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第二十八話 地下牢の住人

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 ユグドラシルは谷を駆けていた。

 本来ならば道を知らぬ者はその自然の驚異に飲み込まれてしまうであろうその道であったはずが、ユグドラシルにはどこを通ればいいのかが手に取るようにわかった。

 物語に描かれていた、銀の道をたどっているのである。

 銀の道とは、安全に谷を抜けるための目印であり、銀色の鉱石が地面に転々と埋め込まれているのである。

 ユグドラシルはその道を駆けて行きながら、途中で谷の下に降りると、暗い岩の陰に隠された地下牢へと続く暗闇の洞窟を見つめた。

 ここは、本来であれば敵である地下牢の住人が、要塞から逃げるために使う道。

 ユグドラシルは拳を握ると、勇気を振り絞ってその暗闇の中へと足を踏み入れた。

「ユグドラシル。誰に会うんだ?」

 ルシフェルの言葉に、ユグドラシルは小さな声で答えた。

「・・エド・ローラン。帝王シュバルツ・ローランの呪われた王子。」

 その名にルシフェルは目を丸くすると、ユグドラシルの頭をぺちんと小さな手で叩いた。

「何を簡単に言っている!呪われた王子と言えば、シュバルツが大いなる力を得ようとし、失敗したが故にシュバルツの代わりに呪いを受けたと言う者であろう!何故そのような者に会う必要があるのだ!」

 ルシフェルの言葉が静かな暗闇に響いた。

 呪われた王子エドの登場は、物語がシュバルツ帝王に迫っていく途中である。革命軍が次第に力をつけはじめ、そして焦りを見せ始めたシュバルツの前に、呪われた王子であるエドは姿を現し、そして父に懇願するのだ。

 自分は必ず役に立って見せる。だからこそ、自分を我が子と認めて、傍に置いてほしいと。

 愛されなかった呪われた王子は、父のせいで呪われたと言うのに、憎むのではなく、父親の愛情を欲した。

 シュバルツはエドの心を利用する事にし、息子にこれまでのことを謝罪し、愛情のかけらさえないのに、息子への偽りの親愛を伝え、そして利用し、息子を道具として扱う。

 呪いの力は、エドを醜い姿に変えた代償に大いなる力を与え、戦況はエドによって覆されそうになるが、それをユグドラシルらは力を合わせて乗り越える。

 そして、戦いに敗れ、力尽きそうになり、父に助けを求めた息子を、シュバルツはあざ笑って殺すのだ。

『お前の事を息子だと思った事などない。悍ましい呪われた者よ・・』

 ユグドラシルは、拳を力いっぱいに強く握ると、唇を噛んだ。

 エドは愛を求めただけだった。けれど、ただただ力だけを利用されて、そして、最後には何も報われない。

 物語の中で、ユグドラシルは彼の死を知り、涙を流す。

「ルシフェル・・・あのね、私、欲張りなんだと思う。」

 馬鹿だから、助けられる人は、助けたい。

 それが敵でも、見方でも。

「それにさ、危なくなったらルシフェルもいるし、大丈夫でしょう?」

 上目使いでそう言われ、ルシフェルは大きくため息をついた。

「・・・危ないと思ったら、すぐに逃げるぞ。」

「うん。ありがとう。ルシフェル。」

 暗く長い道を歩きながら、二人は異臭のする洞窟の中を進んで行くのであった。

 

 
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