2 / 12
二話 さよなら 初恋
しおりを挟む
昨日まではアベル様のことを思うと胸が痛くて、一喜一憂していたというのに、私が今アベル様に抱く感情と言えば、クズな男。というものだった。
「うそ……私、アベル様のこと、好きじゃないわ。まぁ。不思議」
「ははっ。そりゃそうだろうね。ほら、これがあんたの恋心さ」
目の前にいるのは、黒いローブを着た魔女。
私は現在、魔女様の占いの館に来ている。
魔女の手には桃色の水晶が握られており、その内側はかすかに濁っていた。
「魔女様がこんなことが出来るなんて、すごいですね」
「ふふ。私はね、長い時間生きてきたから、いろんな男に出会ってきた。世の中には本当にどうしようもない人間に恋をするやつがいるのさ。あまりにもねぇ、そんな人たちが不憫で、私はこの魔法を生み出したのさ。それで、最後にもう一度聞くが、これはもう、いらないね?」
「ええ。いりません」
きっぱりと私が告げると、魔女様は桃色の水晶を自身の紅茶の中へと落とした。するとそれはすっと溶けて消えてしまう。
「あんたは悪いがね、これがなんとまぁ、美味いこと。美味いこと」
魔女様はそういうと、カランコロンと音を立ててティーカップを混ぜ、そしてゆっくりとそれを味わうように飲みだす。
私は本当に美味しいのだろうかといぶかし気に見つめるが、飲み干した魔女様は若返っており、頬が朱色に染まっている。
「ぷはぁ~。若返ったわぁ~」
「す、すごいですね」
魔女様はくすりと笑うと、私の方をじっと見つめながら言った。
「あんたの想いが純粋だったからさ。だからこんなに甘くて美味しい。けどね、純粋だからといて幸せになれるもんじゃない。あんたはこの想いをなくした方がきっと幸せになれるよ」
「そうだと、いいんですが……」
「大丈夫さ。私が選ぶ子は皆、辛い思いを抱えていたがね、その後すぐに運命が訪れた」
「運命?」
魔女様は楽しそうににこりと微笑むと言った。
「あんたは初恋ってやつに縛られて、本当の運命を逃してきた。それがきっとすぐにやっと自分の出番が来たと飛んでくるだろうよ」
「不思議な、話ですね?」
魔女様はけらけらと笑い声をあげると言った。
「世の中は不思議なものだらけさ。けれど、それを見つけられるかどうかは自分次第。あんたも私を見つけただろう? きっと導かれたのさ」
魔女様と私が出会ったのは、数日前の土砂降りの日だった。
私がアベル様の屋敷から帰っている途中、馬車が止まると、路上にうずくまる魔女様と出会った。私は魔女様をご自宅まで送り届けた。
魔女様は病気とかそういうのではなくて、べろんべろんに酔っぱらっていたのだ。
「いやぁ、久しぶりに飲みすぎた。けどね、私が飲むのも運命だったのさ。そのおかげであんたに出会えて、こうやって美味しいものにありつけた」
そういうと、また魔女様はけらけらと笑い声をあげた。
最初私は魔女様からお礼をしたいと招待され、行くかどうかも迷った。けれど、魔女様にアベル様とのことを言い当てられ、恋心をなくす方法があると聞き、私は思わずそれに縋ったのだ。
もう、嫌だった。
恋心に振り回される自分も。
アベル様を思い続ける辛い日々も。
だから、私は魔女様に飲み干されていく自分の恋心を見つめながら心の中でお別れを言った。
さようなら。私の初恋。
「うそ……私、アベル様のこと、好きじゃないわ。まぁ。不思議」
「ははっ。そりゃそうだろうね。ほら、これがあんたの恋心さ」
目の前にいるのは、黒いローブを着た魔女。
私は現在、魔女様の占いの館に来ている。
魔女の手には桃色の水晶が握られており、その内側はかすかに濁っていた。
「魔女様がこんなことが出来るなんて、すごいですね」
「ふふ。私はね、長い時間生きてきたから、いろんな男に出会ってきた。世の中には本当にどうしようもない人間に恋をするやつがいるのさ。あまりにもねぇ、そんな人たちが不憫で、私はこの魔法を生み出したのさ。それで、最後にもう一度聞くが、これはもう、いらないね?」
「ええ。いりません」
きっぱりと私が告げると、魔女様は桃色の水晶を自身の紅茶の中へと落とした。するとそれはすっと溶けて消えてしまう。
「あんたは悪いがね、これがなんとまぁ、美味いこと。美味いこと」
魔女様はそういうと、カランコロンと音を立ててティーカップを混ぜ、そしてゆっくりとそれを味わうように飲みだす。
私は本当に美味しいのだろうかといぶかし気に見つめるが、飲み干した魔女様は若返っており、頬が朱色に染まっている。
「ぷはぁ~。若返ったわぁ~」
「す、すごいですね」
魔女様はくすりと笑うと、私の方をじっと見つめながら言った。
「あんたの想いが純粋だったからさ。だからこんなに甘くて美味しい。けどね、純粋だからといて幸せになれるもんじゃない。あんたはこの想いをなくした方がきっと幸せになれるよ」
「そうだと、いいんですが……」
「大丈夫さ。私が選ぶ子は皆、辛い思いを抱えていたがね、その後すぐに運命が訪れた」
「運命?」
魔女様は楽しそうににこりと微笑むと言った。
「あんたは初恋ってやつに縛られて、本当の運命を逃してきた。それがきっとすぐにやっと自分の出番が来たと飛んでくるだろうよ」
「不思議な、話ですね?」
魔女様はけらけらと笑い声をあげると言った。
「世の中は不思議なものだらけさ。けれど、それを見つけられるかどうかは自分次第。あんたも私を見つけただろう? きっと導かれたのさ」
魔女様と私が出会ったのは、数日前の土砂降りの日だった。
私がアベル様の屋敷から帰っている途中、馬車が止まると、路上にうずくまる魔女様と出会った。私は魔女様をご自宅まで送り届けた。
魔女様は病気とかそういうのではなくて、べろんべろんに酔っぱらっていたのだ。
「いやぁ、久しぶりに飲みすぎた。けどね、私が飲むのも運命だったのさ。そのおかげであんたに出会えて、こうやって美味しいものにありつけた」
そういうと、また魔女様はけらけらと笑い声をあげた。
最初私は魔女様からお礼をしたいと招待され、行くかどうかも迷った。けれど、魔女様にアベル様とのことを言い当てられ、恋心をなくす方法があると聞き、私は思わずそれに縋ったのだ。
もう、嫌だった。
恋心に振り回される自分も。
アベル様を思い続ける辛い日々も。
だから、私は魔女様に飲み干されていく自分の恋心を見つめながら心の中でお別れを言った。
さようなら。私の初恋。
27
お気に入りに追加
1,622
あなたにおすすめの小説
有能なはずの聖女は追放されました。転生しても慕ってくれた少年が、年上の騎士となり溺愛してきます
絹乃
恋愛
力を失った聖女ビアンカは、神殿を追放された。ビアンカを慕っていた少年テオドルの前で、彼女は殺されてしまう。
「わたくしは必ず帰ってくるわ」そう言い残したビアンカは、約束を果たした。王女セシリアとして生まれ変わったのだ。
ビアンカの再来を知ったテオドルは青年になり、最愛の人の魂を宿したセシリアの護衛騎士となる。
「テオドルは、もういない聖女を愛し続けているというわ」
彼が愛しているのが、過去の自分であることをセシリアは知らない。テオドルも隠し通したままだ。
そしてセシリアは、自分が聖女ビアンカの生まれ変わりであると気づく。
常にそばにいるのに、互いに隠し事を秘めた王女と騎士。主従の二人は、それぞれの恋心に気づく。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?
半世紀の契約
篠原 皐月
恋愛
それぞれ個性的な妹達に振り回されつつ、五人姉妹の長女としての役割を自分なりに理解し、母親に代わって藤宮家を纏めている美子(よしこ)。一見、他人からは凡庸に見られがちな彼女は、自分の人生においての生きがいを、未だにはっきりと見い出せないまま日々を過ごしていたが、とある見合いの席で鼻持ちならない相手を袖にした結果、その男が彼女の家族とその後の人生に、大きく関わってくる事になる。
一見常識人でも、とてつもなく非凡な美子と、傲岸不遜で得体の知れない秀明の、二人の出会いから始まる物語です。
別れたいようなので、別れることにします
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。
魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。
命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。
王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる