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七話 アベル

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 ー捨てられた。

 アベルは自室で謹慎を言い渡され、静かに部屋の中に座り込んでいた。

 セリーナとの結婚は十歳の時に決められた。その頃からセリーナは天使のような笑顔で自分を毎回受け入れてきた。

 会えば笑顔で嬉しそうに笑う少女だった。

『アベル様』

『アベル様! 大好きです!』

『アーベール様!』

 思い出の中のセリーナはいつも笑顔で自分の名前を呼んでくれる。

 けれど、先日のセリーナは別人のようであった。

 あれほどまでに冷ややかな瞳を向けられたことはなく、アベルは困惑した。それと同時に、何故突然自分を嫌いになったのかが理解できなかった。

「なんでだよ……あいつは、俺のことが」

「まぁまぁなんて哀れな男かしらねぇ」

「なっ!?」

 アベルが目を丸くして声のした方を向くと、ベッドに一人の美女が座っていた。

 そのいでたちを見たアベルは慌てた様子で立ち上がり、後ずさった。

「ま、魔女!?」

「ご明察。ふふふ。今日はね、ご馳走様って言いに来たの」

「え?」

 一歩ずつ後ずさっていくアベルに向かって、舌をぺろりと出した魔女は言った。

「女の一途な恋心っていうのは、とーっても美味しいの。でも、だめよねぇ。たまに本当に運の悪い恋に縛られる女の子が現れる。今回もそう」

 魔女はアベルに歩み寄るが、アベルは動こうとしても動けない。

 そんなアベルの元へ、魔女は一歩、また一歩と歩み寄ると、その額に人差し指を押し当てる。

「こんな、女の敵みたいな、クズな男に六年も恋心を捧げるなんて、可哀そうなセリーナ」

「ま、まさかセリーナの態度が変わったのは!? お前、魔女の仕業か!」

 その言葉に魔女は笑い声をあげると言った。

「あはははは! たしかにそうね。セリーナの恋心を美味しくいただいたのは私。でもね、これも運命よ」

「なんだと!? 戻せ! セリーナを、元のセリーナに!」

「そんなの無理よ」

 魔女は下をぺろりと出して、自分のお腹を撫でた。

「とっても美味しかったもの。私、基本的に可愛い女の子の味方なの。だからね、優しい女の子たちの代わりに、恋心を頂いたあとは、そのお相手にもご挨拶に行くのよ」

「な、なんだよ」

 強張った表情のアベルに向かって魔女は手をかざすと、言った。

「女の恋心を踏みにじるとどうなるか、知ってる?」

「お、俺は悪くない!」

「うふふ。よく言うのよねぇ。悪い男って。自分は悪くないとか、俺の自由だとか、でもねぇ、女の恋心を踏みにじったんだから当たり前のように代償は必要よ。だって、それくらい、恋心って重いのよ」

「待てよ! なんでだよ! 意味が分からない!」

「まだねぇ、踏みにじった恋心が一つだけだったらよかったのにねぇ。あなた、そうとう恨まれているわよ」

「え?」

 呆然とするアベルに魔女はにこやかに告げた。

「バカな男。女ほど怖い生き物はいないのにね。恋心を踏みにじった男は呪われるのよ」

「なっ!?」

「貴方が真実の愛を見つけられればこの呪いは解けるわ。うふふ。見つかるといいわねぇ~」

 次の瞬間アベルは自身の体が光ったかと思うと、魔女の姿は消えた。

 アベルは白昼夢でも見たのかと思っていたが、後日、魔女の呪いの恐ろしさを知る。



 婚約破棄をされた遊び人の放蕩息子が、夜の遊びが出来なくなったという噂が流れるのにさほど時間はかからなかった。


 
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