上 下
2 / 13

二話 デビュタント

しおりを挟む
 デビュタント当日。私は十五歳にして初めての舞踏会であり、婚約者である公爵家令息のレオ様と共に王城へと向かっていた。

 レオ様との婚約が決まったのは生まれて間もない頃である。

 それからずっと婚約者ではあったが、レオ様もまた、妹の熱狂的な信者であった。

 もはや妹は何かしらの宗教の長として君臨した方がいいのではないかと思ってしまうくらいである。

「はぁ……君さえいなければ、僕はエル嬢の婚約者となれるのに」

 そんなことを毎回呟かれる身としては、ではどうぞエルの元へといってくださいと言いたくなる。ただ、貴族の令嬢として、建前ではちゃんと微笑みを携えている。

「申し訳ございません」

 そう言ってにこやかに微笑むと、むっとしたようにレオ様は眉間にしわを寄せてそっぽを向いてしまった。

 私は内心大きなため息をついた。

 エルは過保護な両輪と兄の手によって屋敷以外の外へと出たことがない。だからこそまだ信者はいないものの、もしデビュタントを済ませたならば、大量に信者が増えるのではないかと私は内心ドキドキしている。

 エルの信者大量増殖など考えただけで背筋が凍ってしまう。

 家族に放置され続けた十二年間で、私はかなり学んだ。

 妹には近寄ってはならない。

 妹に近寄った者と接触は出来るだけ避ける。

 妹が欲しいと言ったものは有無を言わず全て差し出す。

 これは私の処世術である。はっきり言ってエルと戦って得することはなく、エルとは絶対的に距離を取った方がいいのである。

 幼かったころは寂しかったし、悲しくて毎日泣いた。

 けれど、もはやそれが私の中では普通となり、そして、ちゃんと世話してくれる人がいて、ごはんも食べられて教育も受けられるのだからと、愛に関しては諦めた。

 愛されることを望むのは、エルを前にして一番やってはいけないことだ。

 私はそれを嫌というほど学んでいた。

 両親も、兄も、私に送られてくるプレゼントも。全てエルが奪っていった。

 仲良くなれそうな侍女や使用人たちも、エルに出会ってしまえば全て奪われた。

 だから、私は諦めることを学んだのだ。

 愛くらい、別になくても生きていける。

 私はその辺の令嬢よりも自分が逞しい自信がある。ただ、目の前にいる婚約者であるレオ様に関してはどうしたものかと頭が痛い。

 はっきり言って、レオ様に熨斗を付けてエルへと送りたいところなのだが、公爵家同士の家と家をつなぐ婚約であり、エルに会ったことのないレオ様の両親はそれを良しとはしていない。

 エルに会えばきっと考えも変わるのだろうがと私は内心思うのだが。

 王城につき、レオ様は私を一応エスコートしてくれるが、顔はすごく不満げである。

 それでも私は、エルのいない今日のデビュタントだけは幸福な気持ちのままでいたいなと思ったのであった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄をされるので、幼馴染みからの告白で上書きしたいと思います!

櫻野くるみ
恋愛
「大丈夫だよ。今週末の夜会でシンシアには婚約破棄を突きつけるつもりだ。大勢の前で宣言してやる。俺が愛しているのはルイーザだけだって……」 何ですって!? 夜会で婚約破棄されるなんて、私のプライドが許さないわ! 深窓の令嬢だと思われている伯爵令嬢のシンシアは、偶然婚約者が婚約破棄を計画していることを知ってしまう。 猫をかぶっているだけで、実は見栄っ張りなシンシアには、人前でみっともなくフラれるなんて許せなかった。 そこで、幼馴染みのレナードに婚約破棄を宣言されたタイミングで告白して欲しいと頼み込む。 「幼馴染みとの真実の愛」だとアピールし、印象を上書きさせようという計画だった。 すぐに破局したことにすればいいと考えていたシンシアだったが、年下で弟のように思っていたレナードは、シンシアより上手で? その場しのぎの告白のはずが、いつの間にか腹黒の幼馴染みに囲い込まれて逃げられなくなっていたお話。 短編です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

初恋の思い出はペリドットのブローチと共に

恋愛
それは決して実らせてはいけない恋だった。 アシルス帝国皇妃ソフィーヤは、娘のアナスタシアが見つけた意匠が凝らされたペリドットのブローチを見て、過去を思い出す。 それはソフィーヤがナルフェック王国の王女ソフィーだった頃の、決して実ることがなかった初恋の話。 また、ロシア系の名前を使っておりますので男女で苗字が違う場合があります。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【完結】婚約者がクズだと結構大変なんです 政略結婚もままならないお話

かのん
恋愛
 婚約者がクズだと大変だよっていうお話。  軽くさっと、王子なんて捨てちまえ! と思っちゃう、短編です。  お暇な時に、どうぞ~  

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...