い髪が揺れて、綺麗な瞳は油断をしない獣のように私に手を上げようとしたエリザを睨みながら立っている。

「デイジー………」

「デイジー!!貴方、一体なんなのよ!貴方のせいでモネが変わった!貴方とモネなんて他人のくせに!」

 エリザが叫ぶようにデイジーを責める、私が素直になった事で彼女に起こった不都合の責任をデイジーに擦り付けるような自分勝手な言い分だったがデイジーは表情を一切変えることく当たり前のように一言呟く。

「他人ではありません、モネとは友達です……彼女が変わったのではなく、隠す事を辞めただけ、それが受け入れられないのですか?」

「っ!!」

 感情のままに癇癪を起こした子供のようなエリザは、毅然と振る舞うデイジーの圧にやはり子供のように沈黙で答えてしまっている、そんな子供のようなエリザをいくらでも責める事は出来たはず、なのにデイジーは視線を私に向けて口を開く。

「モネ、貴方も本当の事を言ってはどうですか?数年、ただ嫌な人物と友達関係を続ける事はできません……貴方にはまだ隠していた本心があるんじゃないのですか?」

 
 やっぱりすごいな……。


 デイジーは私が心の奥底に隠していた本当の気持ちを見透かしたように呟くと、エリザが振り上げて止めていた手を離し、距離を取って離れる……向かい合う私とエリザ……。
 エリザは少しだけ気まずそうに横目でいるが、私は再び彼女を見つめて口を開く。

「エリザ……私ね、本当は友達が辞めたい訳じゃないの」

「………なに言ってるの?嫌なんでしょ私といるの……ずっと本心を隠していたんでしょ?無理して友達だったんだよね、貴方も私の伯爵家の爵位目当てだったんでしょ!?」

「嫌だった……隠していたけど、それでもエリザと一緒にいたかったよ!」

「っ!!」

「入学当時のエリザはそんな嫌な子じゃなかった、1人だった私に話しかけてくれる優しい人だったよ……でも学園での自分の立場に気づいてエリザはどんどんおかしくなった……」

 涙をこぼしながら、私はエリザと出会ってからの記憶を思い出す。
 優しくて、頼りになった彼女は決して嫌な女性ではなかったけど…少しずつ伯爵家の娘という立場を理解してきた彼女はおかしく狂っていった、そしてそれを助長させたのは間違いなく私自身だ。
 彼女の態度に合わせて私自身もそれを利用して立場を守っていた。

「私のせいでもあるよね……ごめんなさい、私は友達を辞めたい訳じゃないの…また前のような優しいエリザに戻って欲しい………優しい貴方と友達でいたいの!」

 思いの丈を吐き出しながら私は泣きじゃくって俯いてしまい、エリザがどのような表情を浮かべているか分からないけど、彼女からの返事はなく無言の時間の中で私のすすり泣く声だけが聞こえる。

「素直になれましたね、モネ」

 優しく、そう言って私の肩に手を置いたデイジーは見たことがない慈愛に満ちたような表情で私の手を取る。

「今日は寮に帰りましょう、本心を吐き出す事は辛くもあります…ゆっくりと休みましょう」

「うん…ありがとうデイジー…」

 言われるがまま、無言のエリザの答えを待たずに私とデイジーは歩き出す、デイジーは一言だけ、私にではなく…黙って私達を見つめていたエリザに問いかけた。

「モネは素直に言えたわ……時間をかけて考えて、また貴方の答えを聞かせてくださいね」

「な、なに?これだけ言い合って、まだ友達に戻れると貴方は思ってるの!?」

 エリザの怒りの声は最もだった、私達の歪な関係は長すぎた…私の本音をぶつけて隠していた事も告げた今、友達関係に戻れる事はないと思う、だがデイジーは一切の躊躇なく答える。

「戻れますよ…きっと」

 ただ一言、答えたデイジーにエリザはそれ以上言い返す事はなく……私とデイジーは彼女を置いて寮へと戻っていった。




 夕陽が照らして、影が伸びていき薄暗くなっていく中で、すすり泣く私の背中を撫でてくれるデイジーに甘えるように私は身体を寄せる。

「なんで……私とエリザが友達に戻れると思うのですか?」

 思わず問いかけた言葉、彼女は落ちていく夕陽を眺めながらあっけらかんとして答えた。

「根拠なんてないわ……」


 「でも」と彼女は言葉を続けた。

「モネは泣いていて見えてなかったと思うけど、エリザも泣いていたから…きっと彼女にも考える時間があれば大丈夫…歪な関係だったけどお互いが完全に拒絶はしていない…ゆっくりと友達に戻ればいいのよ」

「…そうだね、きっと…また…」

 私は泣きながらも過去の記憶を思い出す、私はエリザが苦手で怖かったけど…それでも友達を続けていた理由は確かにある、色あせてしまったけど大切な記憶


––貴方、モネっていうのね!!
––私達、気が合いそう!友達になりましょう!
––私がずっとモネと一緒にいてあげる!だからずっと友達でいようね!





 エリザ………私達、きっとまた友達に戻れるよね……あの頃のように。

 




 











   ◇◇◇








ローザside

「見ましたか?あの女性です。」


 夕暮れ、陽の当らない薄暗い廊下で誰もいない事を確認した上で私は独りごとのように窓から見えるデイジーを見ながら呟いた。

「----------」

「ええ、貴方のお気持ちも分かります…ですが何かあってからでは遅いの、憂いは払っておきたいのです」

「----」

「辛い事をさせるのは承知しています、でも私がランドルフ王子と何事もなく結ばれるために脅威は無くしておきたい。」

 私は後戻りできない、もう前のような人生はごめんだ…ようやく掴みかけている長年の夢を叶えるために一切の油断もなく脅威は無くさなければいけない、だから…私は最低で最悪の頼みを伝える。


「私に受けた恩を返したいと言うのなら、お願いします……デイジーに少しでも怪しい動きやランドルフ王子の不利になる動きがあれば」

「---------」

 夕陽が完全に沈んで暗くなった校内で沈黙の中、私はその言葉を吐き出す緊張感と罪悪感からごくりと喉を鳴らして重い口を開いた。

「デイジーを殺してください…分かっていますね?」

「………………ーー」


 了承の言葉を最後に夕闇の中で私は1人になる、先程まで話していた相手は音もなく立ち去り、後に残った静寂に包まれた校内で私は自分に言い聞かせて呟いた。

「罪悪感なんて感じてられない、私はこの人生で夢を叶えるしかないの……」

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