上 下
64 / 159
第一章

 ロイの困惑 63

しおりを挟む
 フィリアは怒っていた。



 昨日、グリードがやっと帰ってきた。それはもうとてもとてもボロボロな姿で。



 どこに行っていたのかと尋ねると、精霊王の所に話をしに行っていたと。



 何故黙って行ったのかと問えば、危ないからと。



 えぇ。そうですか。



 危ないから、黙って行ったと。



 へぇ。そうですか。そうですか。



 それで、数ヶ月も音信不通ですか。



 へぇ。そうですか。



 はい。もう知りません。もう怒りました。



 なので、一言も口を聞いてやりません。



 一緒に図書室で勉強をしていたロイは、グリードに遠目で睨まれいたたまれない。



「フィリア嬢、グリードさんどうした?」



 フィリアはため息をつくと、ロイの唇に人差し指を当てた。



「こら。勉強中ですよ。集中して。」



 こてんと首を傾げて上目遣いで見ると、一瞬にしてロイの顔が赤く染まった。



「フ、、フィリア嬢。そんなに簡単に異性に触れるものではない。」



 ロイの言葉に、フィリアは少し悲しげに目を伏せながら言った。



「誰にでもするわけじゃないです。ロイ様だから、、、ですよ。」



「ぅぐ、、、。」



 ロイは胸を抑えてぜーはーぜーはーとすると、もう、勉強する時間も終わりの時間が来たな!と慌てて出ていってしまった。



 図書室から逃げたロイは、三人が待ち構えるいつもの会議室に入なり、机に突っ伏した。



「無理だ!私には、、、私には耐えられない。」



「ロイ!ファイトたよ!」



「諦めるな!俺だって堪えられたんだから!」



「ロイ!僕も今からヘコみそうになるから頑張ってよ!」



「くそ、、、明らかにフィリア嬢のやつ、グリードさんが帰ってきたからって、当て付けだ!」



「確かに、、なんか、、三割増くらいになってるよね。」



「スキンシップも過多だな。」



「逆を言えばラッキーと思ってみれば?」



「思えるか!?マリアに、、幻滅されたくない。」



『あー。』



 三人は声を合わせて、頷いた。



 四人は今後の対策をあーでもない、こーでもないと話し合った。





 その頃、フィリアは荷物を片付けるとカフェへ向かって歩いていた。

 後からグリードが付いてくるが無視した。



 カフェにはハロルドがおり、こちらを見ると苦笑を浮かべた。



「フィリア。どうしたんだ?」



「なんでもありません。ハロルド、ケーキ食べたいです。」



「はいはい。一緒に食べようね。」



 そういうとハロルドはメニューをフィリアの前に広げた。



 メニューを見るうちに、フィリアの表情は明るくなっていく。



 グリードは木の影から悲しげにこちらを見つめ続けていた。



 店員を鈴で呼び、注文をする。

「えっと、ガトーショコラを一つ、飲み物はアイスラテで、ハロルドは?」



「私はこのいちごのタルトと、コーヒーを。」



「かしこまりました。」



 ハロルドはにっこりと笑みを浮かべると、フィリアの頭を撫でた。



「今日も頑張ったね。フィリア、いちごのタルトとガトーショコラを迷っていたでしょ。よかったら半分にする?」



「する!ハロルド大好き!」



「ふふ。フィリアは可愛いなぁ。」



 グリードが隠れていた木がバキバキと音を立てて折れた。



 ここ最近、親友という位置に収まったハロルドとフィリアは恋人かと言われるくらいに仲がすこぶる良かった。



 これはハロルドが自ら親友と線引きしたのと、頑張っているフィリアを親友くらいは甘やかしてもいいだろうという配慮のもとだったのだが、グリードにしてみれば納得がいくわけもない。



 ハロルドはくすくすと笑い声をあげると、フィリアに言った。



「そろそろ許してあげては?あれでは可愛そうだ。」



「あら、ハロルド。女は恐ろしい生き物だと知らなかったの?」



「あまり知りたくなかったなぁ。」



「ふふ。なら黙っていなさいな。私、怒ってますの。あ、ケーキ来ましたよ!」



 ケーキに釘付けなったフィリアは可愛らしかったが、その後の木の影では、折れた木が黒い炎で焼かれていた。



「あぁ、(木が)可愛そうに。」



 ハロルドはそう呟くと、フィリアとケーキを半分にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...