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十話 町へのお出かけ

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 城の馬車というものは豪華絢爛なものから、一見地味に見えても、内装はかなり凝った作りになっているものまでさまざまなものがある。

 そんな馬車の一つ。

 外装はかなりシックに作られているが、内装はこれでもかというくらいにクッションが敷き詰められ、座り心地抜群の馬車にアリシアはセオと共に乗っている。

 セオは白いシャツに紺色のベスト、黒のズボンと軽装であり、アリシアもまた白いシャツに花柄のスカートといった華美になりすぎない格好をしている。

 ただ、どれほど軽装をしようともセオの美しさを隠せるわけはなく、アリシアはさりげなくちらりとセオを見るたびにその神々しい姿に感嘆の息をつきそうになるのをぐっと我慢する。

 いつもはかっちりと閉めているボタンが、今日は二番目まで開いており、そこからのぞく鎖骨がなんとも色っぽい。

 ー眼福だわ。なんでこの世界にはカメラがないのかしら。

 二人が馬車に乗っている理由はもちろんある。

 決して二人の関係が急に発展してデートと言うわけではない。

 馬車が止まると、セオは先に馬車を降りてアリシアへと手を差し出す。

 エスコートをされそうになっているという事実に、アリシアの心とは裏腹に眉間にしっかりとしわが寄る。

 はたから見ればかなり不服そうに見えるであろうが、アリシアは必死に自分の中にあふれるよこしまな感情を押し殺している最中なのである。

 ーこれはただの、エスコートよ。手をつなぐのに、邪まな意図をもってはいけないわ。精神統一よ。煩悩よ私の中から去るのよ!

「では行こうか」

「はい」

 セオもはあまり感情が表に出るわけではないため、二人とも終始無表情である。

 そんな様子を少し遠めに騎士と従者は心配そうに、二人の初デートを見守っている。

 二人にとっては初デートなるものではないのだが、城に使える者たちにとっては、デートである。

 男女がでかければデートである。

 生暖かい瞳で見守られているとも知らずに二人は、町中を歩いていく。

「今日は噴水広場から回ってみようと思っている。ハンカチは持ってきているか?」

「はい。もちろんでございます」

 そう答えるとアリシアは小さな肩掛けカバンの中にぎっしりと詰められたハンカチをセオへと開けて見せる。

 セオはうなずくと、アリシアの歩調に合わせながら噴水広場へと向かって歩き始めた。

 そんな優しい気づかいにアリシアは内心で、こんなにもいい男なのにヒロイン様は何故選んでくれなかったのだとハンカチをかみたくなる。

「アリシア……君にはここがどのように見える?」

「え?」

 セオの言葉に、アリシアは噴水広場の方へと視線を移す。

 そして言葉を失った。

 噴水の水が、恐ろしい色をしているのである。

 けれど、それに全く気にしていないように人々は噴水の前で待ち合わせたり、その噴水の水を触ってったりしている。

 アリシアは思わず口を開け広げたまま、眉間にぐっとしわを寄せて言った。

「水路に問題があるのですか?! これは、あまりにひどいですわ」

 セオはその言葉に満足げにうなずき、そして無表情が和らぐと言った。

「アリシア。君は本当に素晴らしい目をもっているようだ」

 その言葉にアリシアは小首をかしげるのであった。


★★★★
たくさんの感想ありがとうございます!
いつも励みにさせていただいております。

作者は生活面にてなかなか時間がとれず、感想を返すことが難しい状況にあります。なので、返すこともあれば、返せないこともありますので、大変心苦しくはあるのですが、理解していただけるとありがたいです。

また、誤字脱字にての報告についてです。
大変ありがたいのですが、【作者がへっぽこ】なため、たまにどこに誤字脱字があるのか見つけられずに、右往左往して、結局見つけられていないことがあります。本当にすみません。

確認できたものは、訂正するようにしていますが、時間的な問題にて、次話を書くことを優先する場合もあります。

心苦しくはあるのですが、豆腐メンタルな作者をご理解いただけるとありがたいです。

よろしくお願いいたします。

作者 かのん


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