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四話 好きな人

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 一緒に過ごす時間が長いほどに、エミリアはダレンの事をいつしか心から愛すようになっていた。

「エミリア!こっちに来て。ほら、これエミリアによく似合うよ。」

 十六歳になったエミリアとダレンは、仲睦まじく、今日もお忍びで街へと遊びに来ていた。

 ダレンは街に来るといつもエミリアにはこれが似合う、あれが似合うと楽しそうに店ではしゃいでいた。そんな姿にエミリアは王太子教育は上手くいっていると聞くのに、いつまでも無邪気な人だなと笑みがこぼれるのだ。

「何笑っているの?」

 髪飾りを手に取り、エミリアに当てながら、小首をかしげるダレンに、エミリアは言った。

「だって、ダレン様、いつも街に来ると子どもみたいなんですもの。」

「え?そうかなぁ。」

 頭をポリポリと掻き、少しダレンは考えると笑みを浮かべた。

「子どもみたいというかね、僕がはしゃぐのはエミリアと一緒だからなんだよ?」

「え?」

 ダレンはエミリアの髪に髪飾りを飾ると言った。

「好きな人と一緒に出掛けられるって、とっても幸せな事でしょう?」

 さも当たり前のようなその一言に、エミリアは顔を真っ赤に染め上げた。

「すすすすすすす・・・好き・・・・」

「え?」

 エミリアが顔を真っ赤に染め上げたのを見て、ダレンは固まると、視線を逸らした。

 その顔も耳も真っ赤に染まっており、両手で顔を覆うと言った。

「もう。エミリア。可愛い。ちょっと、こっちまで照れるからやめてよ。」

「だ・・・ダレン様が急に変な事を言うからです!」

「変な事じゃないでしょう!?」

「え!?当たり前なんですか!?」

「当たり前でしょう!?これまでもずっと一緒にいて、これからもずっと一緒にいるエミリアが好きじゃないわけないでしょう!?」

「ふぇえぇぇ?!」

 店の中で、静かに主人がコホンと息をついた。

 二人は顔を真っ赤にさせて、お会計を済ませると、静かに店を出た。

 手を繋いで街を歩きながら、お互いにゆでだこのように真っ赤になりながら、道をずんずんと歩いていく。

 そんな二人の初々しい姿に、護衛の騎士達は陰ながらにやにやと微笑を浮かべていた。

「本当に、仲がよろしいですねえ。」

「あぁ。この国は安泰だろうなぁ。」

「お似合いの二人ですものね。」

 護衛達からしてみれば、なんとも甘酸っぱい光景であり、背筋がむずむずとするような感覚である。

 けれど、そんな二人の様子は、本当に幸せそうで、この幸福がずっと続けばいいと願ってしまう。



 だからこそ、未来に起こる、聖女の言葉に憤った者は多い。

「何が、異世界の聖女だ。」

 王を守ると誓った剣。それは、たとえ国を救ったとしても、異世界から突然現れた得体のしれない少女に忠誠を捧げるものではない。

「我らの剣は、お二人に捧げると決めたのだ。」

 護衛騎士達は、ダレンが意思を固めるとそれに従うと忠誠を改めて立てた。

「我らは、ダレン殿下とエミリア様と共に行きます。」

 たとえ国を出ることになっても。

 
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