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一話 私の婚約者はクズ王子

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 ライネジル王国第二王子サイラス・オール・ライネジルと公爵家令嬢ルナ・ムーンの婚約が決まったのは、十歳の時のことである。

 二人の婚約は立場的にも、政略的にも問題がなかった。

 ただし、ルナはそれに眉間にしわを寄せ、目の前にいる人物をじっと見つめながらため息をつきそうになるのをぐっと堪えていた。

 現在十六歳。

 サイラスは美しく成長していた。

 この国の王子は産まれるのは決まって金色の髪に金色の瞳と決まっている。サイラスもそれを受け継ぎ、見事な金色の髪と、そして宝石よりも美しい瞳を持っていた。

 成長期が来たことですらりと身長も伸び、鍛えてもいないのにほどよく引き締まった体をしている。

 見た目は完璧である。

 そう。見た目は。

 ただし、中身はクズであった。

「昨日は、私と買い物に行く約束でしたよね?」

 そう問いかけると、サイラスは小首をかしげる。それは女性に可愛いと言われてよくするようになった仕草だとルナは知っている。

「そうだったかな? すまない。忘れていたよ」

 ティーカップの紅茶に一口口をつけて、ルナは心を落ち着かせようとする。

「そうですか。また、忘れたのですね」

 すでにその手を使われるのは十五回目である。

 婚約者との仲を深めるために、王族と婚約者は定期的に会ったり、出かけたりと言う日程が決まっている。週に一度は出かける日があり、週に二度はお茶会で小一時間ほど一緒に過ごす。

 それ以外の時間は勉強や稽古事でほとんどが埋め尽くされている。

 そう。つまり休みが少ない。

 サイラスはそれに不満を持っており、そしてついにはルナと出かける日を自分勝手に出歩く日にしてしまったのである。

 ルナは惨めだった。

 公爵家の令嬢が王子と出かけるために時間をかけて準備するのは当たり前のことである。

 朝四時に起床し、お風呂、マッサージを済ませた後に軽めの朝食をし、その後もう一度マッサージを施し、化粧をすませ、きついコルセットをしめてドレスを着て待つ。

 そう、待つのだ。

 最初の一回目、何故サイラスが来ないのかルナには分からず、事故にあったのではないか、怪我をしたのではないか、病気になったのではないか。

 心配で、心配で、日が暮れて夜が来て、そんな中も待ち続けて、そしてようやくその理由を知った。

 街で遊んでいた。

 サイラスは護衛を無理やり引きつれて、街で遊んでいたのである。

 それを知ったのも偶然のことであった。しかもサイラスが口を滑らせて自ら白状したのである。

 ルナはそれを両親に相談すべきかどうか悩んだが結局言わずに黙っていることにした。

 領地にいる両親には手紙でサイラスとは上手くいっていると書き、ウソをついた。

 そしてその日からもしサイラスが出かける日に迎えに来なくても、部屋でただ静かに待つことにした。

 これは政略結婚。その時のルナはいつかきっとサイラスが目を覚ましてくれると信じることにしたのである。

 けれど。

 ルナは十五回目の昨日の晩、しくしくと涙を流しながらおや?と、思い出したのである。

 サイラスは、クズ王子であると。



 
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