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二十二話 銀色の魔女

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 魔女の雄たけびにセオは剣を構えた。

 魔女はうずくまりながら叫び、そして着ていた黒いローブを深々とかぶるとその場にしゃがみこんだ。

「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 アリシアは焦りながら、セオの後ろからぴょこんと顔を出し、青ざめた様子でそう尋ねる。

 しかし魔女からの返答はない。

 この時、セオには見えていなかったが、アリシアには棘が蛇のようにのたうち回り、うねりながら部屋全体をいたるところに絡みついているのが見えた。

 蛇のようなその様子にアリシアは青ざめているのであり、セオの服をぎゅっとつかんだまま動けない。

 一国の王を、蛇の盾に使っているということにアリシアは自覚がない様子である。

 その時であった。

 苦しみ悶えていた魔女から光があふれ始めると、今までうねりをあげていた棘が動きを止め、そしてつぼみを付けると美し薔薇が咲き始めた。

 部屋の中にあふれていく薔薇の花に、蛇の恐怖がなくなり、アリシアはほっと息をついた。

「ん~!!! はぁぁっ! なんて清浄な空気なのかしら!? あぁぁ全身に張り付いていた呪いが剥げて、すっきりはっきり、気持ちいわ!」

 魔女は突然背伸びをしたかと思うと、黒いローブが一瞬で銀色のローブへと変わり、先ほどの魔女とは見た目が一転していた。

 そこには銀髪の美しい魔女がいた。

 そして指には銀色の指輪が輝いている。

「っはぁ! 本当にすっきり。まぁまぁ! なんてお礼を言ったらいいのかしらね!」

 魔女の様子に眉間にしわを寄せたアリシアとセオであったが、魔女は気にしない様子で指をぱちんと鳴らすと、銀色の器の中に入っていた魚を空中へと泳がせる。

 魚は空中を気持ちよさそうに泳ぎ、まだ残っている汚れを食べ始めた。

 その様子にアリシアが驚いていると、魚がアリシアの前へとくると、くるりと回転して目の前にひまわりの種のようなものを差し出してきた。

「え? なんですか?」

 アリシアがとりあえずそれを両手で受け取ると魚は嬉しそうに宙を泳いでいった。

 魔女はそれを見て微笑みを浮かべると、目の前においしそうなケーキとティーポットを出してお茶を入れなおすと言った。

「うふふ。あー。毎日砂みたいな味だったのに、本当に最高。ちゃんとお礼を言うわ。アリシア。ありがとう。貴方のおかげて三百年ぶりに開放感を手に入れたわ」

 その言葉にセオはとりあえず剣を下すと鞘へと戻した。

 アリシアは小首をかしげる。

「あの、私何もしていませんが。その、先ほどとは様子がかなり違うご様子ですが、どうしたのですか?」

 魔女はアリシアの言葉に大きな声で笑うと、指輪を見せながら言った。

「魔女っていう生き物は人より呪いを受けやすい。だからこそ長く生きれば呪いに侵されていく。手立てはあるが完璧じゃない。まぁそれが自然の道理。そして狂った魔女は最後には呪いに身を滅ぼされて死ぬわけだが、まあ、人間にしてみればその過程は厄災だろうね。だが仕方ない。私も呪いに染まって死にゆく運命だったわけだ。そして最後の最後に遊ぶおもちゃとして選んだのが、そのセオという王よ」

 魔女はそこまで一息で言うと、ケーキをほおばり、嬉しそうに咀嚼する。

「まぁでも、アリシアのおかげで体にこびりついた呪いは消えたし、相棒もこうやって元気になったわけ」

 相棒と呼ばれる魚は嬉しそうにくるりと回る。

「この指輪は呪いを吸い込み、蓄積させていくもの。そしてこの魚である相棒は私の呪いを長年綺麗にしてくれたのだけれどね、三百年前に人間に騙されて、動けなくなってしまったんだよ。それで私の体の呪いは加速した……だが、こうやってまた出会えた」

 魔女は嬉しそうにそういうと、セオの方を見た。

「さっきはさんざん言ったが、アリシアには感謝をしている。だから、セオをおもちゃにするのはやめてあげよう」

 自分勝手な魔女の言い分にセオもアリシアも何とも言えない表情を浮かべた。

 ただ、魔女とは人間とは違う生き物である。だからこそ、敵にはしたくない。



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