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三話 私は転生者のようです

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 ルナはこの乙女ゲームを知っている。

 そして自分はクズ王子の婚約者なのかと現実に顔を引きつらせた。

 思い出した途端、涙はピタリと止まり、それと同時に腹立たしく思えてきた。

 瞼を閉じてみてみれば、不条理なことばかりである。

 明らかにクズ王子はナルシストである。

 そして、優しさの欠片もない。

 ルナは大きく息をすって吐くと、机の引き出しからノートを取り出し乙女ゲームについて、丁寧に記していく。

 簡単に説明するならば、この乙女ゲームは、王族を攻略するものである。

 時期は16歳から17歳までの一年間。

 攻略対象は三人と少なく、第一王子、第二王子、そして王弟殿下である。

 この第二王子というのが、ルナの今の婚約者であるサイラスである。

 第一王子と王弟殿下は問題ない。

 問題あるのは、サイラスただ一人であり、ルナは前世でゲームをクリアしながら思ったのだ。

 第二王子のサイラスはクズ王子だなと。

 外見は神絵師様によって完璧である。問題はその性格と行動にある。

 基本的に自己中心的な考えしかできず、婚約者がいるのにもかかわらずヒロインに心を奪われる。

 そしてサイラスのことを褒めて褒めて褒めまくるという選択肢を選んでいかなければクリアすることは出来ない。

 つまり、サイラスを立てて、褒めて、崇め奉らなければクリアできないのである。

 しかもクリアしても気分が悪いのが、サイラスは自分の婚約者にお前は自分とは釣り合わない、美しいヒロインこそがふさわしいと言って婚約破棄するのである。

 うん。

 クズである。

 クリアした時、顔も映らないモブの婚約者に感情移入してサイラスに苛立ったのが懐かしい。

 とは言っても、前世の記憶は曖昧で、自分の名前や家族のことなどはよく覚えていない。

「よりにもよって、何でサイラスの婚約者なのかしら。それにしても私、よくサイラスのことが好きだったわねぇ。恋は盲目とは言うけれど、ルナ、チョロ過ぎでしょう」

 記憶を思い返してみても、サイラスとの素敵な思い出など一つもない。

 なのにもかかわらず、何故ルナはそこまでサイラスのことを好きでいられたのか。

 自分のことなのに、前世を思い出してしまった今、まるでそれが他人事のように思えてしまう。

 ルナは恐ろしく純粋だったのである。婚約者となら相思相愛になって当たり前だと思っていたのだ。

「でも、もうそれも今日で終わりだわ。どうせなら、早々に婚約破棄してもらえないかしら」

 ルナはそう思うのであった。






 
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