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四十話 聖なる蛇
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魔女と蛇とセオとアリシア。
アリシアはセオの腕にしがみつく形で、ソファへと座っているが、向かい側には白い蛇と棘の魔女が座っている。
どうしても生理的に蛇というものを受け付けないアリシアは、出来るだけ蛇とは距離を取ろうとしているが、それでも怖いので、セオにしがみついてしまっている。
いつもは無表情がデフォルトのアリシアが、怖がり、そしてセオを頼るという図が生まれているのだが、この状況をセオは嬉しそうに頬を緩めていた。
なんだかんだでアリシアに頼っていもらえるのが嬉しそうなセオである。
「改めて、人の娘、アリシアよ。呪いを解いてくれたこと、礼を言う」
蛇が頭を下げている姿にアリシアはびくびくとしながらも返事を返した。
「い、いいえ。別に、解いたつもりもありませんし、というか、何もしていませんが……」
「そなたの作ったあのシーツの刺繍、見事な稀有なる力であった」
「え?」
稀有なる力?
アリシアはきょとんと首をかしげてからセオと魔女へと視線を滑らせると、二人は知っていたかのようにうなずいている。
知らないのはアリシアだけだ。
「ちょっと待ってください。えっと、稀有な力というのは、刺繍の事ですか? 刺繍が、呪いに効くんですか?」
蛇は頷くと、かつてを思い出すように天井を向いて言った。
「かつてはローゼンも志高い男であった。だが、志が高いからこそ、ねじれて、よれて、そして心が消えてしまった」
蛇はそういうとけらけらと突然笑った。
「それも、それで面白かったのだがなぁ。だが……あ奴がうんだ歪によって我が同胞たちまでもが心を失い、お前を襲ったようにローゼンにただ従う蛇となってしまった」
笑うのをやめ、蛇は言った。
「もう、止まれぬところまであの男は足を踏み入れてしまったのだ」
アリシアは夢の中の女性を思い出す。
ローゼンを止めようとしていた女性。
蛇はしずかにアリシアへと視線を移すと言った。
「お前のその稀有な力ならば、ローゼンの心を取り戻せるかもしれない。頼む」
その言葉に、これまで黙っていた魔女は怒りを堪えているのだろう、髪の毛を逆立てながら言った。
「あの男が何をしてきたか、知っているの? それなのに、心を取り戻せなんて! 自業自得でしょう!」
それはそうなのだろう。
ローゼンによって不幸になった人もいるだろう。けれどそれと同様にローゼンのおかげで助かった人がいたのかもしれない。
アリシアは、自分でどうにかできる問題なのかどうか考えていると、セオの視線に気がついた。
セオはアリシアの頭をぽんっと撫でると言った。
「お前にはなんのかかわりもないことだ。無視してもいいのだ」
たしかにその通りだろう。
けれど。
アリシアの脳裏に、あの女性がよぎる。
彼女はきっと、ローゼンのことを待っているのだ。
大切な人に会えないことは、寂しいことだ。
アリシアはセオを見つめて、それから覚悟を決めたのであった。
アリシアはセオの腕にしがみつく形で、ソファへと座っているが、向かい側には白い蛇と棘の魔女が座っている。
どうしても生理的に蛇というものを受け付けないアリシアは、出来るだけ蛇とは距離を取ろうとしているが、それでも怖いので、セオにしがみついてしまっている。
いつもは無表情がデフォルトのアリシアが、怖がり、そしてセオを頼るという図が生まれているのだが、この状況をセオは嬉しそうに頬を緩めていた。
なんだかんだでアリシアに頼っていもらえるのが嬉しそうなセオである。
「改めて、人の娘、アリシアよ。呪いを解いてくれたこと、礼を言う」
蛇が頭を下げている姿にアリシアはびくびくとしながらも返事を返した。
「い、いいえ。別に、解いたつもりもありませんし、というか、何もしていませんが……」
「そなたの作ったあのシーツの刺繍、見事な稀有なる力であった」
「え?」
稀有なる力?
アリシアはきょとんと首をかしげてからセオと魔女へと視線を滑らせると、二人は知っていたかのようにうなずいている。
知らないのはアリシアだけだ。
「ちょっと待ってください。えっと、稀有な力というのは、刺繍の事ですか? 刺繍が、呪いに効くんですか?」
蛇は頷くと、かつてを思い出すように天井を向いて言った。
「かつてはローゼンも志高い男であった。だが、志が高いからこそ、ねじれて、よれて、そして心が消えてしまった」
蛇はそういうとけらけらと突然笑った。
「それも、それで面白かったのだがなぁ。だが……あ奴がうんだ歪によって我が同胞たちまでもが心を失い、お前を襲ったようにローゼンにただ従う蛇となってしまった」
笑うのをやめ、蛇は言った。
「もう、止まれぬところまであの男は足を踏み入れてしまったのだ」
アリシアは夢の中の女性を思い出す。
ローゼンを止めようとしていた女性。
蛇はしずかにアリシアへと視線を移すと言った。
「お前のその稀有な力ならば、ローゼンの心を取り戻せるかもしれない。頼む」
その言葉に、これまで黙っていた魔女は怒りを堪えているのだろう、髪の毛を逆立てながら言った。
「あの男が何をしてきたか、知っているの? それなのに、心を取り戻せなんて! 自業自得でしょう!」
それはそうなのだろう。
ローゼンによって不幸になった人もいるだろう。けれどそれと同様にローゼンのおかげで助かった人がいたのかもしれない。
アリシアは、自分でどうにかできる問題なのかどうか考えていると、セオの視線に気がついた。
セオはアリシアの頭をぽんっと撫でると言った。
「お前にはなんのかかわりもないことだ。無視してもいいのだ」
たしかにその通りだろう。
けれど。
アリシアの脳裏に、あの女性がよぎる。
彼女はきっと、ローゼンのことを待っているのだ。
大切な人に会えないことは、寂しいことだ。
アリシアはセオを見つめて、それから覚悟を決めたのであった。
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誤字報告
二十四話 祝福の国 聖国
25ページ 38行目
❓ルートの足もとに普通の緑の棘が足りように ← 意味が分かりません
楽しく読んでおります。