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六話 一目ぼれ

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 第二王子であるベルタの執務室に帰ったロランは、ケーキの箱をロランへと手渡すと、ぼうっとした様子でソファへと座った。

 その様子に、ロランといつも一緒にベルタの護衛をする騎士スコットと、ベルタは驚いた様子でそんなロランを囲むようにソファへと座る。

「おいおい。どうしたんだ?」

 ベルタの言葉に、ロランは、はっとしたように顔をあげると、慌てて立ち上がった。

「も、申し訳ありません」

「いや。いい。あぁ、紅茶を準備してくれ。ロラン、お前はもう一度座れ」

 待機していた侍女はベルタの言葉に、お茶の準備をしはじめる。

 スコットとベルタは慌てた様子のロランに座るように促し、座ったロランは、手に持っていた袋を大事そうに抱きかかえている。

「えっと」

「一体どうしたっていうんだ。お前のそんな顔初めて見たぜ」

 スコットの言葉にロランは顔を赤らめ、その様子にベルタとスコットは若干引き気味である。

「じ、実は……」

 ロランはセリーナとの一件を二人に話しおえると、顔をあげて後悔した。

 二人はにやにやとした揶揄するような笑みを浮かべており、楽し気な口調で言った。

「いやはや、やっとお前にも春が来たか」

「一目ぼれかぁ」

 にやつく二人の言葉にロランは驚いたように目を丸くし、それから顔を真っ赤に赤らめた。

 第二王子の護衛として、スコットとロランは幼い頃から訓練を受け、そしてベルタが成人した十四歳から一緒に過ごす仲である。

 今年で十八歳になるのに、ロランは今まで浮いた話が一つもなかった。

 だからこそベルタもスコットも内心かなり喜んでいた。

 だがしかし、そこでベルタは少し考えると、はっと思い出したように言った。

「ちょっと待て、セリーナ嬢といえば、あの放蕩息子と噂の、アベル殿の婚約者じゃなかったか?!」

『え?』

 スコットとロランの声は重なる。

「確か、あんなにも浮気が激しいというのに、婚約者のセリーナ嬢といえば、アベル殿にかなり惚れこんでいるとか……」

 ロランの顔色が次第に悪くなっていく。

 スコットとベルタは初恋が一瞬で散ったと、どうこの哀れな友人を励ましていこうかと思っていたのだが、数日後に事態は思わぬ方向へと進んでいく。


「ロラン喜べ! なんと、セリーナ嬢がアベル殿との婚約を破棄したそうだ!」

「チャンスが来たぞ!」

 まるでお祭りがあるかのようなテンションでそう告げられたロランは、数日間葬式のように落ち込んでいたのが嘘のように活気を取り戻した。

 それと同時に、休暇を急いで取ると即日行動を開始するものだからスコットとベルタは苦笑を浮かべた。

「セリーナ嬢は……浮気男の次は、嫉妬深そうな男に好かれるとは……」

「まぁでも、浮気男よりは数十倍幸せにしてくれると思うぜ」

 二人は静かに、友人の初恋が実ることを祈ったのであった。


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