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アンシェスター家の双子 二話
しおりを挟むミラには内緒だぞとエヴァンから許可をもらった双子は、可愛らしくおそろいのチェックの服を着て街へとおりていた。
街で双子は有名であり、アンシェスター家の天使と呼ばれている。ただ、街の住人達は天使が見た目のまま可愛らしい天使ではないことを知っている。悪魔になる事もあるから、うかつなことは出来ない。
「ヘレン。ほら、この宿屋だよ。」
「あら、街で一番安いお買い得な宿屋さんに泊まったのね。」
「うん。さぁ、楽しみだね。」
「ええ。楽しみね。」
二人は可愛らしくにっこりと笑いあうと、宿屋の扉を開けた。
扉につけられていたベルがチリリンと音を奏で、宿屋の店主が双子に視線を向けると小首を傾げた。
「おや、おはようございます。今日は一体どうなさったので?」
「今日は会いたい人がいて来たんだ。」
「ロンっていう人、来ているでしょう?」
その言葉に店主は眉間にしわを寄せた。
「えぇ。泊まっていますが・・言っちゃあなんだが、あまりあ近寄らない方がいいのでは?ありゃお二人が近寄っても良いような綺麗な人間じゃない。」
双子はにっこりとほほ笑むと頷いた。
「よかったぁ。良い人になっていたら困るもの。」
「そうよねぇ。お母様の分もお礼をしなくちゃいけないのに。」
その一言で店主は本日は悪魔モードのようだと悟ると、肩をすくめて言った。
「店の物は壊さないで下さいね。」
『もちろん!』
アンシェスター領に住まう者達は、肝が据わっている。それは国境付近の街であるからという理由もあるが、実の所街人のほとんどが兵士をやめて店を開いた者だったり、騎士かぶれだったり、はたまた他の街では邪魔者扱いされ追いやられた者だったりする。
では争いごとが多いのかと聞かれれば否。
もし争いなど危険な事を冒せば、アンシェスター家の戦場の悪魔が黙っていない事を皆知っている。
そして、その血を受け継ぐ双子も父親に似てすくすくと育っている事も知っている。
「あと、少し疑問なんですが・・アンシェスター夫人に何か因縁でも?」
尋ねてもいいかと伺いながらそう口にすると、双子はすっと表情から笑みを消して頷いた。
『お母様を昔ね・・とっても傷つけた元婚約者なんだって。』
その言葉だけで、ミラの事を知る者達は目の色を変える。
実の所ミラがこのアンシェスター家に嫁いできた話は美談となっており、それ故に、ほとんどの内容を住民たちは知っている。
店主はにっこりと笑みを浮かべると言った。
「それならば、街中で歓迎してやらねばなりませんね。」
店の中でそっと話に聞き耳を立てていた者達もすっと立ち上がると、腰にある武器に手を伸ばす。
「協力させていただいてもいいですか?」
「夫人ほど優しい人はいない・・・そんな人を傷つけたのでしょう?」
「しかもこの領へとのこのこと来るなんて・・・」
双子はあれ、事が大きくなってきたぞときょとんとした表情を浮かべるが、まぁいいかと気合を入れる。
慈善活動に力を入れ、また街によく顔を出しては不便な事などないかと尋ねるミラは、今やアンシェスター領の天使、いや女神として崇められていた。
荒くれ者達もミラと話せばいつの間にか毒気を抜かれ、そしてアンシェスター領に住み着くものだから、人口もどんどんと増えている。
そしてミラ信者も増殖中である。
「二人でお礼をするつもりだったけど。」
「皆も一緒にする?」
宿屋で朝食を食べていた者達皆が賛同し、騒ぎは拡大していく。
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