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勘違いだと、いいのにな。

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 暗い闇夜の中、ぎらぎらとした瞳が見える。

 勘違いだと、いいのにな。

 けれども、その瞳はぎらぎらと輝いて見えていて、勘違いではないという事を知らしめているようであった。

 どうして、この道を通ってしまったのであろうか。

 村は一年に一度、守り神である主様が村に降り立ち、番を探すと言う言い伝えがあり、それを祝して結婚祝いだとお祭りが開かれていた。

 そんな賑やかなお祭りが終わり、マロンは友人と別れると村はずれにある自分の家へと向かって暗い道を歌を歌いながら楽しい気持ちで歩いていた。

 先ほどまでは。

 それが何という事であろうか。

 マロンは、何かがゆらりと動いて見えて、びくりと足を止めた。

 そして、道の先の草むらの中にある二つのぎらぎらとした瞳を見つけてしまったのである。

 勘違いであってほしかった。

 だが、明らかにその二つの瞳はぱちくりとたまに瞬きをしており、生き物であることを告げていた。

 犬や猫ならばいい。

 だが、この町の付近には魔物も済むと言うからマロンは部屋に動けないでいた。

 魔物であった場合、下手に動いて刺激してしまい、襲われてしまっては命が危うい。

 なので、マロンはどうにか平静を保とうとした。

「る、、、ルールルルルルルー。」

 どこかで聞いた、獣にかける声掛けという物を試す時が来るとはマロンも思っていなかったが、ダメもとで声をとにかくかけてみる。

 刺激しないように意識するが、何が刺激するのかも分からない。

 だが、何やらそのぎらぎらとしていた目玉は、その「ルールルルルルルー」という声がツボにはまったのか、ギシギシギシギシと奇妙な笑い声を漏らし始めた。

 暗闇に響く不思議な笑い声は、マロンの心をさらに恐怖で染め上げた。

 どうしましょう。このままだと私、生きて帰れないわ。

 そうマロンが思った時であった、ギシギシという笑い声が止まったかと思うと、突然、男性の声が響いて聞こえた。

「それ、一体全体誰に教えてもらったんだ?」

「え?えーっと、、、覚えていないわ。」

「それさ、何にも効かないから、次に何か生き物にあってもやらないで、そっと逃げた方がいいよ。」

「え?やっぱり?そうかとは、思っていたのよ。」

 マロンは恥ずかしくなり、少し顔を赤らめながらそう返事を返すと、草むらから一匹のキツネリスが姿を現した。

 マロンはその姿に魔物ではなかったと安堵の息を吐くと、キツネリスに手を伸ばした。

「なぁんだ。貴方だったの?」

「あぁそうさ。こんな夜更けに人が通るとは思わなくてね。」

「今日はお祭りだったのよ。それにしても、貴方は一人?」

「あぁそうさ。それで、キミは名前は何ていうんだい?俺はコータ。」

「え?私はマロンよ。コータってかわいい名前ね?」

「そうだろう?あ、マロン、少しこっちに顔を近づけてくれないか?」

「ん?どうしたの?」

「ほら、こっちこっち。」

 マロンはコータに手を伸ばして持ち上げると、顔をコータに近づけた。

 ちゅっ。

「え?」

 マロンが呆然としていると、眼前に金色の瞳をした黒髪の青年が突然現れ、マロンは息を飲んだ。

「え?えええええ?いいいい、今?え?え?」

 コータは唇をぺろりと舐めると笑い声を上げた。

「見つけた!俺の愛しい番マロン。」

 マロンはあまりの事に驚き、その場で意識を失った。

 そして次に目が覚めると、自分が住んでいた家とは雲泥の差の美しく煌びやかなベッドに寝かされていたのであった。

 マロンは思わず遠い目をして呟いた。

「勘違いだと、いいのにな。」

 その願いはもちろん、叶わなかった。
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