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第十五話

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 フィリップは大体の仕事を片付けると、午後からの時間はルルティアとの時間に使おうと、にこにことした笑顔で屋敷へと移動した。

 フィリップはルルティアの部屋へと足を向け、扉をノックした。

「ルルティア。フィリップだ。入ってもいいかな?」

「フィリップお兄様?どうぞお入りくださいませ。」

 ガチャっとメイドが扉が開くと、フィリップはにこやかに部屋へと入った。

 ルルティアは立ち上がって笑みを浮かべた。

「今日はお帰りが早いのですね。」

「あぁ。仕事を終えてきたからルルティアに早く会いたくてね。」

「ふふ。私もお会いしたかったです。」

 ルルティアとフィリップはソファに腰を下ろすとしばらくの間、他愛のない話をしていたのだが、ルルティアは今がチャンスだと、刺繍をしたハンカチをメイドに目線で持ってきてもらうように頼んだ。

 その意思をメイドはすぐに汲み取るとさりげなく棚からハンカチを持ってくると、ルルティアにそっと手渡した。

 ウィリアムにもプレゼントしたことはあるが、渡す時にこんなにもドキドキするのは始めてかもしれない。

 喜んでくれるだろうかと、ルルティアはフィリップの様子を伺いながら、声をかけた。

「お兄様、あの、ですね。これ、受け取っていただけないでしょうか?」

「なんだい?」

 ルルティアはおずおずとした様子でハンカチをフィリップへと差し出した。

「これは・・ルルティアが、私の為に?」

「は、はい。あの、心を込めて刺繍をしました。」

「ルルティアが、私の為に。」

 フィリップはハンカチを見つめて固まると、感極まった様子でしばらくの間動かなくなった。

 ルルティアはその様子をドキドキとしたまま見つめていたのだが、あまりにフィリップが動かないものだから、困ったように言った。

「お兄様?」

「あ、あぁ。ごめんよ。嬉しくて。大切にするよ。そうだ!このお礼をしなければね!ルルティア出掛けよう!」

「え?今からですか?」

「あぁ!ルルティアは何か欲しいものとか、願い事とかはないかい?!」

 ルルティアは突然の事に困ったように笑みを浮かべると、思い付いたように言った。

「いつもフィリップ様を大切にしてくださる精霊様方に見えなくてもいいので、ご挨拶をしたいのです。ダメでしょうか?」

「そんなことでいいのかい!?よし、じゃあおいで。」

「え?」

 フィリップはにこにことルルティアを立ち上がらせて腰を抱くと言った。

「精霊の庭に連れていってあげるよ。ルルティアだけ、特別だ。」

「本当ですか?」

 まさか本当に挨拶することが出来るとは思っておらず、ルルティアは目を丸くした。

「もちろん。じゃあ行こう。」

「え?ですが、私何の準備もしていないのですが。」

「ん?準備はいらないさ。さあ、行こう!」

 ルルティアはにこにことしたフィリップに流されるように、普通、人の踏み入れることの出来ない精霊の庭へと連れていかれるのであった。


 


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