上 下
23 / 24

第二十三話

しおりを挟む

 皆様ごきげんよう。

 はい。

 今、久しぶりに帰ってこられましたフィリップ様と庭を散策しております。

 久しぶりに帰ってこられたフィリップ様はとても温かな笑顔で、以前と変わらない太陽のような雰囲気の方でございます。

「ティナは、また美しくなったね。」

「へ?そ、そんなことはございませんわ。」

 笑顔でそう言われて、とてもうれしくてたまらなくなります。

 私美しくなっているのでしょうか。

 貴方と一緒に並ぶために努力は続けているつもりですが、どうなのでしょう。

 フィリップ様は足を止めると、私の両手を包むように握ると言いました。

「ティナ、、、あのね、もしキミが他に好きな人が出来ても、今ならまだ引き返せるよ。」

 え?

 はい?

 え?

 はーい。ぷっちん来ました。この方何を言っているのでしょうか?

「寝言は寝て言えでございます。」

「え?」

「ふふ。心の声が漏れましたわ。」

 はい。漏れても仕方ないですよねー。この人、何を言ってくれているのであろうか。

 そんな時でした。

 突然マリア様がこちらへと歩いてこられると、私の腕を取りぎゅっと抱きしめてこられます。

 はい。

 最近マリア様のスキンシップがとても激しいです。令嬢としてそれはどうかとも思うのですが私に対してだけなようなので、なんといいますか、猫に懐かれて嬉しいと言いますか、まんざらでもありません。

「マリア様、突然どうされたのです?フィリップ殿下の御前ですよ?」

「いや、いいよティナの友達なのでしょう?」

 一応窘めると、マリア様はとても美しい所作でフィリップ殿下にカテーシーを行います。

 はい。

 鍛えたかいがありました。見事です。さすがヒロイン。

「申し訳ございません。ティナ様に会えた喜びで、つい。殿下もご機嫌麗しゅうございます。私は男爵家令嬢マリア・グロリアと申します。」

「ティナと仲がいいんだね。」

「はい。それはもうとても仲良くしていただいております。」

 またぎゅっと腕を抱きしめられて、そう言われ、少し照れます。

 私そんなにマリア様に慕われていたんですね。

 ですが、そんなマリア様の様子を見て、フィリップ様のお顔が曇ります。

 何故?

「そうなのかい?、、、けど、私とティナだって仲がいいよ。」

 その言葉に私は嬉しくてたまらなくなります。

 ええそうですとも。

 私とフィリップ様も仲良しです。

「ふふ。そうですか。」

 何故か勝ち誇った様子でマリア様が微笑まれますと、フィリップ様が口元をぴくぴくとさせております。

「マリア様?」

 思わずそういうと、マリア様はパッと手を離されて言いました。

「ヨハン様とアレクシス様もティナ様と仲がいいですよね。」

 ん?

 いえ、ある程度は話しますが、仲がいいと言えるのでしょうか?

「えーっと、そうですか?」

「はい。ですから、殿下。一言お伝えしておきます。」

「なんだい?」

「弱気な発言でティナ様の御心を試す前に、もう少しご自分のお気持ちを伝えていた方がいいですよ。それでは失礼いたします。」

「マリア様!」

 私は窘めようとそう声を上げましたが、ころころと笑いながらマリア様は行ってしまわれました。

 もう!

 フィリップ様はお優しいから不敬などには問われませんが、それでもとても失礼です。

 あぁ、今度また鍛えなおさなければなりませんね!

「はぁ、私はかっこ悪いな。」

 フィリップ様のお声が聞こえて首を傾げてしまいます。

 はて?

「いいえ。フィリップ様は世界で一番かっこいいです。」

「え?」

「フィリップ様はご自分に妥協いたしません。次期国王としての努力を怠ることなく、様々に見聞を広げ、学び、活かしていけるよう民の声も聞き頑張っておられます。そんなフィリップ様は世界で一番かっこいいです。」

 当たり前の事を言うと、フィリップ様は顔を真っ赤にされました。

 そして、久しぶりにその温かな胸に抱きしめられます。

「はぁ、やっぱりかっこ悪い。ティナを支えたいのに、支えられてばかりだ。」

「はて?今、支えていただいております。」

「物理的ではなくて、精神的にだよ。」

 くすくすと笑いながらそう言われ、私も笑ってしまいます。

「ティナ。さっきのは撤回させて。ごめんだけど、もうキミを私は手放せないよ。」

「ふふ。私のセリフですわ。大好きです!フィリップ様!」

「あぁ。私も愛しているよ。」

 あぁ、久しぶりのフィリップ様。

 あったかいです。

 では皆様、ごきげんよう。

 はぅ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

悪役令嬢の物語は始まりません。なぜならわたくしがヒロインを排除するからです。

霜月零
恋愛
 わたくし、シュティリア・ホールオブ公爵令嬢は前世の記憶を持っています。  流行り病で生死の境を彷徨った時に思い出したのです。  この世界は、前世で遊んでいた乙女ゲームに酷似していると。  最愛のディアム王子をヒロインに奪われてはなりません。  そうと決めたら、行動しましょう。  ヒロインを排除する為に。  ※小説家になろう様等、他サイト様にも掲載です。

悪役令嬢の幸せは新月の晩に

シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。 その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。 しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。 幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。 しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。 吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。 最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。 ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...