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第一章

災いの魔力との対峙 119

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 グリードの体は、災いの魔力で一気に飲み込まれた。

 そして、姿は暗黒龍へと代わり、恐ろしい漆黒の炎を空に向かって放つ。

 空は一瞬で色を変え、どす黒く雲が渦を作る。

「グリード。」

 その声が、届かないと分かっていても呼んでしまう。

 漆黒の翼は大きく、その黒曜石のような瞳はフィリアを見据える。

 並ぶ歯列は鋭く尖り、口元からは炎が漏れる。

 禍々しく、恐ろしい姿。

 遠くから悲鳴が聞こえた。

 化物との声が聞こえる。

 ざわめき、泣き声、怒鳴り声、罵声、悲鳴、人々の恐怖。

 それをグリードに向けるな。

 自然と、フィリアの瞳からは涙が伝っていた。

 体が引き裂かれる痛みを知っている?

 耳鳴りのようなおぞましい声を知っている?

 繰り返される永遠とも思われる絶望を知っている?

 グリードは、それを全て知っているの。

 なのに、人を憎みもしないで、それを受け入れて、なんてことのないように、振る舞ってしまえる人なの。

 私が怒るのは筋違い。

 だけれど、怒らずにはいられない。

 人々の礎になり、犠牲になり、皆の平和のために犠牲になったのに、人々はそれを知りさえせず、それを当たり前だと思っている。

 今の平和は、当たり前ではないのよ。

 平和を得る為に、犠牲になった人がいて、その上に私達は今立っている。

「グリード。」

 悲しみが溢れる。

 グリードが泣いている。

 自由にならなくなった体に、苦しんでいる。

「大丈夫。その怒りを私にぶつけて。」

 大丈夫。

 だって、この日の為に私は自身を鍛え上げてきたのだから。

「貴方の怒りも、悲しみも、すべて私が受け止めてみせるわ。」

 両手に聖剣を生みだし、自身の体を聖なる魔法で包み込む。

「だって、私は。」

 にっこりと、笑顔を向けた。

「ヒロインだもの!!」

 暗黒龍は、フィリアに向かって黒い炎を放つ。

 フィリアは、それを聖剣で受け止めると、空へと弾き飛ばした。

 空に飲み込まれた炎は雷鳴を呼び、雲の中で光と炎が入り交ざる。

 落ちる雷鳴には、災いの魔力が混じり、地面に落ちるとそれは素早い小さな龍へと変わり地を這い回る。

 フィリアは、魔力を聖剣に込めると、地面に叩きつけた。

 すると一瞬で、小さな龍へは光へと変わり消えていく。

 暗黒龍がにやりと笑った。

 フィリアも、笑みを返す。

 暗黒龍は、口の中に炎を貯めるとそれを一気に吐き出す。

 フィリアは、炎に向かって聖なる魔法を込めた聖なる水を放つ。すると、炎は消え、地面に落ちた。

 炎が駄目だと分かった暗黒龍は、翼を広げ空へと飛び立つ。

 フィリアも後を追い、自分の背中に魔法で翼をつけると空へとと舞上がった。

 暗黒龍の起こす風にフィリアは押されながらも懸命に追いかけ、背中に貼り付いた。




 
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