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七話 両親の温かさ

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 頬が痛い。

 人から叩かれたことなど今までなく、その為、思わず涙が滲んだ。

 普通、叩くかな?

 一応令嬢で、一応女の子で、一応貴方の婚約者ですけれど?!

「マリアを傷つけるなど、許さないぞ!」

 私はハリーを睨み付けると、その場を後にした。

 外で待機していた侍女たちは、私の姿に驚いている。

 ただ、とにかく一刻も早くハリーたちから離れたくて、ずんずんと廊下を進み、そして人目のつかない水道まで行くと私は足を止めた。

「お嬢様。大丈夫でございますか?」

 慌てた様子の侍女たちは私の頬を冷やし、そして心配そうにこちらを見つめてくる。

 痛い。

 未だにひりひりとしていて、熱を持っているように感じる。

「いったい」

 小さく呟き、私はため息をついてから言った。

「帰りましょう」

「かしこまりました」

 そう言いながらも心配そうにこちらを見つめてくる侍女たちに、私は分からないようにため息を漏らした。

 婚約者に頬を打たれるなんてと、思い馬車に乗って家に帰る。

 家に帰るなり、両親は私の頬を見て驚いたように目を丸くすると駆け寄ってきた。

「リリーその頬は!? どうしたのだ!?」

「ま、まさか……殿下が!?」

 頬にはくっきりと手形の後が付いており、明らかに女性の大きさではない。

 両親ともにぞっとしたのだろう。顔色は悪く、私のことを心配して愕然としている。

「こ、抗議文を送る!」

「そうですわ! リリーはかなりの功績をすでに立てておりますのに! あぁぁぁ! 私が殿下の頬を叩いてやりたいくらいですわ!」

 ふんふんと怒る両親に、私はぎゅっと抱き着くと、大きく息を吐いた。

「……婚約破棄したら、田舎でのんびり暮らしたいとか言っているわがまま娘なのに……なんでそんなに優しいの?」

 その言葉に両親は一瞬驚いたものの、怒りを鎮めると、くすくすと笑い私の頭を撫でながら言った。

「いいのだよ。私たちはお前が幸せであってくれたら、それでいいのだ」

「そうよ。それにあなたったら、これまでお世話になったからって、一人で起業して事業をしてあっという間に一財産築いたうえに、お世話になったからって私たちにそのお金の大半を渡そうとして……本当に優秀すぎるのよ」

 両親はぎゅっと私を抱きしめながら頭をやさしくなで続けてくれる。

「本当に、いいの?」

「当り前だ。この貴族社会はお前には合わないのだろう? お前が伸び伸びと元気に過ごしてくれれば私たちはいい」

「そうよ。それに、殿下の婚約者としての役目を貴方はもう十分に努めているわ。あぁぁ! それにしてもあなたの可愛い顔にこんなにするなんて! 本当に腹立たしいわ!」

「ふふふ。でも、お父様とお母様にこんなに甘えられるんだから、ちょっと得したわ」

 私の言葉に両親は、小さく笑い、それから父は医者を呼び私の手当てをさせた。手当とはいっても冷やすくらいなのに、二人とも大げさなくらいに心配をしていた。

 その後は家族で久しぶりにゆっくりと過ごし、私の心はどうにか落ち着いていった。

 ただ、夜一人になると、ふっと怒りが込み上げてきた。

「なんで私が叩かれないといけないのよ。ハリー様のバカ」

 さっさと婚約破棄しろと、内心思うばかりだった。


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