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十話 決意

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 エミリアが牢に入れられ、一か月と言う時が流れていった。

 その間にも、ダレンは国王に旅の中でエミリアに助けられた事を伝え、聖女の証言が疑わしいという事を訴えていたが、これまでの歴史の中で聖女がそのようなことをしたと言う事実はなく、また聖女の言葉を覆せる証拠がなかったために国王も頭を悩ませていた。

「父上!エミリアが邪悪な存在などと、そんなわけがありません!」

 ダレンはエミリアに会いに行くことを禁じられ、それでも毎日国王に直談判に向かっていた。

 ダレンの言葉に国王は大きくため息をつき、そして頷いた。

「私も、エミリア嬢がそのような存在だとは思っていない。だが、闇を封印してくれた聖女の言葉を覆すことが出来ない。・・・ダレン、それはそなたも分かるだろう。」

「何故・・何故聖女殿はあのようなことを・・・くそ・・・」

 このままでは近いうちにエミリアは幽閉か国外追放か、最悪処刑である。ダレンもそれを感じ取っており、その瞳は聖女に対する怒りに燃えていた。

「エミリアのおかげで、我々は誰一人欠けることなく旅を終えられたと言うのに・・・」

 国王はその言葉に深くため息をつくと、立ち上がり、窓の外へと視線を向けた。

 空は明るく、太陽の光が地上を照らす。

「だが、闇を封印したのは聖女だ。彼女の功績も大きい。ダレン・・・お前はいずれ王となる存在だ。・・・冷たく聞こえるやもしれんが・・・今回の件については、割り切るのだ。お前は聖女と結ばれる運命だったのだ。」

「父上!何を言うのです!」

「お前が・・それを受け入れると言うのであれば、隣国へと国外追放と言う形でエミリア嬢を逃がしてやろう。」

 ダレンはその言葉に唇を噛み、拳を強く握った。

 大勢の前で邪悪な存在として聖女に告げられてしまったエミリアは、貴族の中でも早く処刑した方がいいのではないかという話題があがっている。

 闇がまた復活するのではないかと、皆の中に、疑心が産まれている。

 ダレンは強く握りしめた拳から血が流れ落ちるのを感じながら、震える声で言った。

「・・・僕は・・・エミリアを・・愛しているのです。」

「お前は王となる者だ。それに、エミリア嬢の今後を思えば、お前は傍にいない方がいいだろう。話はこれまでだ。下がれ。」

 ダレンは頭を下げ、王の部屋より外へと出た。

 足取りは重く、心はさらに重い。

 そんな時、庭の方から楽しげな笑い声が響いて聞こえた。

「あ!ダレン様!会いたかったわ!一緒にお茶でも飲みましょうよ!」

 豪華絢爛な衣装に身を包んだ聖女レナは、楽しげに声を上げてダレンの方へと駆け寄ってきた。

 腕へとまとわりつかれ、ダレンはそれでも聖女を振り払うことが出来ず、怒りを我慢しながらレナへと視線を向けた。

「すみませんが、今は時間がないので。」

「えー?何で?聖女レナが言っているんだから、ちゃんと聞いてよ。」

 腕を引っ張られ、無理やり席へと座らされたダレンに、レナは楽しげな声で言った。

「早く結婚したいわ。私もっともーっとダレン様と一緒に過ごしたいの。ダレン様だって、早く私と結婚したいでしょう?あのエミリアっていう女、早く処刑しちゃえばいいのにねー。」

 その言葉に、ダレンは愕然とした表情でレナを見た。

 レナは楽しげに笑い声を上げると、下品にもお茶を一気に飲み干した。

「あ、そうそう。国王様に聞いたら、まだエミリアとダレン様の婚約破棄を宣言していないんですってね。ちゃんと神様の前で宣言してね。だって、ダレン様の婚約者は私でしょう?」

 レナはそう言うと、くすくすと笑い、ダレンの顔を覗き込んで言った。

「ダレン様は幸せ者ね。私みたいな可愛い聖女と結婚できるんだからさ。あのエミリアっていう女、結構地味な感じだったものねぇ。」

 ダレンは怒りを笑顔で押さえつけると立ち上がり、明るい口調で言った。

「すみませんが、まだ仕事が残っているので。では、失礼。」

「えー。もう。でも仕事ならしょうがないね。じゃあねー。」

 ダレンは立ち上がるとさっさとその場から離れ、そして、怒りに燃える瞳で廊下を歩きながら護衛騎士に声を掛けた。

「・・・もう、我慢できない。準備を進めろ。」

 すでに護衛騎士らの心は固まっている。

 その忠誠は、ダレン王子とエミリア嬢へ。

「はっ・・・」

 ダレンは今までエミリアに見せた事のない冷たい表情を浮かべていた。



 
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