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第二十話 夢のまどろみ

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 貴方は夢から覚めるとき、どんな風に起こされたい?

 私だったら、大きな声で呼ばれて揺すられて起こされるのはまっぴら。

 できる事なら、まどろみからゆっくりとゆっくりと穏やかに起きたい。

 けれど、普通の日常じゃあそうはいかない。

 けれどね、夢竜を起こすときだけは、絶対に、絶対にゆっくりと穏やかな目覚めが必要なのだ。

 間もなく朝がやってくるであろう時。

 森の中には霧が立ち込め、わずかながらに太陽の光が地面を照らし始める。

 雲が流れ、空が朝焼けに染まっていく。

「では、行きます。」

 風が森へとふきこむ。

 ユグドラシルは、夢竜の眠る泉へと足をつけ、そして指先でわずかに波を起こしながら歌を歌い始めた。

 それは、今は亡き、亡国の歌。


 風に乗せ、水をゆっくりと撫で、そして太陽の光のわずかに落ちる水面を揺らす。

 歌は静かに響き、静寂の森へと溶けていく。

 ゆっくりと、ゆっくりと水が揺れる。

 そして、夢竜の大きな瞳がぴくりと動き、歌に合わせて少しずつ少しずつ開いていく。

 まどろみから目覚める夢竜は、心地よさそうに大きく欠伸をすると、ゆっくりと動きだし、そして水から頭だけをぷかりと出すと、大きな舌でぺろりと自身の顔を舐めてからユグドラシルの方へと顔を伸ばした。

『これはこれは、なんと美しき子だ。』

 ユグドラシルは笑みを浮かべると言った。

「おはようございます。夢竜様。」

『あぁおはよう。これほどまでに気持ちの良い目覚めはいつ振りか。美しき子、そなたが起こしてくれたのだろう?名は何と言う?』

 ユグドラシルは頭を下げて言った。

「ユグドラシルと申します。」

『ユグドラシルか。ふふふ。良い名だな。それで、我を起こして、どうかしたのか?』

 その言葉に、ユグドラシルはゆっくりと夢竜の様子を見ながら言った。

「実は、この森は魔物の住む森でして。」

『ほう。なんと。川を泳いできて、何とも静かで寝心地が良さそうだったからいついたが、魔物の森の中であったか。ははは。それは、魔物に悪い事をした。もしや、そこにいるのが魔物の王か?』

 何かがあってもすぐに動けるようにと隠れていたガジェラルに夢竜がそう言った事で、ガジェラルはばつが悪そうに姿を現した。

「あぁ。ガジェラルと言う。」

『ほうほう。なるほど。それで、お前の後ろにいるちびは、もしや精霊の王か?』

 ルシフェルは姿を変えると夢竜の前へと進み笑った。

「その通りだ。何でもお見通しだな。」

『あぁ。我は夢でこの世界を渡っているからな。なるほどなぁ。いい居場所だったんだがなぁ。魔物の森では、魔物に害になるしの。』

 残念そうにする夢竜にもここにいてはいけないことは分かっているようだと思いユグドラシルはほっとした。

 出て行けと、本人に言うのは気が引けたのである。

『まぁいい。良く寝たし、あと百年ほどは起きてられそうだ。また居場所を探す。』

 ユグドラシルは恭しく頭を下げた。

 その様子に夢竜は笑みを浮かべると、水の中から飛び上がり、そしてユグドラシルの眼前に顔を向けると言った。

『運命に選ばれし美しき子ユグドラシルよ。気持ちよく目覚められた礼に、お前が願った時、力を貸してやろう。お前に守護を。』

「え?」

 次の瞬間ユグドラシルの体にふわりとした光が舞い、その額に夢竜の刻印が刻まれた。

『ではな!』

 夢竜は飛び去り、ユグドラシルは呆然とした顔でそれを見送った。

 その様子に、ガジェラルは息を飲んだ。

 夢竜が守護の刻印を渡すなど、聞いたことがない。

 この娘の力かと、ガジェラルは心が震えた。




 ユグドラシルは内心で大きく息をついた。

 よかったぁぁぁぁぁ。

 歌が下手くそで森が崩壊とかになったらどうしようかと思った!

 無事に心地よく目覚めてくれてありがとう!

 森を壊さないでくれてありがとう!

 でも夢竜から刻印もらったけど、こんな目立つところに刻まれたらもう前髪を上げられないじゃないか。

 このおでこのせいで嫁にいけなかったらどうしようか。

 まぁ、嫁に行けるとは思わないんだけれども。

 でも、とにかく、無事空飛んでってくれてありがとう!



 ルシフェルはユグドラシルがまた変な事を考えてそうだなと思い、ため息をついた。



 

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