上 下
14 / 24

 リナリーの秘密の時間14

しおりを挟む

 雨はしばらくすると止み、朝日が昇ると濡れた土も乾き始めた。



 リナリーの濡れた服は湿っていてが、少しずつ乾き始めていた。



 馬車は人目を避けるように細い道に入り、そして森の中へと入って行った。

 薄暗い森の中はシンと静かで、リナリーは見つからないように道ではなく木に隠れながら馬を歩ませていた。



 そして、馬車が止まったのは、一軒の小さな山小屋であった。

 馬車からは男達が降りてきたかと思うと、カールは力なくダラリとした様子で男に担がれていた。



 どうやら意識を失っている様子である。

 やはり騙されたのだ。



 リナリーは悩んだ。

 きっと城では私がいなくなり騒動になっているだろう。

 一度城に戻り助けを呼ぶか、このまま見張りを続け、シバが見つけてくれるのを待つか。



 その時であった。



「雑な尾行だ。バレないと思ったのかい?」



 次の瞬間、リナリーの視界は暗転した。







 遠くから誰かが呼ぶ声が聞こえる。この声は誰だ?

 あ、そうだ。

 カールだ。



「カール?、、、いったぃ、、、、」

 リナリーは重たい瞼をゆっくりと開け、後頭部を抑えると、痛みに耐えるように唸り声を上げた。



「リナリー!どうしてお前がここにいるんだ?!」

 カールは青ざめた表情で、リナリーを見下ろしている。

 手を縛られており、リナリーはどうにか体を起こすとカールを見つめた。

「大丈夫?さっきは意識を失っていたようだけれど。」

「目覚めたらお前がいたから、驚いたんだ。怪我はないか?」

「頭が少し痛いだけです。」

「そうか、、、、、巻き込んですまない。」

「いえ、自業自得ですから。」



 そうリナリーが言った時であった。後ろからくくくっと笑う声が響いた。



 振り返ると、そこには片目に眼帯を付けた、切れ長の瞳の短髪の男がいた。



「こんな時に仲良しこよしかい?」

「、、、私達をどうするつもり?」

 リナリーは男を睨みつけた。

「さぁてね。」

「他の男達はどこへ行ったの?」

「本当に、勇ましいなぁ。だが、質問に答えるのは貴方のほうだ。何故、貴方のような方がここにいるんですかい?」

 男の眼は恐ろしく鋭く、リナリーは一瞬引きそうになる心を、必死に振るい立たせた。



 私の身元は知っているのね。



「貴方のような方?リナリー。どういう事だ?」

 カールは意味が分からないように、焦っているような表情を浮かべている。



 それに男は驚いたように目を丸くした。



「まさか知らないってわけか。カール様。あんたは周りを見てもいないんだな。」



「な、、、お前無礼だぞ!知らない事くらい僕にだってあるのは当たり前だろ。」



「そう言って言い訳をして、知る事のできる事すら知らないでいるのは、惰性ではないですかね?」



 リナリーは男の話を聞き、敵意を感じないのが不思議だった。

 それに、この部屋にも違和感がある。



 ここは、本当にカールが担ぎ込まれた小屋だろうか。



 カールは男の言葉に苦虫を噛んだような表情を浮かべた。



「もう一度尋ねます。どうして貴方のような方がここにいるんですかい?」

「カールが攫われる姿を見て、思わず。」

「なんで公爵令嬢が馬に乗れるんですかい?」

「馬くらい誰でも乗れるわ。」

「いやいや、普通の令嬢はのれませんよ。では、何故カール様の事をご存知なのですかい?貴方の立場では知り合いになっているのはいささか危険なのでは無いか?」



 リナリーはカールを見た。



「カールは何者なの?」



 男は額に手を当てて天井を仰いだ。 



「貴方も知らないんですかい。」



 男は呆れたように、大きく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した

葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。 メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。 なんかこの王太子おかしい。 婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました

みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。 前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。 同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...