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第一章

 すれ違い 86

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 社交のレッスンが始まり、それぞれがパートナーと手を取りダンスを踊り始める。



 その中でも一際目を引くのは、ハロルド殿下とフィリア嬢であろう。



 皆その姿を見ながら息を呑んだ。



 あれ程までに可憐で美しい様は中々見れるものではない。



 ハロルド殿下はしっかりとフィリア嬢を支え、リードし、踊っていく。



 その姿に、グリードは悲しげな表情を浮かべた。



 お似合いの二人である。



 グリードは、自分でもよく考え、フィリアと少し距離を取ることを選んだ。



 そして、初めて、客観的に二人を見た。



 お似合いなのだ。



 しかも、フィリアがハロルドを嫌いでない事をグリードは知っている。



 だからこそ、辛くなる。



 俺はむしろ邪魔なのではないかとさえ思えてくる。



 勇気がどんどんとしぼんでいく。







 フィリアは、淑女に戻るべくレッスンにも力を入れた。



 だが、入れるほどにグリードが離れていく。



 今までであれば、後をつけたり、ハロルドを睨みつけたりとしていたグリードが、一歩引いたのである。



 そして思う。



 グリードは、私とハロルドが恋愛をする事を望んでいるのだろうか。



 あの、こちらを見守る視線はなんなのだろうか。



 私はやはり、家族でしかないのだろうか。



 そう思うと胸が苦しくなる。



 私ではグリードの恋愛対象にはなり得ないのだろうか。







 そんな様子を見守る九人は大きくため息をついた。



「駄目ですわ。」



「すれ違ってる。」



「何故かしら?」



「どうしてそうなった?」



「まぁ、フィリアが可愛そうだわ。」



「いや、可愛そうなのはグリードさんだろ。」



「なんと出来ないかしら?」



「本当にまどろっこしい二人だなあ。」



 八人に対し、ニフエルはため息をつきながら言った。



「お前達は何をしているんだ?」



 八人はバッとニフエルを見ると言った。



『恋愛見守り隊です。』



 ニフエルはまた大きくため息をついた。



「人の恋路の前に、自分達が頑張るべきでは?」



『は?』



「人の一生は短い。その短い中で、どう相手と向き合っていくかで、人の一生は大きく変わる。長く生きている者からの助言だ。」



 八人はお互いの婚約者と向き合い、しばらく無言だったが、互いに手を取り合うとうなずき合い、ダンスホールへと歩いていった。



 ニフエルは、その様子を見ながら笑みを浮かべる。



「人とは、本当に可愛らしい生き物だな。」



 人の一生は短い。



 ニフエルは、すれ違うグリードとフィリアをじっと見つめた。

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