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第六話 迷える子羊(幽霊鈴木由美)

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 次の日の朝、桜子と共に、昨日同様高級車で男のアパートまで連れて行ってもらった学は、昨日とは打って変わったトシオの憔悴しきった顔に呆然とした。

「ど、、、どうしたんですか?」

「由美の、、幽霊が出た。、、、刑事さん、、でも、俺、殺してなんていません。、、、う、うぅ。」

 昨日の夜から一睡もしていないのだろう。目の下にできた隈がはっきりと見て取れた。

 学は、その憔悴しきったトシオが、泣き崩れた為に、その背中を擦った。

「大丈夫。きっとこれから真っ直ぐに生きていけば、鈴木由美さんだって許してくれます。」

「だから、俺は殺してねぇよぉ、、、何で。俺のせいじゃねぇのにぃ、、、。」

「あのさ、殺してないからって罪がないとか思うなよ?」

「、、、え?」

 突然、学の口調が厳しくなりトシオは目を見開く。

「人一人傷つけたのに変わりはないだろ?逃げてないでちゃんと自分の悪かった所と向き合え。女一人も守れないで、めそめそ泣いてるんじゃねぇ。」

 トシオは、学をまじまじと見た後に、涙を音もなく流した。

 叱られたのは久しぶりすぎて、胸が痛くなる。

「人にはそれぞれ生き方があるから、お前がそれでいいって言うなら他人から言われても変わらないだろ。けどな、自分の顔鏡で見てみろよ。その上でこれからの事、真剣に考えてみろよ。」

 学さそう言う桜子の元へと戻った。

「貴方、意外と熱い男なのね。」

 桜子言葉に、学は顔を赤らめた。

「あの、、、昨日何があったんですか?すごい変わりようだったんですが。」

「そうね。鈴木由美さんも貴方に憑いて帰ってきたし、屋敷で話しましょう。」

「え?ど、、、どこにいます?」

「行くわよ。」

「え?はい!」

 車に乗り込み、屋敷に帰ると良が紅茶とケーキを準備して待っていた。

 湯気の立つ紅茶はとても良い香りがして、学はほぅと息を吐く。

「良さんは凄いですね。」

 椅子に座り、思わず学が口にすると良はにこりと微笑んで後ろに下がった。

「良は最高の執事です。わたくしの執事ですから、当たり前ですわね。」

「そうなんですね。それで、あの、教えてください。昨日は何があったんですか?まさか、、鈴木由美さんが幽霊の力を発揮して懲らしめたんですか?そんな事出来るんですか?!」

 桜子は優雅に紅茶を飲み、そして微笑んだ。

 その微笑みはとても可愛らしくて思わず学は顔を赤らめた。だが、次の言葉で真顔に戻る。

「バカをおっしゃらないで。そんな事出来るなら、最初から殺人犯にも浮気男にもご自分で復讐しているはずでしょう。」

「確かに。」

「霊体とは、いるけれど、いるだけなの。相当な悪霊でも無い限りは、無力な存在よ。、、、見ている事しか出来ないのだから。」

 なるほど、と、頷きながらもそれならば何故あの男はあそこまで恐怖を感じていたのだろうか。

 学が尋ねる前に、桜子の口角が上がり小さく笑い声を立てた。

「わたくしは、西園寺桜子よ!わたくしに出来ない事はありませんわ。」

「え?と言う事は、、、?」

「ふふ。では、ご覧になって。」

「え、、、、。」

 良がさり気なく、アイパッドを取り出すとそこに映像が流れ始める。

 まるで映画のようなその撮り方にも驚く。



 ことの顛末はこうだ。

 まず、アパート全部を買い取り、アパートの住人には一日を他の高級ホテルで過ごしてもらう。
 実行部隊が暗躍し、天井から侵入して室内の家具を倒したり壊したりしていく。

 水道は予めトシオがいない間に実行部隊に仕掛けをしていてもらう。

 他にも冷凍装置や、ラップ音の機器などが準備され、手際よく相手を恐怖に陥れていく。

 そんなことの顛末が映像で流れ、学は呆然とした。

 そして、思っていた事を小さな声で、言った。

「あの、、、これ、自分必要あります?」

 こんな力を持つ西園寺家に、警察の手は必要ないのではないかと学は思う。

 だが、桜子言葉は違った。

「当たり前ですわ。貴方がいなければだめです。」

 学はその言葉に、嬉しそうに笑ってしまう。

「ですよね!桜子お嬢様には自分が必要ですよね!では、自分は、その後の犯人について調査してきます!」

 学はそう力強く言うと、立ち上がり、由美の方に頭を下げると走っていった。

「お嬢様、僭越ながら一言。」

「何かしら?」

「学様が幽霊が憑いたり離れたり出来る特異体質と言う事は、お伝えしなくて良いのですか?」

「良いのよ。やっと見つけた特異体質だもの。警察庁のオジサマに無理を言ってわたくし専属の警察官にして頂いたのよ。逃げられたら大変だわ。」

 桜子は、ニコリと笑ってお上品にケーキを食べた。








 

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