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三十七話 アリシアは黙々と刺繍する
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添い寝事件から数日たったアリシアは、現在黙々とセオの執務室にて一人刺繍をひたすらにさしていた。
しかも今回は超大作であり、ハンカチではなく白いシーツに黙々と刺繍している。
何故かと言えば、セオが現在棘の魔女と共に他の貴族達も交えて聖国の現状と今後の方針を決めるために会議をしている為である。
アリシアはセオがいないために現在やらないといけない仕事がないのだ。いや、実際のところはこまごまとした掃除や片付けなどはあったのだが、手際よく終わらせてしまった。
なのでいつものようにハンカチに刺繍を誘うと思ったのだが、先日の一件以来、眠るのが不安になってしまったのである。
自分でない者に体を乗っ取られてしまったという経験、そして夢の中に出てきた女性と、ローゼン。
今まで経験したことのない程の不安な感覚に、アリシアは一人では眠れなくなり、それをすぐにセオに気付かれたのだ。
「アリシア。正直に言いなさい。眠れないのか?」
その言葉にアリシアはいつものように無表情のまま乗り切ろうとは思ったのだけれど、結局は目の下に作られた隈が証拠となって、眠れていないことがばれてしまったのだ。
するとセオは毎晩アリシアを自分の自室に呼び、とんとんするようになった。
心臓が飛び出そうなほど緊張するというのに、セオの横でトントンされると一瞬で夢の中へと落ちてしまうのである。
正直よく眠れ過ぎて、朝いつもよりも早く目覚める。その為、朝一番はセオの美しいご尊顔を眺めることがここ最近の日課になってしまった。
それをアリシアは思いだし、シーツに顔を埋めるとうめき声をあげた。
「だめだわ。このままでは、城の皆にもいつばれるか……いえ、きっとばれているのでしょうね。そのうえで見守られているのでしょうね……知りたくない現実から逃れるのはやめましょう」
顔をあげてアリシアはそう呟くと、嫁に行く当てもないので、このまま一生セオの侍女として暮らしていくのでもいいかとため息をついた。
ただ、現状いつまでもセオに添い寝をしてもらうわけにはいかず、打開する方法を模索した結果、刺繍をしたシーツに包まれて寝たら、悪い夢も見ない気がしたのである。
ただ、気がするというだけで、そうなる保証はどこにもない。
セオには今日の会議は長いので、日中は休んでもいいと言われていた。なので、こうやってシーツに黙々と刺繍しているのだ。
「うまくいくかしら」
そう呟いた時であった。部屋にうねうねとした影を見た気がしてアリシアは立ち上がると勢いよく近くに置いていた箒でそれを叩いた。
「てぇぇぇい!」
虫か何かだとアリシアは思ったのである。
「ぐぇえ」
けれどそれは、虫ではなく、一匹の蛇であった。
アリシアと、蛇の目が合う。
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うぇぇぇぇぇ!?」
二つの悲鳴が部屋に響き渡った。
しかも今回は超大作であり、ハンカチではなく白いシーツに黙々と刺繍している。
何故かと言えば、セオが現在棘の魔女と共に他の貴族達も交えて聖国の現状と今後の方針を決めるために会議をしている為である。
アリシアはセオがいないために現在やらないといけない仕事がないのだ。いや、実際のところはこまごまとした掃除や片付けなどはあったのだが、手際よく終わらせてしまった。
なのでいつものようにハンカチに刺繍を誘うと思ったのだが、先日の一件以来、眠るのが不安になってしまったのである。
自分でない者に体を乗っ取られてしまったという経験、そして夢の中に出てきた女性と、ローゼン。
今まで経験したことのない程の不安な感覚に、アリシアは一人では眠れなくなり、それをすぐにセオに気付かれたのだ。
「アリシア。正直に言いなさい。眠れないのか?」
その言葉にアリシアはいつものように無表情のまま乗り切ろうとは思ったのだけれど、結局は目の下に作られた隈が証拠となって、眠れていないことがばれてしまったのだ。
するとセオは毎晩アリシアを自分の自室に呼び、とんとんするようになった。
心臓が飛び出そうなほど緊張するというのに、セオの横でトントンされると一瞬で夢の中へと落ちてしまうのである。
正直よく眠れ過ぎて、朝いつもよりも早く目覚める。その為、朝一番はセオの美しいご尊顔を眺めることがここ最近の日課になってしまった。
それをアリシアは思いだし、シーツに顔を埋めるとうめき声をあげた。
「だめだわ。このままでは、城の皆にもいつばれるか……いえ、きっとばれているのでしょうね。そのうえで見守られているのでしょうね……知りたくない現実から逃れるのはやめましょう」
顔をあげてアリシアはそう呟くと、嫁に行く当てもないので、このまま一生セオの侍女として暮らしていくのでもいいかとため息をついた。
ただ、現状いつまでもセオに添い寝をしてもらうわけにはいかず、打開する方法を模索した結果、刺繍をしたシーツに包まれて寝たら、悪い夢も見ない気がしたのである。
ただ、気がするというだけで、そうなる保証はどこにもない。
セオには今日の会議は長いので、日中は休んでもいいと言われていた。なので、こうやってシーツに黙々と刺繍しているのだ。
「うまくいくかしら」
そう呟いた時であった。部屋にうねうねとした影を見た気がしてアリシアは立ち上がると勢いよく近くに置いていた箒でそれを叩いた。
「てぇぇぇい!」
虫か何かだとアリシアは思ったのである。
「ぐぇえ」
けれどそれは、虫ではなく、一匹の蛇であった。
アリシアと、蛇の目が合う。
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うぇぇぇぇぇ!?」
二つの悲鳴が部屋に響き渡った。
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