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一話 エミリアとダレン

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 公爵令嬢であるエミリア・ロランと、王太子である第一王子ダレン・オラ・シンファニアの婚約が決まったのは、二人が産まれてすぐのことであった。

 エミリアは希少な光の魔力を持つ少女であり、地位もその能力も王太子の婚約者にふさわしいとされ、産まれた瞬間からその運命は決められた。

「エミリア!」

 十歳になった二人は仲睦まじく、幼い時から時間さえあれば会い、遊び、笑いあうその姿に、王宮の皆が微笑ましげに視線を向けていた。

「ダレン様?わぁ、とっても素敵な花冠ですねぇ。」

 花の咲きほこる王宮の一角には、二人が一緒に過ごせるように花畑が作られ、二人はよくそこに集まっては楽しい時間を過ごしていた。

「ふふふ。エミリアには白い花が良く似合うね。」

 エミリアは父親の髪色を継ぎ、少し地味な茶色の髪の毛を気にしていたが、ダレンのこの言葉を聞くと心の中が温かくなった。

「ありがとうございます。ダレン様。」

 ダレンはエミリアの頭に優しく花冠を乗せながら、エミリアの顔を覗き込んで微笑を浮かべた。

「エミリアは世界で一番可愛いね。」

 その言葉に、エミリアは思わず笑い声を上げた。

 エミリアからしてみれば、白銀の髪に美しい空色の瞳を持ったダレンの方が世界で一番可愛らしく見えた。エミリアは瞳の色は藤色と美しいと称されるが、それ以外はそれほどまでの容姿ではないと自覚していた。

 これまで参加してきたお茶会にはエミリア以上に可愛らしい少女は当たり前の如くに存在して、エミリアが褒められるのはその藤色の瞳と、エミリアの中に宿る希少な光の魔力くらいのものであった。

 だからこそ、エミリアは誰よりも努力を重ねる少女となった。

 自分の価値を少しでもあげるために、ダレンの横にずっと立って居られるように。

 幼い頃からずっと一緒にいたのだ。ダレンの事を誰よりも一番よく理解し、傍にいるのも当たり前。けれどそれでも、周りが自分達をどう思うのかは、分かっていた。

 だから、当たり前を当たり前と思わないように、エミリアはいつも背筋を真っ直ぐに正し、ダレンの横に立ってきた。



 そう。異世界から後にレナ・タナカという聖女と呼ばれる少女が来るまでは。

 聖女と言うには冷たい瞳の少女の、手が挙げられた瞬間、エミリアは突然の事に何もできなかった。

「貴方から邪悪な気配がするわ。私が清めてあげる。」

「え?」

 次の瞬間、エミリアは反対の頬をまた聖女レナに叩かれ、さらに手があげられる。

 聖女の突然の行動に皆が驚き、また、聖女のする事ゆえに止めに入れずに、エミリアの父は怒りに拳を握りしめた。

 ダレンは慌ててレナに駆け寄ると、レナの手を止めた。

「聖女殿。どういうことです?」

 その言葉にレナはにっこりと可愛らしい笑みを浮かべると、ダレンの腕へとしな垂れかかって言った。

「あら、この女から邪悪な気配がするから清めてあげたの。私がすることに文句でもあるのかしら?婚約者様?」

 皆にさらに動揺が走る。

 エミリアは叩かれた頬よりも、胸に痛みを感じてダレンを見上げることしか出来なかった。

 

 
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