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八話 デートのお誘い

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 結局ジークは仕事が立て込んだらしく、話をしてくれると言っていた夕方も、次の日も、話をする時間は取れずに、ただ他愛ない会話と、食事の時間だけを共にする日々が続いた。

 それでも日々過ごす中で、ルチアーナはジークの優しい人柄を知ることができた。

 最初にジークが言っていた通り、ジークはルチアーナに触れることはなく、そして穏やかな時間が流れていって、逆にルチアーナは不安になった。

 誘惑をしろとの指示があったが、どう、誘惑すればいいのだろうか。

 自分が悪女ならばすぐに出来たのであろうが、悪女というものがよくわからず、どうすることもできない。

 ルチアーナに閨の知識はほぼなく、また、ルチアーナの部屋にジークが夜に訪れることもなかった。

 夜の訪れが怖いと感じていたルチアーナにとってはよかったのだが、誘惑する機会は間違いなくなくなった。

 そして、ルチアーナはどうしたらいいのだろうかと悶々として過ごしていたからこそ、突然のジーク言葉に思わず呆けた声で返事をしてしまった。

「へ?・・あ、いえ、その。ごめんなさい。もう一度よろしいですか?」

「今日は一緒に街にデートをしに行こう。」

 ジークは真剣な表情でルチアーナにそう言うと、耳まで真っ赤になりながら、視線を泳がせて、そして、ルチアーナの様子を伺うように、上目遣いで言った。

「だめか?」

 胸が何やらきゅん!っと音をたてたように感じて、ルチアーナは瞳を瞬かせた。

 そして、ルチアーナははっと気づく。

 自分が悪女になって誘惑しなければならないのに、誘惑されている。ルチアーナは慌てて応戦しかければとキッとジークを睨み付けた。

「行きます。」

 その表情は誘惑というよりも、威嚇。

 本人はいたって真面目な様子だが、ジャンは吹き出しそうになるのを必死で我慢していた。

 けれども、ジークは嬉しそうに頷き、ほくほく顔で言った。

「なら準備をして、さっそく出掛けよう。」

「もちろんです。」

 ジークの表情に反して、ルチアーナは戦場へ行くかのように顔を強張らせている。

 そんな二人のやり取りを見つめながら、ジャンは初デートは一体どうなるのだろうかと内心ヒヤヒヤとしていた。

 今まで主が女性をエスコートしてデートをしていた所など見たことなどないジャンは、ルチアーナが出かける準備をしている間、ジークに一生懸命にデートではどのように振る舞うべきかなど、確認するように言葉をかけた。

 浮かれた主が、ルチアーナにフラれることのないようにと思っての配慮だったのだが、結局のところジークは浮かれに浮かれて、ジャンの言葉など何一つ頭には入っていなかったのであった。





 
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