30 / 31
第三十話 混浴風呂
しおりを挟む
ユグドラシルはルシフェルにお願いをして、エドも一緒に温泉へと移動してもらったのだが、温泉へ入ろうと誘ってもエドは顔を真っ赤にして首を横にぶんぶんと振った。
「ひっ一人で入れるから!」
その声に、ユグドラシルは唇を尖らせた。
「一緒に入った方が楽しいよ!」
「君は女の子だろう!?」
「まだ十一歳だからいけるって!」
何がいけるのだろうか。
ルシフェルは元の姿に戻ると、ぱちんと指を鳴らした。
するとユグドラシルは可愛らしい水着のようなワンピースに、そしてエドも短パンのような姿へと変わった。
その様子に少女のような悲鳴を上げたのはエドであった。
「きゃぁぁっ!」
「可愛い。エド。」
思わずと言ったようにユグドラシルはそう呟くと、エドに抱き着いた。
「ふふふ!可愛いね!」
「やっやめて!」
年上であろうにユグドラシルに翻弄されるエドにルシフェルは多少同情しながら二人を温泉の中へと突き落とした。
温泉に入ると見る見るうちにエドの体にこびりついていた汚れたちは消え始め、体の至る所についていた傷も消えていく。
そして次の瞬間エドは自分のお尻のあたりにある違和感に気が付くと、目を丸くした。
「切られて・・・もう・・・生えてこないと思ってた・・・・」
「何が?」
「俺の尻尾・・・」
エドには銀色の美しい長い尻尾が生えており、水にぬれて艶やかに輝いていた。
そしてはっとユグドラシルに慌てて視線を向けると尻尾を隠した。
以前看守に異形で醜いと切り落とされた恐怖と激痛が蘇り体が震える。
ユグドラシルは隠された尻尾に、にやりと笑みを浮かべるとエドに飛びかかった。
エドはぎゅっと固く目を瞑り痛みに耐えようとしたが、訪れたのは痛みではなく、くすぐったさだった。
「綺麗な尻尾!素敵!」
「っひゃ・・・くすぐったい・・・」
丁寧に優しく撫でられ、その指の感覚にエドは身悶えた。
「乾かしたらきっともっと綺麗だろうねぇ・・・はぁ・・・温泉で体があったまったら、乾かしてからまた触らせてね。」
尻尾を解放されたのは良いが、楽しみだと言わんばかりに恍惚とした笑みを浮かべてこちらをにっこりと見つめられたエドは顔を引きつらせてルシフェルの方へと助けを求めるように視線を向けた。
エドはリスのような生き物が人型の姿に変わった瞬間も驚きはしたが、それ以上に、今、助けを求められるのがルシフェルしかいないと、縋り付くような視線を向けると、ルシフェルはため息をついた。
「ユグドラシル・・・そんなに容易く男性に触れていいものではないよ。」
「じゃあ温泉からあがったら、ルシフェルをもふもふしてもいい?」
「まぁ子ども同士だしな、仲良くなるのはいいこと。やっぱりいい。」
すぐさま見捨てられたエドは目を見開いたが、ユグドラシルの嬉しそうな笑顔に、何とも言えず、静かに温泉につかると、体を洗った。
お湯につかったのはいつぶりであろうか。
そんなことをエドは考えながらお湯の滑らかさに小さく息をついた。
「ねぇ、エド様。」
「・・・エドでいい。」
「ふふ。なら私の事はユグドラシルって呼んでね?」
「・・・長いな・・・」
「なら、ユシーで。」
「うん。ユシー。」
名前を呼ばれたユグドラシルは嬉しそうににこにこと微笑を浮かべた。
エドは優しい笑顔など久々に見たからなのか心臓がどくどくといってとまらず、顔をお湯でばしゃばしゃと洗った。
「あのね、エド。これからのことなんだけど・・・・お父さんの所に、戻りたい?」
突然の事に、エドは動きを止めた。
父上の所に・・・だが次の瞬間、エドの体は震えだす。
もしかしたら、またあの場所へと戻されるかもしれないと言う恐怖を感じ、そこで、エドは自分の本心を悟った。
父上の事を、もう、信じられない。
何故?
ユグドラシルと会う前までは確かに、父上の所に言って、助けを求めて、父上のためにと思っていたのに。
「エド?」
心配げな声にはっと顔を上げて、ユグドラシルの瞳を見て、エドは知った。
自分に向けるユグドラシルの澄んだ瞳と、父親の瞳。
なるほどと、自嘲気味にエドは笑みを浮かべると、父親の自分に向けていた瞳が優しさなどひとかけらも含んでいなかったことを知った。
この瞳を知ったから、自分は父上の事が信じられなくなったのだなと、エドはため息をつくと首を横に振った。
「帰りたくない・・・もし、ユシーがいいなら・・・ユシーの傍にいたら、ダメか?」
「本当に!?」
ざばんと温泉の中で立ち上がったユグドラシルは瞳をキラキラと輝かせ、そして嬉しそうに頬を緩めてにこにこと笑っている。
「ユシーが・・・いいのなら。一緒にいたい。」
おずおずとそう言うと、ユグドラシルはエドに勢いよく抱き着き、二人は温泉の中に沈んだ。
突然の事にエドは驚いて温泉の中で目を見開らいたが、ユグドラシルにぎゅっと抱きしめられて、その体の細さや柔らかさに堪えきれずに水面へと出ると顔を真っ赤にして言った。
「一緒にいたいけど、女の子はそんなに簡単に抱き着いちゃダメだよ!」
「だって嬉しいんだもん!私、ずっとルシフェルしか傍にいてくれなかったから、嬉しい!」
「そっ・・・それは・・・」
まんざらでもない様子のエドの様子に、ルシフェルはにやにやと笑みを浮かべていた。
最初こそ呪われた王子はどんなに嫌な奴で、ユグドラシルを傷つけるのではないかと思って心配していたが、それが杞憂に終わったことにほっとする。
それと同時に、ユグドラシルが一緒にいようと初めて思える相手が出来た事がルシフェルは嬉しかった。
「ひっ一人で入れるから!」
その声に、ユグドラシルは唇を尖らせた。
「一緒に入った方が楽しいよ!」
「君は女の子だろう!?」
「まだ十一歳だからいけるって!」
何がいけるのだろうか。
ルシフェルは元の姿に戻ると、ぱちんと指を鳴らした。
するとユグドラシルは可愛らしい水着のようなワンピースに、そしてエドも短パンのような姿へと変わった。
その様子に少女のような悲鳴を上げたのはエドであった。
「きゃぁぁっ!」
「可愛い。エド。」
思わずと言ったようにユグドラシルはそう呟くと、エドに抱き着いた。
「ふふふ!可愛いね!」
「やっやめて!」
年上であろうにユグドラシルに翻弄されるエドにルシフェルは多少同情しながら二人を温泉の中へと突き落とした。
温泉に入ると見る見るうちにエドの体にこびりついていた汚れたちは消え始め、体の至る所についていた傷も消えていく。
そして次の瞬間エドは自分のお尻のあたりにある違和感に気が付くと、目を丸くした。
「切られて・・・もう・・・生えてこないと思ってた・・・・」
「何が?」
「俺の尻尾・・・」
エドには銀色の美しい長い尻尾が生えており、水にぬれて艶やかに輝いていた。
そしてはっとユグドラシルに慌てて視線を向けると尻尾を隠した。
以前看守に異形で醜いと切り落とされた恐怖と激痛が蘇り体が震える。
ユグドラシルは隠された尻尾に、にやりと笑みを浮かべるとエドに飛びかかった。
エドはぎゅっと固く目を瞑り痛みに耐えようとしたが、訪れたのは痛みではなく、くすぐったさだった。
「綺麗な尻尾!素敵!」
「っひゃ・・・くすぐったい・・・」
丁寧に優しく撫でられ、その指の感覚にエドは身悶えた。
「乾かしたらきっともっと綺麗だろうねぇ・・・はぁ・・・温泉で体があったまったら、乾かしてからまた触らせてね。」
尻尾を解放されたのは良いが、楽しみだと言わんばかりに恍惚とした笑みを浮かべてこちらをにっこりと見つめられたエドは顔を引きつらせてルシフェルの方へと助けを求めるように視線を向けた。
エドはリスのような生き物が人型の姿に変わった瞬間も驚きはしたが、それ以上に、今、助けを求められるのがルシフェルしかいないと、縋り付くような視線を向けると、ルシフェルはため息をついた。
「ユグドラシル・・・そんなに容易く男性に触れていいものではないよ。」
「じゃあ温泉からあがったら、ルシフェルをもふもふしてもいい?」
「まぁ子ども同士だしな、仲良くなるのはいいこと。やっぱりいい。」
すぐさま見捨てられたエドは目を見開いたが、ユグドラシルの嬉しそうな笑顔に、何とも言えず、静かに温泉につかると、体を洗った。
お湯につかったのはいつぶりであろうか。
そんなことをエドは考えながらお湯の滑らかさに小さく息をついた。
「ねぇ、エド様。」
「・・・エドでいい。」
「ふふ。なら私の事はユグドラシルって呼んでね?」
「・・・長いな・・・」
「なら、ユシーで。」
「うん。ユシー。」
名前を呼ばれたユグドラシルは嬉しそうににこにこと微笑を浮かべた。
エドは優しい笑顔など久々に見たからなのか心臓がどくどくといってとまらず、顔をお湯でばしゃばしゃと洗った。
「あのね、エド。これからのことなんだけど・・・・お父さんの所に、戻りたい?」
突然の事に、エドは動きを止めた。
父上の所に・・・だが次の瞬間、エドの体は震えだす。
もしかしたら、またあの場所へと戻されるかもしれないと言う恐怖を感じ、そこで、エドは自分の本心を悟った。
父上の事を、もう、信じられない。
何故?
ユグドラシルと会う前までは確かに、父上の所に言って、助けを求めて、父上のためにと思っていたのに。
「エド?」
心配げな声にはっと顔を上げて、ユグドラシルの瞳を見て、エドは知った。
自分に向けるユグドラシルの澄んだ瞳と、父親の瞳。
なるほどと、自嘲気味にエドは笑みを浮かべると、父親の自分に向けていた瞳が優しさなどひとかけらも含んでいなかったことを知った。
この瞳を知ったから、自分は父上の事が信じられなくなったのだなと、エドはため息をつくと首を横に振った。
「帰りたくない・・・もし、ユシーがいいなら・・・ユシーの傍にいたら、ダメか?」
「本当に!?」
ざばんと温泉の中で立ち上がったユグドラシルは瞳をキラキラと輝かせ、そして嬉しそうに頬を緩めてにこにこと笑っている。
「ユシーが・・・いいのなら。一緒にいたい。」
おずおずとそう言うと、ユグドラシルはエドに勢いよく抱き着き、二人は温泉の中に沈んだ。
突然の事にエドは驚いて温泉の中で目を見開らいたが、ユグドラシルにぎゅっと抱きしめられて、その体の細さや柔らかさに堪えきれずに水面へと出ると顔を真っ赤にして言った。
「一緒にいたいけど、女の子はそんなに簡単に抱き着いちゃダメだよ!」
「だって嬉しいんだもん!私、ずっとルシフェルしか傍にいてくれなかったから、嬉しい!」
「そっ・・・それは・・・」
まんざらでもない様子のエドの様子に、ルシフェルはにやにやと笑みを浮かべていた。
最初こそ呪われた王子はどんなに嫌な奴で、ユグドラシルを傷つけるのではないかと思って心配していたが、それが杞憂に終わったことにほっとする。
それと同時に、ユグドラシルが一緒にいようと初めて思える相手が出来た事がルシフェルは嬉しかった。
0
お気に入りに追加
367
あなたにおすすめの小説
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
×××
取扱説明事項〜▲▲▲
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
チート過ぎるご令嬢、国外追放される
舘野寧依
恋愛
わたしはルーシエ・ローゼス公爵令嬢。
舞踏会の場で、男爵令嬢を虐めた罪とかで王太子様に婚約破棄、国外追放を命じられました。
国外追放されても別に困りませんし、この方と今後関わらなくてもいいのは嬉しい限りです! 喜んで国外追放されましょう。
……ですが、わたしの周りの方達はそうは取らなかったようで……。どうか皆様穏便にお願い致します。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです
矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。
――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。
※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる