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九話 父から明かされた真相

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 お父様から王城の執務室に来るようにとの連絡を受け、私はいよいよ何かがおかしいという事実が真相に近づいている気がしていた。

 屋敷ではなく王城。

 しかもお父様からの連絡は内々でお届いており、明らかにエルの目を気にしている様子であった。

 王城へとエルに気付かれないように馬車に乗って向かい、そしてお父様の執務室へと指定された時間へと訪れた。

 扉の前で深呼吸をしてから、外に控えていた侍従に扉を開けてもらう。

 部屋の中へと入ると、ソファの前でそわそわとした様子のお父様が目に入り、そして私のことを見た瞬間に泣きそうな表情を浮かべられた。

 今まで見たことのないお父様のその表情に、私は驚くと同時に、お父様がすごい勢いでこちらへと歩み寄ってくるものだから一歩後ずさってしまった。

 すると、お父様は私の目の前まで来て、ぴたりと足を止めると、両手を広げたまま固まった。

「お、お父様?」

 びくりとお父様がしたかと思うと、動きを止め、そしてゆっくりと顔をあげた。

「シーラ」

「はい」

 お父様の瞳一杯に涙がたまっており、私は一体何が起こっているのかと思っていると、咳払いが聞こえ、何故か奥のソファには第二王子殿下であるカイル様がいた。

「だ、第二王子殿下にご挨拶申し上げます」

 慌てて頭を下げると、カイル様は苦笑を浮かべて口を開いた。

「親子の感動の再開を邪魔してすまない。ただ、今回の一件の最終的な後始末を父から頼まれてね。この場に参加させてもらうこととなったのだよ」

 その言葉に、私はお父様へと視線を移すと、お父様は大きく息をついてから口を開いた。

「シーラ。これまでお前には苦労を掛けてすまなかった。どうか、これまでの私の話を聞いてほしい」

「は、はい」

 私は父に促されソファへと向かい、そしてそこからエルについてお父様から全ての真相を聞くこととなった。そして話を聞きながら、私は、今まで思っていたことがどんどんと腑に落ちていく。

 そして全て聞き終えた後に、私は思わず口を開いた。

「なるほど……やはり、私の目がおかしいわけではなかったのですね」

「え?」

 お父様もカイル様もきょとんと小首をかしげており、私は思わずはっきりと言ってしまった。

「私も、私の妹そこまで可愛いかしら?ってずっと思っていましたの。やっぱり、普通ですよね。えぇ。よかったです。私、自分の目がおかしいのかと思ってしまうところでしたわ」

 一瞬の間の後に、カイル様がぷっと吹き出した。お父様は呆然とした後に、眉間にしわを寄せてから口を開く。

「すまない……シーラには本当に辛い思いばかりをさせた」

 お父様の悲し気な声に、私は何と答えていいものか思いをはぜる。

 幼い頃から、辛く悲しいことはたくさんあった。

 愛されていないと、涙は枯れ果ててしまった。

 けれど。

「お父様やお母様、お兄様……誕生日にはプレゼントをくださったでしょう? あれは、一体どうしたのです?」

 ずっと気になっていたのだ。誕生日には、愛していると言葉を添えてプレゼントをくれていた家族。

 それが余計にどうしてと自分を混乱させた。

「……私は、王城に仕事という名目で魅了の魔法から離れることが出来た。だからプレゼントはその時に選んでいたんだ。お前の母は、魅了にかけられていても、お前の誕生日だけは、プレゼントはこれをと話をしていた。愛娘の誕生日だけは決して忘れなかった。元々体の強い人ではないから舞踏会なども必要最低限しか出られないから魅了の魔法に強くかかっていたというのにな……」

「お兄様は?」

「……クリストフは、学園に通い、私の仕事を手伝うようになってから、自分の異質な状況を知った。そしてそこからお前へのプレゼントを送れるようになった。ただ、クリストフは自分がエルを招き入れてしまったと、ずっと後悔をし、お前には合わせる顔がないと言っている」

 私は、その言葉を聞き、少しだけ胸の内が晴れた。

 自分は、愛されていなかったわけではなかった。

 そう、思った瞬間、枯れたと思っていた涙が零れ落ちた。

 私は、愛くらいなんだと諦めていたつもりだったけれど、それでも心の中ではずっと愛されたかった。

 だから。

 お父様に、おずおずとした様子で抱きしめられ、私は、声をあげて、子どものように泣き喚いた。

 公爵家の異質な状況を私に知らせるべきか、お父様はかなり悩んだらしい。王城にて正気に戻った瞬間、その間に私をレオ様の実家へと嫁入りと称して送る計画もあったそうだ。

 けれど、私に何かしらをしようとした瞬間エルの魔力が暴走し、私に危害を加えようとしたらしい。

 身動きが取れなかったという事実に、私を強く抱きしめたお父様の温かさを感じ、私はまた声をあげて泣いた。


 
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