魔法使いアルル

かのん

文字の大きさ
上 下
66 / 76

第二百三十四話

しおりを挟む
 アロンは王城に構える執務室にて大きくため息を吐くと、部屋の中に集まっている人々に目を向けて言った。

「音楽の民の仕業じゃろうなぁ。」

 その言葉に皆の口から大きなため息がこぼれる。

 そこに集まっている人々は、見た目は大きく違う。

 獣の耳と尻尾をもった獣人もいれば、頭からすっぽりと布をかぶっている怪しげな人もいる。多種多様な種族の人々が何故集まっているかといえば、突然、いろんな国から国の重要人物の子どもたちが消えたからである。

 その時の目撃情報や、その場に残されたオルゴールなどから判断されて音楽の民ではと皆が疑い、アロンの元へと助力を求めに集まったのである。

「こっちの国は、大臣の子どもが行方不明だ。」

「うちの国では、国王の子です。」

「はぁ。我が国では宰相の子どもだぞ。」

 皆大きくため息をつき、頭を抱えるが音楽の民に直接乗り込むことは出来ない。

 何故ならば。

「どうしたものかのぉ。音楽の民の元へは子どもしかいけないからのぉ。」

 そうなのだ。音楽の民の住まう土地は別名子どもの国とも呼ばれる。

 何故か子どもしか中には入れず、音楽の民を目にすることも出来ない。

 それ故に、音楽の民に詳しい者も少なく、皆がアロンに助けを求めに来たのである。

「数日から数か月すれば戻ってくると思うがなぁ。」

 何故そこまで期間が開くのかといえば、音楽の民の住まう土地は時間の流れが一定ではないのである。早くなったり遅くなったり。それ故に、子どもがどのくらいで帰って来るのかも未定である。

「それでは困るのです!うちの王子は一週間後に戴冠式があるのですぞ!」

「宰相の子は、婚約発表式があるそうです。」

「大臣の子は二週間後には交換留学へと行く予定だそうです。」

 お偉いさんの子どもたちというものは、忙しいのだなぁとアロンは大きくため息をつくとしばらくの間考え込んだ。

 はっきり言えば、こうも偉い人間の子ばかりが消えているのには不可思議である。

 そこに何らかの因果が働いていないとも限らない。

「仕方ない。わしがこの件は預かろう。よいか?」

 アロンの言葉に皆が安心したように頷き、そしてしばらくの後にそれぞれの国へと帰って行った。

 皆を見送ったアロンは屋敷へと魔法で帰り、大きくわざとらしくため息をつくと、サリーの入れてくれたお茶を飲んでほうっと息を吐いた。

「何かのぉ。何か、悪い事が起こらんといいがのぉ。」

「まぁ、お二人もいますし、大抵の事は大丈夫だと思いますが。」

「そうじゃの。そうだとは思うが・・・はぁ。また厄介な仕事じゃ。」

「大変ですね?」

 にっこりと笑いながらサリーはそう言うと、励ますようにアロンの前に作りたてのにんじんケーキを置いた。

 それにアロンは瞳を輝かせると一口食べてやる気を出した。

「よしよし。サリーのおかげでやる気が出たわい! じゃあ、わしも童心に帰っていくかのぉ。」

「はい。お気をつけて。」

 アロンはケーキをぺろりと食べ終えると、自分自身に魔法を掛けていく。

「時よ遡り、我が姿を変えよ!」

 しゅるしゅるしゅるとアロンは小さくなると、幼い頃の姿へと変わる。

「まぁ。お懐かしい姿ですね。」

 嬉しそうにサリーに頭を撫でられたアロンは、にやりと笑うと言った。

「おぉ。そう言うならばケーキを子ども分。あと一切れくれてもいいぞ?」

「ごはんが入らなくなるからダメです。」

「けちじゃのぉ。分かったわい! では、サリー。しばし屋敷の事を頼むぞ。」

「はい。いってらっしゃいませ。」

「行ってくる。」

 アロンは杖を振り、アルルとレオを音楽の民の元へと飛ばしオルゴールを開くと、その道をこじ開けて箒にまたがりその中を一気に抜けた。

 世界の景色が回るようにな光景が駆け巡ると、次の瞬間にはファンファーレの音が聞こえた。

『音楽の民の国のスペシャル企画イベントの始まりでーす!』

 楽しそうな声と子どもたちの歓声が聞こえる。

 アロンはにっこりと笑った。

「こりゃ、楽しそうじゃわい!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...