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一話 断頭台に立つ令嬢

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 素足で歩けば、地面の石の冷たさがまるで氷かのように感じられる。

 風は冷たく、空を見上げれば暗雲が立ち込めており、太陽の光も青い空も全く見えない。

「ふふっ……」

 質素なワンピースに、ぼさぼさの黒髪。

 その肌は荒れており、黒い瞳が映すのは、色あせた世界。

「さっさと歩け」

 少し前までは、学園で平穏に過ごしていたというのにと自嘲の笑みを浮かべながら、後ろから騎士に小突かれ、歩いていく。

 今、稀代の悪女と呼ばれ、断頭台を目指し歩いていくのはこの国の四台公爵家の一つ、ルーベリウス公爵家の娘、シャルロッテ・ルーベリウスである。

 貴族会の黒薔薇姫と称賛されていた彼女ではあったが、今ではその名は地に落ちた。

 稀代の悪女。

 王子と麗しの乙女との間を引き裂いた魔女。

 恐ろく残虐な女。

 断頭台へ続く道は石造りの道であり、断頭台への階段を上ると、そこに見えるのは怒れる民衆達である。

 その瞳は正義感で溢れ、悪女を殺せと誰かが叫ぶ。

 シャルロッテに着せられた罪は、誘拐、暴行、殺人。

 婚約者である王子を取られたくないがために、聖なる力を持った少女を陥れようとしたと民衆から石を投げつけられる。

 ある者にとっては正義の物語となるであろう。

 民衆にとってみれば、シンデレラストーリーである。

 平民の少女が今や王子の横に立つ存在。

 弱きものが悪に負けずに駆け上がっていくストーリーはいつでも民衆に好まれる。

 そう、これはそういうシナリオだったのであろう。

 シャルロッテは断頭台から、顔をあげ、真っすぐに国王、王妃、元婚約者の王子、王子に寄り添う少女、騎士、魔法使い、王子の側近である自分の兄。

 そうした者たちの姿を見上げる。

 その瞳は冷ややかなもので、私に対して憎悪を抱く。

 悪役を殺せと民衆は叫ぶ。

 国王の許可を得て、王子は発言する。

「罪人シャルロッテよ。最後に謝ったらどうだ。そうすれば天もお前に恩赦を与えるだろう」

 会場は静まり返り、シャルロッテの両手に繋がれた鎖の音が響いて聞こえた。

 シャルロッテは、真っすぐに顔をあげ、そしてにっこりと微笑みを浮かべると、はっきりとした口調で言った。

「自分達が正義だと、そう信じれば楽でしょうね。結果論としてみれば、生き残ったほうが正義となるのでしょうから。ですが、私の首が飛んだ瞬間から、自分たちに未来があるとは思うなかれ……そこが始まりとなるでしょう」

 次の瞬間、会場からは罵詈雑言が溢れかえり、シャルロッテに向かって大量の石が投げつけられる。

「殺せ!」

「悪女を断頭台へ!」

「悪い魔女だ!」

「この国に不幸を呼ぶぞ!」

 シャルロッテには、一つの石も当たらない。

 不気味なほどの、雰囲気が漂い、そしてシャルロッテの笑みに、皆が顔を青ざめさせる。

 皆がそれを正義だといい、皆がそれが国のためだとした。

 そのために、一人の少女の首がはねられる。

 ザシュッ……

 一瞬の出来事。

 ごろりと、首が転がる。

 次の瞬間、人々は悲鳴を上げた。

「なっ!? なんだ!?」

 国は暗闇に包まれ、民衆は逃げ惑う。

「の、呪いだ!」

「ひぃぃぃぃ!」

 時間の針が、時空がねじれて巻き戻り始める。

 人々にはその記憶は残らない。



 時計の針は時を戻し、そして空が青く晴れ渡る。

 シャルロッテは、目の前に並べられた紅茶をじっと見つめ、そしてティーカップを優雅に手に取ると、一口それを飲んで微笑んだ。

「さぁ、これからが始まりね」

 

 



 
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