生まれ変わった魔法使い 

かのん

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六話 キミは誰?

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 泣いている女の子がいた。

 薄桃色の髪の毛を見て、あぁ、彼女を慰めなきゃいけないって思った。

 早く、彼女の涙をぬぐってあげなきゃいけないって。だって、皆で決めたから。彼女がもう一人きりで泣かないようにしようって。

 皆?

 皆って誰?

 彼女って、誰?

 頭の中がこんがらがる。僕は一人なのに、こんがらがるようにもう一人の僕が囁く。

『ルティを一人で泣かせるな。』

 ルティ?

 ルティって、この女の子の事?

 目の前の女の子は、驚いたように目を丸くして、エメラルドと赤色の瞳で僕の事をじっと見つめた。

 心臓がドクドクト煩いくらいに鳴って、懐かしさと、嬉しさと、そして一人にしてごめんって、なんだかそんな事ばかりを考えてしまう。
 
 けど、ルティに手を伸ばそうとした時、脇腹のあたりが急に痛み出した。

 腸がずきずきと痛み、尋常じゃないほどの汗が額から流れ落ちる。

 痛い、痛い、痛い。

『離れろ。』

 先程の声とは違う、”先生”の声が頭の中で響き、ルティから離れなければ死ぬと思った。

 走って、走って、走って、やっと痛みが消えていく。

 痛みは消えたのに、瞳からポタポタと涙が溢れる。

「何・・これ・・・」

 自分の感情が制御できない。

『一人にしてごめん・・・ルティ・・キミを残して・・・ごめん。』

「やめてよ!何なんだよ!」

 次の瞬間、”先生”が僕の横に現れ、肩に手を置いた。

「アベル。落ち着け。」

「・・・先生・・・」

 銅色の長い髪を一つにくくり、大剣を背中に背負い、首からはじゃらじゃらと魔法石のネックレスをつける先生は、僕の頭を優しく撫でながら言った。

「大丈夫だ。今日はもう帰るぞ。」

「・・はい・・先生。」

 先生は僕に何かを隠している。けれど、孤児であった僕を拾い育ててくれた先生はとても優しくて、だから僕は先生が何かを隠している事を、ずっと見て見ぬふりをする。

 一瞬、足を止めて振り返る。

 ルティ。

 彼女が何者なのかは分からないけれど、胸が痛む。

『ルティの傍にいたい。』

『キミの無事を・・確かめたい。』

『キミに・・・伝えたいことがあるんだ・・・』

 頭の中でそんなもう一人の自分の気持ちがぐるぐるとまわる。

 けれど。

 顔を上げると、先生が困ったように苦笑を浮かべて僕に手を差し伸べてくる。

「行こうか?」

 優しくて大きな手。

『ルティの所へ行きたい。』

 僕は、もう一人の自分の声を胸の中に収めて、先生の手を取った。

「はい。先生。」


 風に乗って、誰かが僕の名を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、僕は先生と共にその場から立ち去った。


 





 
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