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 ファルムンド王国に建立されたラインベル学園、建立されたのはおよそ30年前と年数は浅いが貴族、平民と分け隔てなく迎える姿勢から、今ではファルムンド王国を代表する学園となっている。
 学園の理念はただ一つ、「貴族、平民を平衡した線のように上下のない社会を作ること」…学園長であるアメリア・ラインズによって掲げられた理念と共に多くの民衆、一部の貴族達の協力の元に学園が設立されたが…その理念の実現は難しく、学園にはびこるのは逃れる事ができない貴族と平民の格差であった。





   ◇◇◇
 
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 学園の周囲には様々な花が綺麗に咲いており、風と共に心安らぐ匂いが鼻を通る、その匂いと共に私は先日起こった懇親会での出来事、そして言われた言葉を思い出す。


––ここから先の言葉は我がルドウィン家への侮辱として受け止めますが?

––私も貴方を責めたい訳じゃないのだから。

 黒い髪をかき上げ、綺麗な茶色の瞳で私達を睨みながら、悪意のこもった陰口に真っ向から立ち向かい、毅然とした態度を貫いて説き伏せてみせたデイジーを思い出す。

(かっこ良かった)

 私は、彼女に説き伏せられて何も言い返せなかった1人、私はきっと彼女のように悪口に対して言い返す事や、立ち向かう事なんてできないだろう、むしろ徒党を組んで人を罵る一員だ…彼女のようにかっこ良い女性になんてなれっこない…。

「……でさ、ねぇモネ?聞いてるの?」

「え!?あ!うん聞いてるよ!」

「ぼぉーっとして私の話を聞いてないなんて駄目ね、罰よ、荷物を持ってくれるよね?」

「え!………えっと…うん分かった……」

 私は友達であるエリザに言われるがまま、話をよく聞いていないといった理由で荷物を持たされる。
 高等部三年生としての新学期、久々に学園に通い学友達と共に勉学に励む日々が始まるのに私の気分は落ち込んでいた、高等部三年生とは学園では最年長であり、あと一年の修学で卒業となる。
 私と共に歩くエリザは高等部一年の頃からの友達なのだが……いや、友達と言えるか分からないが故に私の気持ちは落ち込んでいるのだろう。


「モネ、新学期が始まるけど…また課題は貴方がやってよね?友達なんだから」

「あ…あはは、うん課題は任せてよ」

「任せてよじゃないでしょ?やらせて欲しいと言ってほしいわ……貴方は肌の綺麗な私と違ってそばかすが目立っていて、しかも平民…本来なら隣にも立ってほしくないのよ?」

「そ、そうだよね…私もエリザみたいに可愛くなりたいな……あはは」

 これが友達なのだろうか?でも言い返す事なんてできない、彼女は伯爵家の令嬢であり、平民である私にとって雲の上のような立場の方、隣に歩けるだけでも光栄な事、懇親会にも特別にエリザのお付きとして連れて行ってもらっていた。 
 私達の通っているラインベル学園の理念は「貴族と平民の上下のない社会」と立派ではあるけど私には到底無理な事に思える、平民の私からすれば荒唐無稽だ。 
 学園の門をくぐり校舎への道を歩いていてもよく分かる、中央を歩くのは貴族で、端を歩いているのは平民だ。

 いくら学園で立派な理念を掲げようが大衆に染み付いた格差が覆えるはずがない……服装でさえ暗黙に決められた雁字搦めのルールが存在する。
 学園では制服を着ることが規則だが、もちろんオシャレも多少は許されている、女生徒で代表的な物はリボンと髪留めだ。

 でも私も含め平民は地味な色で統一されている、対して私の前を歩く伯爵令嬢のエリザは綺麗な明るいリボンを身につけて、色鮮やかな髪留めをして笑って歩いている。
 そんな自由奔放に見える彼女でさえ気を遣っている人達がいるのだ……公爵家の方や王子も学園に通っているが故に伯爵家の令嬢のエリザでも三原色の明るい色を避けて、そして宝石類の装飾品を身につけるのは控えている。
 
 この学園にはそんな、生徒達で作られた暗黙のルールでガチガチに固められており、はみ出し者はいない、私は平穏な学園生活のためにエリザに取り入って仮初の友達を演じている。

「…………ってこと!!モネ?聞いてる?」

「え!!?あ…」

「また聞いてな~~い、友達の話を聞かないなんて最低~」

「ち、違うの……考え事を…」

「言い訳はなしね、次の罰は…」

 私を責めようとしていた彼女が言葉を止めて校門を見て固まる、私もつられて振り返るとそこには信じられない人物がいた…それも信じられない格好で…


「デイジー?」
「デイジーよね、あれ」
「でも、あの格好」


 周囲の声をのせながら風が吹き、花びらの舞う中でデイジーが歩いている…その格好は以前の彼女であれば考えられない姿であった。
 リボンは真っ赤で派手な装い、腰まで伸びた絹のような黒髪を留めるバレッタは銀で出来ており、碧の宝石が蝶の形に装飾されていた、胸元には彼女を思わせる花の装飾のブローチが綺麗に太陽に照らされて輝いていた、それを見て私達は声も出ずに、動くことさえ出来ぬ程に圧倒される。



「おはようございます、皆さん」



 私達の作った暗黙のルールを、「くだらない」と吐き捨てるように気にもせずに悠々と挨拶をしながら歩く彼女を見て私は再び思ってしまったのだ。


(かっこいい…)と。
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