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第二百二十五話
しおりを挟むロッテンベイマーは、朝の支度を済ませると、昨日の口答えをしてきた二人を思い出して顔を真っ赤にするとふんふんと鼻を鳴らして朝食にかぶりついた。
あぁして生意気な事ばかり言う生徒にはしっかりと自ら反省させなければならないとロッテンベイマーはひくひくと口元をさせると、机をバンっと叩いてから気合を入れて立ち上がり、学園へと向かう。
背筋をすっと伸ばして、いつもの道を、いつもの通りに向かい、そして職員室へと朝の挨拶を済ませてから入り、それから教室へと向かう。
今日は、昨日のうちに準備をしておいた教材を使って、まだまだ未熟な者達に教えてやらねばならない。
フンっとロッテンベイマーは息を吐くと扉を開けた。
「皆様、おはよう。」
「おはようございます。ロッテンベイマー先生。」
次の瞬間、ロッテンベイマーは多少の違和感を覚える。
教室はいつもの教室であるし、生徒たちはしっかりと挨拶も返した。
問題はない。
だが、違和感がある。
「それでは、始めますよ。」
「はい。ロッテンベイマー先生。」
声をそろえて返事をする生徒達。
一人一人の点呼を済ませ、朝の活動を済ませ授業に入る。
だが、その授業でも違和感を覚えた。
「さあ、この事については皆さんは分からないでしょうから、私が教えて差し上げます。」
「はい。ロッテンベイマー先生。」
先ほどから説明をしても、誰も何も質問をせず、とても良い返事ばかりを返してくる。
悪くはないのだが、変な違和感がぬぐい切れない。
「貴方方、本当に分かっているのですか?」
「はい。ロッテンベイマー先生。」
「ちょっと、先ほどからそればかりやめなさい!」
「はい。ロッテンベイマー先生。」
「貴方方は私を馬鹿にしているのですか?」
「はい。ロッテンベイマー先生。」
「何ですって!」
顔を真っ赤にしながらロッテンベイマーが怒りはじめ、罵声を浴びせ始める。
だが、異変は次の瞬間から起こり始めた。
先ほどまで同じように返事を返していた生徒達の顔が見る見る間に鬼のような形相へと変わり、ロッテンベイマーと同じように怒り、同じような罵声を浴びせ始めたのである。
「ロッテンベイマー先生は馬鹿ですか!?」
「いい加減にしなさい!何度言っても、貴方には伝わらないでしょうが、何度だって言ってあげますよ!貴方は覚えが悪いのですから!」
「本当に!貴方は私のように賢い者に教わる資格があるのですか!?」
突然、生徒達の声が重なり合いながら繰り返され始めた罵声に、ロッテンベイマーは奇声を上げると、机をバシンと大きな音を立てて叩いた。
次の瞬間、生徒達皆が同じように机をたたく。
その音の衝撃の強さに、ロッテンベイマーは目を丸くすると、魔法の杖を取り出して構えた。
「教師を、何だと思っているのです。」
生徒達も魔法の杖を構えた。
「生徒を、何だと思っているのです。」
「お黙りなさい!」
次の瞬間、ロッテンベイマーは生徒達に向けて魔法を掛けた。
「静寂を其の者らに与えよ!」
ロッテンベイマーの掛けた魔法は教室いっぱいに広がると、次の瞬間、色々な所を跳ね返り、そして最後に閃光をはなった。
「なっ!?」
ロッテンベイマーの目の前にいた生徒達が鏡のように粉々に割れはじめ、教室にいた生徒達は消え、床には鏡が散らばった。
そこには一人の生徒もおらず、教室全体に強力な魔法が掛けられていたことにロッテンベイマーはようやく気付いた。
「この・・・魔法は。」
自分を欺くほどの精巧な魔法。そしてこの魔法は、鏡の魔法である。
つまり、先ほど自分が怒った言葉は、全てが自分が言い放った言葉なのである。
ロッテンベイマーは顔を真っ赤にすると声を荒げた。
「出てきなさい!貴方達!これは教師を馬鹿にする行為ですよ!」
その声に、魔法を使って隠れていた生徒達が姿を現す。
生徒達は一様にロッテンベイマーを睨みつけている。
「なっ!?何ですかその反抗的な目は!貴方達は私の力をもってすれば退学にも出来るのですよ!」
アルルとミーガンは前に進み出ると言った。
「ロッテンベイマー先生。私達馬鹿なので物覚えが悪くって。」
「先生が何に怒っているのかが分かりません。」
その言葉に、ロッテンベイマーは顔を真っ赤にしたまま地団太を踏むと、頭から湯気が上がり、そしてロッテンベイマーは魔法の杖を振った。
「水よ!生意気な生徒達を捕縛せよ!」
水がうねりを上げてアルルやミーガンを飲み込もうとするが、それをクラス全員で力を合わせて防御壁を張り防ぐ。
「生意気よぉぉぉぉ!」
魔法使いのたまごとは言え、力を合わせればロッテンベイマーにだって対抗できる。
「先生!私達は、物じゃありません!」
「感情があるんです!」
「怒られたって、傷つかないわけじゃないの!」
「理不尽に怒られれば、悲しくなる!」
「私達は貴方の、お利口さんなおもちゃじゃない!」
「黙りなさいーーーー!」
ロッテンベイマーの魔法に炎が加わり、生徒達はその威力に悲鳴を上げそうになった。
アルルと違い、他の生徒らは実戦の経験など、模擬の授業でしかない。
アルルは声を上げた。
「私達の話を聞いて下さい!」
「聞くわけがないでしょう!貴方達は馬鹿なのよ!だから私が教えてあげているの!それを何を偉そうに言っているのかしら!」
「ロッテンベイマー先生。その辺にしておいて下さい。」
次の瞬間、ロッテンベイマーの魔法の杖が吹き飛ばされ、魔法を一瞬にして打ち消すと、何と、担任のニーンがロッテンベイマーと生徒たちの間に現れた。
「ニーン先生!」
生徒達は歓声を上げてニーンに飛び付いた。
「先生!」
「待ってたよ!」
「帰ってきてくれてよかったぁぁ。」
「怖かったよぉ!」
その様子を呆然と見ていたロッテンベイマーは、ふつふつと怒りを取り戻し、ニーンの前にどしどしと歩いていくと言った。
「ニーン先生!貴方が子ども達を甘やかすから、このように馬鹿に育つのです!!!!」
ロッテンベイマーのその言葉に、ニーンは笑顔で言った。
「ほう!それはおかしなことですね。僕には馬鹿なんて一人もいるようには見えない。こんなにも素晴らしい子ども達を育てる機会をもらえた僕は幸福だとは思いますけどね。」
「何ですって!?」
「ロッテンベイマー先生は、何か、勘違いをされているのではないですか?」
「はぁ?!」
「僕達教師は、神様ではないですよ。」
「何を言っているの!?」
「僕達は、偉いわけではありません。僕はね、教師とは道しるべのような存在だと思うのですよ。それを間違えてはいけないと思いますが。」
その言葉にロッテンベイマーの怒りは最高点に達した。
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