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二十六話 ため息
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棘の魔女は空になった皿の上に自らの魔法でまた菓子を出すと、それを食べながらアリシアを見て言った。
「それで、あんたは今後どうするつもりだい?」
「え?」
小首をかしげるアリシアに、魔女は菓子を口に放り込みながら話を続ける。
「言っておくが、この坊や以外にもあんたの力に気づくものは現れるだろうよ。そりゃあ稀有な力だからね、喉から手が出るほどに欲しいという有象無象はいるもんだよ」
皆の視線がアリシアへと向かい、セオも黙ってアリシアを見つめている。
アリシアは手を顎に当てて少し考えると、視線を泳がせたのちに言った。
「あの、そもそも力とは? 私、魔女様の変な棘を見る力はあるようですが、そのことですか?」
その言葉に皆が目を丸くし、顔を見合わせると眉間にしわを寄せた。
「ちょっと待っておくれ、この娘気づいていないのかい?」
「こんなに力を持っているのにですか?」
「以前から、抜けているとは思っていたが、無自覚か」
ごにょごにょと呟かれる言葉にアリシアは眉間にしわをぐっとよせると言った。
「あの、何のことかはわかりかねますが、私はセオ様の侍女であって、それ以上でもそれ以下でもございません。ですので、今後どうするのかと聞かれても、侍女を続けるとしか申し上げることが出来かねますが」
魔女もルートもそれに驚いたように目を丸くする。
「呆れた。無欲な娘だねぇ」
「本当に……聖国に来れば、今よりも華やかな暮らしを保証するのに……」
アリシアにとってあまり華やかに暮らすということに魅力は感じられなかった。
なぜならば今の時点で生活に不満はないし、セオの美しいご尊顔を毎日傍で見れるという日々はアリシアにとっては何よりのご褒美であった。
これ以上のご褒美があるか?
これ以上の贅沢があるか?
ないだろう。
アリシアの思考は、セオの傍にいる一択なのである。
「あの、私は今の生活に満足しております。セオ様の傍にいられればそれでいいのです」
その言葉に、セオは両手で顔を覆うと、動きを止める。
魔女はにやにやと笑い、ルートはなるほどと納得の言った表情を浮かべると生暖かな瞳をセオへと向けた。
「ただの侍女ではないということですか。なるほど、お二人はそういうご関係なのですね」
ルートの言葉に、セオは顔をあげると睨みつけた。
それにルートはすくんで見せると、立ち上がり一礼した。
「数々の非礼、本当に申し訳ございませんでした。改めまして謝罪の品は送らせていただきたいと思います」
「まぁまぁ、仲がいいことは良きことだねぇ。ふふん。まぁ、あんたがいるうちは恩があるから力はいつでも貸してあげるよ。じゃあ、この坊やは元の所へ帰すよ。じゃあね」
そういうと魔女とルートは姿を消し、部屋に残ったのはアリシアとセオだけである。
耳を赤らめたセオは両手で顔をもう一度覆うと、大きく息を吐いた。
「セオ様、お茶を新しく入れなおしましょうか?」
「あぁ」
セオは、お茶を入れなおすアリシアを指の隙間からじっと見つめ、小さくため息を漏らした。
「それで、あんたは今後どうするつもりだい?」
「え?」
小首をかしげるアリシアに、魔女は菓子を口に放り込みながら話を続ける。
「言っておくが、この坊や以外にもあんたの力に気づくものは現れるだろうよ。そりゃあ稀有な力だからね、喉から手が出るほどに欲しいという有象無象はいるもんだよ」
皆の視線がアリシアへと向かい、セオも黙ってアリシアを見つめている。
アリシアは手を顎に当てて少し考えると、視線を泳がせたのちに言った。
「あの、そもそも力とは? 私、魔女様の変な棘を見る力はあるようですが、そのことですか?」
その言葉に皆が目を丸くし、顔を見合わせると眉間にしわを寄せた。
「ちょっと待っておくれ、この娘気づいていないのかい?」
「こんなに力を持っているのにですか?」
「以前から、抜けているとは思っていたが、無自覚か」
ごにょごにょと呟かれる言葉にアリシアは眉間にしわをぐっとよせると言った。
「あの、何のことかはわかりかねますが、私はセオ様の侍女であって、それ以上でもそれ以下でもございません。ですので、今後どうするのかと聞かれても、侍女を続けるとしか申し上げることが出来かねますが」
魔女もルートもそれに驚いたように目を丸くする。
「呆れた。無欲な娘だねぇ」
「本当に……聖国に来れば、今よりも華やかな暮らしを保証するのに……」
アリシアにとってあまり華やかに暮らすということに魅力は感じられなかった。
なぜならば今の時点で生活に不満はないし、セオの美しいご尊顔を毎日傍で見れるという日々はアリシアにとっては何よりのご褒美であった。
これ以上のご褒美があるか?
これ以上の贅沢があるか?
ないだろう。
アリシアの思考は、セオの傍にいる一択なのである。
「あの、私は今の生活に満足しております。セオ様の傍にいられればそれでいいのです」
その言葉に、セオは両手で顔を覆うと、動きを止める。
魔女はにやにやと笑い、ルートはなるほどと納得の言った表情を浮かべると生暖かな瞳をセオへと向けた。
「ただの侍女ではないということですか。なるほど、お二人はそういうご関係なのですね」
ルートの言葉に、セオは顔をあげると睨みつけた。
それにルートはすくんで見せると、立ち上がり一礼した。
「数々の非礼、本当に申し訳ございませんでした。改めまして謝罪の品は送らせていただきたいと思います」
「まぁまぁ、仲がいいことは良きことだねぇ。ふふん。まぁ、あんたがいるうちは恩があるから力はいつでも貸してあげるよ。じゃあ、この坊やは元の所へ帰すよ。じゃあね」
そういうと魔女とルートは姿を消し、部屋に残ったのはアリシアとセオだけである。
耳を赤らめたセオは両手で顔をもう一度覆うと、大きく息を吐いた。
「セオ様、お茶を新しく入れなおしましょうか?」
「あぁ」
セオは、お茶を入れなおすアリシアを指の隙間からじっと見つめ、小さくため息を漏らした。
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