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十一話 縋りつく男
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楽しい時間とは早く過ぎていくもので、舞踏会も間もなく終わりを告げる鐘がなる。
「セリーナ嬢。飲み物を取ってくるから、少し待っていてください。すぐに戻りますね」
「はい」
最後に飲み物でのどを潤してから帰ろうと、ロラン様は優しく微笑みを私に向けてから飲み物を取りに向かった。
その時だった。
私は後ろから肩に手を置かれ、驚いて振り返った。
「セリーナ……」
「え?」
そこには、顔色の悪いアベル様が立っていた。その瞳はうるんでおり、突然、私の目の前で跪いた。
「せりーなぁぁぁぁ」
その上、大量の涙を流し始めるものだから私は驚いて、どうしたらいいのだろうかと戸惑ってしまう。
「あ、あの。アベル様、落ち着いてくださいませ」
「お、俺にはやっぱり、お前しか、いない。お願いだ。お願いだから、俺の元に戻ってきてくれぇぇぇ」
わんわんと子どものように泣かれ、私は困ってしまう。
人の視線も集まり始め、私は、とにかく人目を避けようと、アベル様をテラスへと誘導し、扉は開けたまま、アベル様をテラスに用意された椅子に座らせた。
アベル様は涙をぼたぼたと流しながら縋ってくる。
「俺を、俺を本当に愛してくれるのはお前だけだ……セリーナ。お願いだ、もう一度、もう一度俺を愛してくれ」
けれどそういわれても、困ってしまう。
私はアベル様にはっきりと告げた。
「申し訳ございませんが、もう、貴方様を愛することはありませんわ」
「なっ……何故だよ。だって前はあんなに愛してくれたじゃないか」
駄々をこねる子どものようなアベル様に、私は困ったように微笑み、胸に手を当てて言った。
「私の心はもう、貴方様には向きません。今、私の心はロラン様へ向いております」
「なん……だと……嘘だ、嘘だぁ。大丈夫だ。俺が、俺への想いを思い出させてやる!」
「え?」
次の瞬間腕を引かれてアベルの腕の中に抱きしめられそうになるが、そうはならなかった。
「何をしている」
怒気のこもった声が響き、私は腰を抱かれてロラン様の腕の中にいた。
密着する状況にドキドキとしながらロラン様を見上げると、恐ろしい形相で、アベル様を睨んでいた。
アベル様は一瞬で涙を引っ込めると、ロランの目の前に跪いていった。
「お、お願いだ。セリーナのことは諦めてくれ! 俺には、俺にはセリーナしかいないんだ!」
その言葉に、ロランは鼻で笑うと言った。
「様々な女性に泣きついて、ふられている事実を私は知っている。最後の砦とばかりに、セリーナ嬢に縋るとは、なんと失礼な。二度と彼女には近づくな」
「なっ!? だ、だが、お前たちはまだ婚約はしていないんだろう! 決めるのは、セリーナだろう!?」
私は大きくため息をつきながら、ロラン様の胸に首をもたげながら答えた。
「ですから、貴方様のことはもう愛しません。私が愛を向けるのはロラン様です」
「そ……そんなぁ……」
がっくりと項垂れるアベル様は、ロラン様のお知り合いの騎士様方に連れていかれてしまいました。
「アベル様……どうなさったのでしょうね」
思わずそう呟くと、私はロラン様の腕の中に抱きしめられた。
どきっとして、ロラン様を見上げると、ロラン様は顔を真っ赤に染め上げていた。
「先ほどの言葉、本当ですか?」
「え?」
先ほどアベル様に言った言葉を思い出し、私もロラン様同様に顔に熱がたまる。
私は、緊張しながらも、小さくうなずいた。
「は、はい。私、ロラン様をお慕いしています。ですから、婚約をお受けしようと思います」
「セリーナ嬢! ありがとう!」
ぎゅっと抱きしめられ、私とロラン様のお互いの心臓がどきどきとしているのが伝わる。
それが心地よくて、私は幸福な時間を味わった。
★★★★
9月18日12時より
『妊娠中の姉さんの夫に迫られて、濡れ衣を着せられた』全21話の公開を開始しています!
よろしければこちらも読んでいただけたらうれしいです!
「セリーナ嬢。飲み物を取ってくるから、少し待っていてください。すぐに戻りますね」
「はい」
最後に飲み物でのどを潤してから帰ろうと、ロラン様は優しく微笑みを私に向けてから飲み物を取りに向かった。
その時だった。
私は後ろから肩に手を置かれ、驚いて振り返った。
「セリーナ……」
「え?」
そこには、顔色の悪いアベル様が立っていた。その瞳はうるんでおり、突然、私の目の前で跪いた。
「せりーなぁぁぁぁ」
その上、大量の涙を流し始めるものだから私は驚いて、どうしたらいいのだろうかと戸惑ってしまう。
「あ、あの。アベル様、落ち着いてくださいませ」
「お、俺にはやっぱり、お前しか、いない。お願いだ。お願いだから、俺の元に戻ってきてくれぇぇぇ」
わんわんと子どものように泣かれ、私は困ってしまう。
人の視線も集まり始め、私は、とにかく人目を避けようと、アベル様をテラスへと誘導し、扉は開けたまま、アベル様をテラスに用意された椅子に座らせた。
アベル様は涙をぼたぼたと流しながら縋ってくる。
「俺を、俺を本当に愛してくれるのはお前だけだ……セリーナ。お願いだ、もう一度、もう一度俺を愛してくれ」
けれどそういわれても、困ってしまう。
私はアベル様にはっきりと告げた。
「申し訳ございませんが、もう、貴方様を愛することはありませんわ」
「なっ……何故だよ。だって前はあんなに愛してくれたじゃないか」
駄々をこねる子どものようなアベル様に、私は困ったように微笑み、胸に手を当てて言った。
「私の心はもう、貴方様には向きません。今、私の心はロラン様へ向いております」
「なん……だと……嘘だ、嘘だぁ。大丈夫だ。俺が、俺への想いを思い出させてやる!」
「え?」
次の瞬間腕を引かれてアベルの腕の中に抱きしめられそうになるが、そうはならなかった。
「何をしている」
怒気のこもった声が響き、私は腰を抱かれてロラン様の腕の中にいた。
密着する状況にドキドキとしながらロラン様を見上げると、恐ろしい形相で、アベル様を睨んでいた。
アベル様は一瞬で涙を引っ込めると、ロランの目の前に跪いていった。
「お、お願いだ。セリーナのことは諦めてくれ! 俺には、俺にはセリーナしかいないんだ!」
その言葉に、ロランは鼻で笑うと言った。
「様々な女性に泣きついて、ふられている事実を私は知っている。最後の砦とばかりに、セリーナ嬢に縋るとは、なんと失礼な。二度と彼女には近づくな」
「なっ!? だ、だが、お前たちはまだ婚約はしていないんだろう! 決めるのは、セリーナだろう!?」
私は大きくため息をつきながら、ロラン様の胸に首をもたげながら答えた。
「ですから、貴方様のことはもう愛しません。私が愛を向けるのはロラン様です」
「そ……そんなぁ……」
がっくりと項垂れるアベル様は、ロラン様のお知り合いの騎士様方に連れていかれてしまいました。
「アベル様……どうなさったのでしょうね」
思わずそう呟くと、私はロラン様の腕の中に抱きしめられた。
どきっとして、ロラン様を見上げると、ロラン様は顔を真っ赤に染め上げていた。
「先ほどの言葉、本当ですか?」
「え?」
先ほどアベル様に言った言葉を思い出し、私もロラン様同様に顔に熱がたまる。
私は、緊張しながらも、小さくうなずいた。
「は、はい。私、ロラン様をお慕いしています。ですから、婚約をお受けしようと思います」
「セリーナ嬢! ありがとう!」
ぎゅっと抱きしめられ、私とロラン様のお互いの心臓がどきどきとしているのが伝わる。
それが心地よくて、私は幸福な時間を味わった。
★★★★
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