7 / 24
こんにちは魔王様7
しおりを挟むリナリーの自分にしがみついて泣く姿に、シバは不安になった。
リナリーは、帰りたいのではないのだろうか。
政略結婚とはいえ、リナリーは元々は第二王子と結婚するはずだったのだ。
そう考えると胸が苦しくなってくる。
返したほうがいいのだろうか。
だが、自分の思いは返したくはない。
以前は、結婚など利があれば良く、どんな相手であっても、魔族らしく愛せばいいと思っていた。しかし、リナリーに出会ってしまった今ではリナリー以外は考えられない。
今更他の者を愛せと言われても無理な話しだ。
そう、シバが考え、悩んでいた時であった。部屋をノックする音が聞こえた。
「はいれ。」
「失礼いたします。」
「リナリーの様子は?」
シバからリナリーの様子を報告するように命じられていたアンは静かな口調で話し始めた。
「今は落ち着いておられます。先程は魔王様にも迷惑をかけてしまったと仰っておりました。」
「迷惑など!夫婦になるのだからいくらかけてもいいというのに、、、」
その言葉に、ピクリとアンの眉が釣り上がった。シバはアンのこの癖をよく知っている。何故ならばこれはアンが怒っているときの合図だからである。小さな頃はよく、眉が釣り上がった瞬間に急いで逃げたものだ。
だが一体何にアンは怒っているのか。
「僭越ながら魔王様。」
「、、、なんだ?」
思わずゴクリとつばを飲み、覚悟してしまうのは昔からの癖だ。
「魔王様はもうすこしリナリー様のお気持ちを考えて発言するべきです。まぁ、愛情が重たくて少しばかりストーカーのような所はまだリナリー様が恋愛において初級者であってもよしとしましょう。気持ちを伝えるのは大切ですからね。ですが、不用意なお言葉が、リナリー様を傷つけないとは限りません。」
言葉の端々に毒を感じながらも、リナリーの事となれば聞かないわけには行かない。
「どの、、言葉の事だ?」
「『魔族とは、政略結婚でも愛情を求めてしまうのだ。』という発言でございます。リナリー様は落ち込んだご様子でこの言葉を呟いておりました。この言葉では結婚相手がリナリー様以外であってもいいと言っているものではありませんか!」
「どうしてそうなる!?そんな事は言っていないだろ!」
「いいえ、リナリー様のように恋愛初級者の者は不意に言われた言葉の裏を読んでしまうことがあるのです!このアンは、嘘はつきません!」
「う、、、本当にそう、リナリーが思っていると言うのか?」
「御本人にも私の考えをお伝えすると、涙を流されながら頷いておられました。アンは不確実なことは主に伝えません。言質もとっております。『シバ様は素敵なお方ですもの、、私でなくてもきっと良かったのですわ。』と、おっしゃっておりました。」
「くっ、、!、、なんと可愛い、、リナリーがそう言ったのか、、アンのモノマネではなく、本人から聞きたかった、、、。」
「そんな事を言っている場合ではございません。一度愛は拗れると修復するまでに時間がかかってしまいます。お早めにリナリー様の誤解を解き、リナリー様のお心を手に入れて下さいませ。」
シバはそう言われたものの、どうすれば良いのかと頭を抱えた。
女心とは難しい。
アンはわざとらしく大きく咳をすると、すっと窓の方を見つめ呟いた。
「明日は城下町にて、剣技会や屋台の催しがあるそうですよ。」
それを聞き、シバは目を輝かせた。
「アンは素晴らしいな!ありがとう。リナリーに手紙を書くから渡してくれるか?」
アンは満足そうに頷くとニコリと笑みを浮かべた。
「お忍びデートは乙女の憧れでございます。しっかりとリナリー様のお心をお掴み下さいませ。」
アンはシバから手紙を預かると、そう言って部屋から出て行った。
シバは明日の事を思い描き、笑みを隠せない。しかし、まずは、目の前の仕事を終わらせなければ明日を楽しむ事もできない。
リナリーの事を考えていたばかりに溜まってしまった書類の山を、シバは嬉々として、高速で処理して行くのであった。
明日の剣技会ではリナリーに良いところを見せ、自分に好意を抱いてもらおう!そして、自分が他の誰かではなくリナリーを求めているのだという事を伝えようと息巻く、シバであった。
1
お気に入りに追加
1,204
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
喪女に悪役令嬢は無理がある!
夢呼
恋愛
都立高校に通う山田椿は高校二年生。クラスでも存在感0の喪女。
そんな彼女が校舎の片隅の階段で昼休みにぼっち飯を終えてライトノベルを読んでいた時、ふざけた合っていた男子生徒達の放ったサッカーボールが顔面に当たり階段から落下してしまう。
気が付いたらさっきまで読んでいたラノベの世界に入り込んでいた!しかも役どころは断罪決定の悪役令嬢のオフィーリア!完全無欠の喪女の椿にはハードルが高すぎる!
自分が死んで転生してしまったと信じた椿は無駄に断罪回避に走らず、このまま断罪される道を選ぶのだが・・・。
自分を断罪するはずの婚約者のセオドア様に声を掛けられた。
「あんた、山田じゃね?」
なんと、どういうわけかセオドア様の中にクラスメイトの柳君が憑依していた!
驚くだけじゃ済まない。柳君は完全たる陽キャ!陰キャ喪女の椿には彼を相手にするのもハードルが高い。
とは言っても、この世界の事情を全く知らない柳君は椿しか頼る人はおらず。
結局二人は常に一緒にいることに。断罪はどこへ?
カクヨム様にも投稿しています。
※10万文字を超えてしまいましたので、長編へ変更しました。
申し訳ありません・・・。
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
水鳥楓椛
恋愛
わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。
なんでそんなことが分かるかって?
それはわたくしに前世の記憶があるから。
婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?
でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。
だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。
さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる