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デイジーside

「は!?」

 私の言葉に固まってしまったお母様、予想通りの反応に安心する、カーネーションが好きだと覚えていて良かった。
 お母様から言いたい事はあるだろう、先程の会話を行う前のお母様であれば私を𠮟責し、ランドルフ王子に捨てられた責任を私に追及していた、でも今は握りしめているカーネーションも含めて私に対する感謝の気持ちが勝り、述べた言葉に怒りの反応ができないでいる。

「ど…どういう事?デイジー……」

「言葉通りの意味です、私はランドルフ王子に呆れてしまいました」

「あんなに楽しみにしていたのに?デイジー」

「ええ、今になって思えばランドルフ王子にはあまり良い所はありませんでした、王妃教育を一度でも見に来てくれた事はありませんでしたし、会った時はいつも私の気を惹こうと女性に言い寄られた話を聞きもしていないのに自慢気に聞かされて……」

「そ…それでも相手は王子ですよ、ルドウィン家の繁栄も約束されていたのです…」

 お母様の心の本音はこの言葉に現れているだろう、私とランドルフが結婚をすればルドウィン家の貴族としての地位は今よりも向上する、そんな母親として娘の幸せを望む願いだけでなく、貴族としての腹黒さも持ち合わせている。
 だが、私はお母様を責める事はない…貴族社会で女性当主として生きていればそんな腹黒い考えも必要なはず、そして腹黒い女性となってまで私を育てるために当主として努めてくれていた、責める事なんてできるはずもない…だから私はお母様を味方にする方法を考えた。

「ルドウィン家の繁栄のためであっても…私は家名を馬鹿にされる事に耐えられなかったのです」

「家名を馬鹿にされた?デイジー…何をされたの?」

「ランドルフ王子は私を正妃として皆様に紹介する前にオルレアン家のローザさんを見て、私を突き放したのです、まるで捨てるように」

「…っ!!」

「その行為に、私は傷ついたと同時に酷く憤慨しました、私達ルドウィン家は正妃となるために様々な事を犠牲にしてきました、それらを馬鹿にして突き放す事はルドウィン家を馬鹿にされたと同義です!!」

「デイジー…」

「ルドウィン家はこの国の建国時より続き国を支えてきた誇り高き貴族です…その家名を背負う者として、馬鹿にした相手に尻尾を振ってねだるような惨めな姿は例え王子であっても私は晒したくありませんでした、なによりそのルドウィン家の現当主であるカミラお母様を馬鹿にするような行為、娘として許せるはずもなありません!」

 家を守るためという言葉、そして最初にお母様に伝えた感謝の気持ち……これらを伝えたお母様の反応は、私が望んでいた反応であった。

「ぐ………ふぐ…デイジー…私とルドウィン家の事をそれほど思ってくれていたなんて…」

 目元を抑え、涙を流すお母様に寄り添う。

「私は、ルドウィン家の1人娘のデイジー・ルドウィンです、家名を背負う者としてこれからも誇り高き意志で生きていきます、お母様も許してくれますよね?」

「ええ……えぇ…立派になったわねデイジー…貴方はもっと弱気で、そんな事を考えていないと思っていたわ…ランドルフ王子との件は残念ですが、そういった理由であればルドウィン家として抗議の元、婚約の件をお断りいたしましょう」

「お母様……ありがとうございます……ですがこちらからは何も言わないで欲しいのです」

「どうしてデイジー?酷い事をされたのに?」

「だからこそ…このカードは絶好のタイミングに使うべきです、今はまだ早い……どうか私を信じてくださいお母様」

「……貴方なりの考えがあるのね、分かったわ…でも、もし我慢できなくなったら直ぐに言いなさいね?」

「はい!大好きです…お母様」


 私を抱きしめ、頭を撫でてくれるお母様…久しく感じた事のなかった母の愛情を感じて嬉しい気持ちがないと言えば噓になってしまう、一回目の人生では確かにお母様は私に酷い事をしたけど、私を育ててくれたお母様を愛している気持ちに偽りはない。
 傍で見ていた執事のウィリアムも、周りにいた使用人の方々も私とお母様を暖かく見守ってくれている。

「お母様、私、絶対にルドウィン家の名に恥じない女性として生きていきます」

「充分よ、内気だと思っていたけど…立派に育ってくれてありがとうデイジー」


 この先に、まだまだ私の立ち向かうべき問題は数多くあるだろう………でも一回目の人生とは違ってお母様との関係を改善できた事に関しては素直に嬉しいと思う。
 打算的な考えを言えば、帰る場所を確保できたともいえる…私はこのくそったれな人生を変えるために生きていくが孤独では生きていけない…家族という後ろ盾を得たからこそ出来る事は広がっていく。
 
 
 ランドルフ…そして私を自死させた社会を打ち砕くための一歩がようやく始まりだした。

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