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第一章

アイデール王国 105

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 皆で中央の柱に縛られるレクスの所へと歩いていく。

「さすが、皆様よく考えましたね。」

 フィリアの称賛する声に、ユーリは苦笑を浮かべた。

「ここまで来たのに、何もできないなんて情けないしね。」

 カインも頷く。

「本当に、だが作を考えたのはロイだ。」

 ロイはニヤッと笑った。

「皆さん足元がお留守のようでしたからね。」

 シオンも笑う。

「四方の魔法なんて初めて使ったから、成功して良かったよ。」

 エマは言った。

「本当に成功してよかったです。」

 クロエラは絵馬の横に立ち、頷く。

「フィリアが魔法に気づかなかったらどうしようって思ったのよ。」

 マリアは笑った。

「フィリア程の人が気づかないわけ無いわ。」

 それにシェーラも同意する。

「そうね。フィリアは規格外ですもの。」

 その言い様にフィリアは微妙な気持ちになった。だが、さすがは四大貴族とその婚約者達。フィーリタ王国のキャラ達は優秀だと、アイデール王国の攻略キャラを思い出して思ってしまった。


 グリードは、レクスを見つめた。

 皆が一歩引く。

「レクス。」

 グリードは、寂しそうな声でそう呼ぶと、レクスは笑い声を上げる。

 その目には、グリードは映っていない。

 フィリアは、そっとグリードの肩に触れると首を横に振った。

「今はまだ、、、意識がないわ。」

「あぁ。何故、、、こんな事になったのか。」

 フィリアは、ニコリと笑うと言った。

「大丈夫。意識が戻ってから話せばいいわ。」

「あぁ。そうだな。」

 そう言った時、アリアが走ってくるとレクスの前で両腕を広げた。

「レクスさんを傷つけないで!」

 王子らは後ろから走ってくると、アリアを呼ぶ。

「アリアこちらに来なさい。」

「駄目よ!このままじゃレクスさんが殺されてしまうわ。」

 その言葉に、フィリアは、アリアの前に立ち言った。

「殺すわけ無いでしょう?」

「嘘つき!そんな事言って殺すのよ!」

 なんて事を言う女であろうか。

 アレクシスはため息を付きながらアリアの前に行き言った。  

「アリア孃。そのような事にはならないから。部屋へと下がりなさい。」

 すると、一瞬で声が猫なで声に変わり、キュるるんと上目遣いでアレクシスに言った。

「本当にぃですか?アレクシス様ぁ。」

 フィリアは思わず呟いた。

「え?何その気持ち悪い声。」

 キッとアリアに睨まれ、フィリアは口をつぐんだ。

 アレクシスは、ルーナの腕をガシリとつかみ、盾にするように立ち、頷いた。

「もちろんだ。」

「えぇー。ならぁ分かりましたぁ。絶対にですよぉ?」

「あぁ。」

 言葉は堂々としているのに、アレクシスはルーナの後ろでそういうものだからなんとも言えない。

 アリアは王子等に連れられて部屋へと帰っていった。

 だが、ウィリアムは足を止めると、ルーナの前に行き、そして、ルーナに言った。

「君にはがっかりした。悪いが、君のと婚約は破棄させてもらう。」

 突然の一言に、ルーナは硬直する。

 ハロルドは目を丸くするとルーナを庇うように前に立った。

「兄上、何を馬鹿な事を言っているのですか。そんな大事な事を勝手になど決められません。」

「ハロルド。心には逆らえない。」

 いやいや、おいおい、第一王子よ。何を言っているのだ。

 フィリアは、フィーリタ王国の今後が心配になった。

 ハロルドは何も言わず、マントを翻して歩き去っていくウィリアムを見送るとルーナを振り返った。

「ルーナ孃申し訳ない。」

 ルーナはにこやかに微笑みを浮かべると、首を横に振った。

「大丈夫です。」

 だが、これに後ろからアレクシスがハロルドに言った。

「我が国としては、ルーナをこちらに引き取ろうかと思っている。」

 ルーナは、その言葉には驚いたようで目を丸くし、アレクシスに言った。

「突然そう言われても困ります。とにかく、その話は後ほど。今はレクス様の方が先ですわ。」

 はっきりとそう言うと、ルーナは視線をフィリアに向けた。

「フィリア様、これからどうしますの?」

 今は自分の事などどうでもいいと言うようなルーナの言葉に、ハロルドもアレクシスも黙り、同じようにフィリアを見た。

 フィリアは、大きく息を吐くと、言った。

「呪われた王子レクスについてですが、今からレクスの呪いを解きます。グリード、いい?」

 グリードは頷いた。

 その瞳が何を思っているのか、フィリアは計りかねる。

 ゲームにはなかったシナリオ。

 どう出るかは、レクスの呪いを解かなければ分からない。

 フィリアは、念の為にハロルドから聖剣を受け取り、それに自分の魔力を込めていく。

 確かにそれは聖剣であり、一体ウィリアムはどこからこれを持ってきたのか疑問である。

 フィリアは、レクスの前に立つと剣をレクスの前で構えその心臓に軽く突き立てる。

 そして、聖なる歌を歌う。

 心が戻るように願いを込めて。

 体を蝕む、災の魔力による呪いが解けるように。

 ゆっくりと、聖剣からレクスの体に聖なる歌を心に響かせていく。

「目を覚まして。グリードが、待っているわ。」

 静かに響く声に、レクスの瞳が揺れる。

 そして、次第に瞳に光が帰る。

 だが、それと同時にその瞳から涙が溢れる。

 レクスの体から黒い魔力が出てくると、それをフィリアの聖なる歌が光で包み込み、消していく。

 そして、それが全て消えた時、小さな声が聞こえた。

 小さく、本当に小さな声であったが、レクスは呼んだ。



「グリード、、、、。」



 その声を聞いただけで、フィリアは胸が引き裂かれる思いであった。

 だが、グリードは優しく微笑むと、レクスの頭をくしゃくしゃと撫でた。

「レクス。おかえり。」

 四方の魔法が解かれ、自由になったレクスは膝を付き、そして、泣きながら地面に頭をこすりつけた。

「すまなかった。」

 嗚咽がまじりながらも、必死に謝り続けるレクスに、グリードはため息を漏らす。



 かつて、自分を災の魔力を封じる為に、自分を裏切った男。

 だが、グリードは、彼を恨んでなどいなかった。

 むしろ、自分ばかりが苦しい思いをしていたと勘違いをしていた。

 災の魔力に呑み込まれ、呪いを受ける程に、自分の為にずっと苦しんできたのだと思うと、何故か怒りなど感じなかった。

 優しい男なのだ。

 あの時も、ずっと謝りながら泣いていた。

 グリードは笑い、レクスを抱きしめると、背中を強く叩いた。

「ありがとう。友よ。」

 レクスは泣き、そして、グリードに言った。

「友と、、、、また呼んでくれるのか?」

「当たり前だ。あの地獄のような時代を救ったのは、今のこの世があるのは、お前のおかげ。それに違いはない。」

「違う!グリードのおかげだ。僕は、、、君を裏切った!」

「そうか。そうだな。だが、もう遥か昔の事。」

「昔ではない!本当にすまなかった。」

 グリードはレクスを立ち上がらせると、言った。

「よし、ではこれで仲直りだな。」

 あまりにも軽いその言い様だったが、レクスは泣き続けた。


 その後、とりあえずアレクシスが全体を指揮していった。

 四大貴族の皆と令嬢方は先に屋敷に戻された。

 




 
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