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九話 楽しい?デート
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馬車に揺られている時間、ルチアーナはじっとジークを睨み付けていた。
そう。
本人的には、目線でジークをどう誘惑したらいいのだろうかと悩んだ末の、その視線であったが、明らかにそれは誘惑する視線ではない。
ただ、ジークはそんな視線を嬉しげに受け止めて、にこやかな笑みを浮かべている。
戦場の悪魔だなんだのと呼ばれていた主のその変貌ぶりにジャンは顔をひきつらせている。
そして街にようやく着いた頃には、ジャンはこのデートがどうなるのだろうかと心配でならなくなっていた。
「さぁ着いた。ルチアーナ嬢。行こうか。」
「はい。」
ちゃんとエスコートをしているように見える。
馬車を降りて、商店街の方へと歩き始めた二人の後ろをついて歩きなから、ジャンはどうにかこのまま上手くいきますようにと願うしかない。
「ルチアーナ嬢。この店に入ろう。」
「え?あ、はい。」
ジークが最初に選んだ店は、質の良い宝石店でありデートにはうってつけである。
よしよしと、そうジャンは思った。
店の中の宝石は美しく輝き、ジークはルチアーナと一緒にショーケースの中の宝石に視線を向ける。
「ルチアーナ嬢はどんな宝石が好きなんだ?」
ルチアーナは自分で宝石を選んだことは殆どなく、どれが好きかと聞かれても、悩んでしまう。
けれど、どうにかして宝石などたくさん買ってもらわなければと真剣に考えて口を開いた。
悪女になるのだと、自分に言い聞かせる。
「綺麗なものは全部好きに決まっています。ジーク様が私に似合うもの、全てを見繕って下さいませ。」
全てをと言えば、少なくとも一個ではないだろうとルチアーナはにんまりとしてやったり顔を浮かべた。
ジークはその言葉に嬉しそうに微笑むと頷いた。
「俺が選んでもいいのか?そうか。なら、この黒曜石のネックレスとイヤリングをまずは君に送ろう。店主、ケースから出してくれ。」
そう言うとジャンが手続きを済ませている間にジークはネックレスとイヤリングを受け取り、ルチアーナへと着けていく。
突然のことにルチアーナは驚くが、自分へ嬉しそうにアクセサリーを着けてくれるジークの姿に、これは実家へは送れないと、どうしようかと悩んでしまう。
「よし、うん。似合う。あぁ、店主。この店にある商品は後程全てを屋敷に届けてくれ。ジャン、手続きを頼む。よし、ルチアーナ嬢。次の店を見に行こう。」
「え?」
ルチアーナは目を丸くし、ジャンは主が自分のアドバイスを全く聞いていなかったことを悟った。
「君に似合うものを選ばないとな。あぁ、もし気に入らないものがあれば、適当に処分すればいいさ。さぁ、次はドレスだな!」
意気揚々とルチアーナの手を引くジークはとても楽しげであり、ルチアーナは目を丸くしたままそれに着いていく。
ドレスに帽子に靴に、ジークはルチアーナに似合うもの全てを楽しそうに身繕い、ルチアーナは最初こそ驚いていたものの、あまりにジークが楽しげなのについつられて笑みを浮かべた。
あまりに非現実的。けれども、そのあまりに潔のよい買い物の仕方は感覚を可笑しくさせて、逆に笑いが込み上げてくる。
「ふふ!ジーク様買いすぎです!」
「そうか?まだまだだろう?」
「屋敷が品物で埋め尽くされてしまいますよ!」
「はは!その時は新しく屋敷を建てるか!」
そんな冗談に、ルチアーナは久しぶりに笑い声をあげ、そして買い物が一段落する頃にはジークの手を自然と握り返していた。
そんな時であった。
会いたくない人間というものには、人は何故か出会ってしまう。
「お姉様?」
ルチアーナはその声に、びくりと肩を震わせた。
そう。
本人的には、目線でジークをどう誘惑したらいいのだろうかと悩んだ末の、その視線であったが、明らかにそれは誘惑する視線ではない。
ただ、ジークはそんな視線を嬉しげに受け止めて、にこやかな笑みを浮かべている。
戦場の悪魔だなんだのと呼ばれていた主のその変貌ぶりにジャンは顔をひきつらせている。
そして街にようやく着いた頃には、ジャンはこのデートがどうなるのだろうかと心配でならなくなっていた。
「さぁ着いた。ルチアーナ嬢。行こうか。」
「はい。」
ちゃんとエスコートをしているように見える。
馬車を降りて、商店街の方へと歩き始めた二人の後ろをついて歩きなから、ジャンはどうにかこのまま上手くいきますようにと願うしかない。
「ルチアーナ嬢。この店に入ろう。」
「え?あ、はい。」
ジークが最初に選んだ店は、質の良い宝石店でありデートにはうってつけである。
よしよしと、そうジャンは思った。
店の中の宝石は美しく輝き、ジークはルチアーナと一緒にショーケースの中の宝石に視線を向ける。
「ルチアーナ嬢はどんな宝石が好きなんだ?」
ルチアーナは自分で宝石を選んだことは殆どなく、どれが好きかと聞かれても、悩んでしまう。
けれど、どうにかして宝石などたくさん買ってもらわなければと真剣に考えて口を開いた。
悪女になるのだと、自分に言い聞かせる。
「綺麗なものは全部好きに決まっています。ジーク様が私に似合うもの、全てを見繕って下さいませ。」
全てをと言えば、少なくとも一個ではないだろうとルチアーナはにんまりとしてやったり顔を浮かべた。
ジークはその言葉に嬉しそうに微笑むと頷いた。
「俺が選んでもいいのか?そうか。なら、この黒曜石のネックレスとイヤリングをまずは君に送ろう。店主、ケースから出してくれ。」
そう言うとジャンが手続きを済ませている間にジークはネックレスとイヤリングを受け取り、ルチアーナへと着けていく。
突然のことにルチアーナは驚くが、自分へ嬉しそうにアクセサリーを着けてくれるジークの姿に、これは実家へは送れないと、どうしようかと悩んでしまう。
「よし、うん。似合う。あぁ、店主。この店にある商品は後程全てを屋敷に届けてくれ。ジャン、手続きを頼む。よし、ルチアーナ嬢。次の店を見に行こう。」
「え?」
ルチアーナは目を丸くし、ジャンは主が自分のアドバイスを全く聞いていなかったことを悟った。
「君に似合うものを選ばないとな。あぁ、もし気に入らないものがあれば、適当に処分すればいいさ。さぁ、次はドレスだな!」
意気揚々とルチアーナの手を引くジークはとても楽しげであり、ルチアーナは目を丸くしたままそれに着いていく。
ドレスに帽子に靴に、ジークはルチアーナに似合うもの全てを楽しそうに身繕い、ルチアーナは最初こそ驚いていたものの、あまりにジークが楽しげなのについつられて笑みを浮かべた。
あまりに非現実的。けれども、そのあまりに潔のよい買い物の仕方は感覚を可笑しくさせて、逆に笑いが込み上げてくる。
「ふふ!ジーク様買いすぎです!」
「そうか?まだまだだろう?」
「屋敷が品物で埋め尽くされてしまいますよ!」
「はは!その時は新しく屋敷を建てるか!」
そんな冗談に、ルチアーナは久しぶりに笑い声をあげ、そして買い物が一段落する頃にはジークの手を自然と握り返していた。
そんな時であった。
会いたくない人間というものには、人は何故か出会ってしまう。
「お姉様?」
ルチアーナはその声に、びくりと肩を震わせた。
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