12 / 15
十二話
しおりを挟む
アナスタシアは心の中で歓声を上げる。
やったわ。私が魔王様のお妃様になるのよ。
人間なんか、アルベルト様の花嫁には最初からふさわしくなかったのよ。
魔力も強い体も失ったけれども、アルベルト様の寵愛さえあればそれで構わないわ。
アナスタシアは横にいるアルベルトの体をべたべたと触りながら、うっとりとした表情を浮かべ、そして魔族らへと手を振った。
ごみのようなやつらのことなんてどうでもいいけれど、あぁこうしてちやほやとされるのはとても心地がいいものね。それに。
アナスタシアはカラシュに拘束の魔法をかけられて絶望に顔を染めるフィオーナを見て、にやりと口を歪めた。
人間のただのフィオーナが、ああやって捕えられる様は本当に笑える。
「アルベルト様。心より愛しておりますわ。」
そう、アナスタシアが呟いた瞬間であった。
雷鳴が轟き、そして、空気が変わる。
「な・・・・」
アナスタシアの背筋に汗が落ちる。
手がふり払われ、民衆は息を飲んでその姿を見守る。
黒い炎が燃え上がり、アルベルトの体が魔物の姿から人の姿へと変わった。
「あ、アルベルト様?」
アナスタシアが縋り付くように手を伸ばし、アルベルトの頬に触れた瞬間、アナスタシアの足元へと雷が落ち、地面を焦がす。
「ひっ!」
しりもちをつくアナスタシアを、アルベルトは一瞥する。
その時であった。
一人の声が、まるで鈴の音のような可愛らしい怒鳴り声が、その場に響き渡った。
「ままっま魔王様!どういう事ですか!あ、アルベルト様と魔王様は同一人物なのですか!」
民衆は、声の主に視線を向ける。
アルベルトもまた、そちらへと視線を向けると、殺気が消え、柔らかな微笑を浮かべた。
「っふ・・・君らしいな。」
アナスタシアは青ざめた顔をしながらも、アルベルトへと手を伸ばす。
「ど、どこを見ているのですか!は、花嫁は、わ、私のはずです。」
アルベルトはまだいたのかと言わんばかりにアナスタシアを見ると、面倒くさそうに舌打ちをした。
「・・・まだいたのか。」
「で、ですから、私が貴方の花嫁・・・っひぃぃぃ。」
「・・・・・体を傷つけられたら困る。」
アナスタシアの体にはまるで蛇のような黒い生き物が四肢を押さえつけ、頭を押さえつけ、身動きを封じる。
アルベルトは冷たい瞳でアナスタシアを見ると言った。
「・・・大人しく待っていろ。」
まるで死刑を宣告させるようなその瞳にアナスタシアの体はがたがたと震え、そしてやっとその時になってアナスタシアは気づいたのだ。
この男を手に入れるのなど、無理なのだ。
この男は無慈悲な魔王なのだと。
やったわ。私が魔王様のお妃様になるのよ。
人間なんか、アルベルト様の花嫁には最初からふさわしくなかったのよ。
魔力も強い体も失ったけれども、アルベルト様の寵愛さえあればそれで構わないわ。
アナスタシアは横にいるアルベルトの体をべたべたと触りながら、うっとりとした表情を浮かべ、そして魔族らへと手を振った。
ごみのようなやつらのことなんてどうでもいいけれど、あぁこうしてちやほやとされるのはとても心地がいいものね。それに。
アナスタシアはカラシュに拘束の魔法をかけられて絶望に顔を染めるフィオーナを見て、にやりと口を歪めた。
人間のただのフィオーナが、ああやって捕えられる様は本当に笑える。
「アルベルト様。心より愛しておりますわ。」
そう、アナスタシアが呟いた瞬間であった。
雷鳴が轟き、そして、空気が変わる。
「な・・・・」
アナスタシアの背筋に汗が落ちる。
手がふり払われ、民衆は息を飲んでその姿を見守る。
黒い炎が燃え上がり、アルベルトの体が魔物の姿から人の姿へと変わった。
「あ、アルベルト様?」
アナスタシアが縋り付くように手を伸ばし、アルベルトの頬に触れた瞬間、アナスタシアの足元へと雷が落ち、地面を焦がす。
「ひっ!」
しりもちをつくアナスタシアを、アルベルトは一瞥する。
その時であった。
一人の声が、まるで鈴の音のような可愛らしい怒鳴り声が、その場に響き渡った。
「ままっま魔王様!どういう事ですか!あ、アルベルト様と魔王様は同一人物なのですか!」
民衆は、声の主に視線を向ける。
アルベルトもまた、そちらへと視線を向けると、殺気が消え、柔らかな微笑を浮かべた。
「っふ・・・君らしいな。」
アナスタシアは青ざめた顔をしながらも、アルベルトへと手を伸ばす。
「ど、どこを見ているのですか!は、花嫁は、わ、私のはずです。」
アルベルトはまだいたのかと言わんばかりにアナスタシアを見ると、面倒くさそうに舌打ちをした。
「・・・まだいたのか。」
「で、ですから、私が貴方の花嫁・・・っひぃぃぃ。」
「・・・・・体を傷つけられたら困る。」
アナスタシアの体にはまるで蛇のような黒い生き物が四肢を押さえつけ、頭を押さえつけ、身動きを封じる。
アルベルトは冷たい瞳でアナスタシアを見ると言った。
「・・・大人しく待っていろ。」
まるで死刑を宣告させるようなその瞳にアナスタシアの体はがたがたと震え、そしてやっとその時になってアナスタシアは気づいたのだ。
この男を手に入れるのなど、無理なのだ。
この男は無慈悲な魔王なのだと。
0
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
妹ばかりを優先する無神経な婚約者にはもううんざりです。お別れしましょう、永久に。【完結】
小平ニコ
恋愛
主人公クリスタのストレスは限界だった。
婚約者であるエリックとのデートに、彼の妹であるキャロルが毎回ついて来るのだ。可愛げのある義妹ならともかく、キャロルの性格は最悪であり、クリスタはうんざりしていた。
最近では、エリック自身のデリカシーのなさを感じることも多くなり、ある決定的な事件をきっかけに、クリスタはとうとう婚約の破棄を決意する。
その後、美しく誠実な青年ブライスと出会い、互いに愛をはぐくんでいくのだが、エリックとキャロルは公然と婚約破棄を言い渡してきたクリスタを逆恨みし、彼女と彼女の家に対して嫌がらせを開始した。
エリックの家には力があり、クリスタの家は窮地に陥る。だが最後には、すべての悪事が明るみに出て、エリックとキャロルは断罪されるのだった……
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
【完結】王太子とその婚約者が相思相愛ならこうなる。~聖女には帰っていただきたい~
かのん
恋愛
貴重な光の魔力を身に宿した公爵家令嬢エミリアは、王太子の婚約者となる。
幸せになると思われていた時、異世界から来た聖女少女レナによってエミリアは邪悪な存在と牢へと入れられてしまう。
これは、王太子と婚約者が相思相愛ならば、こうなるであろう物語。
7月18日のみ18時公開。7月19日から毎朝7時更新していきます。完結済ですので、安心してお読みください。長々とならないお話しとなっております。感想などお返事が中々できませんが、頂いた感想は全て読ませてもらっています。励みになります。いつも読んで下さる皆様ありがとうございます。
【完結】悪役令嬢とヒロインと王子の婚約破棄騒動茶番劇
かのん
恋愛
婚約破棄。それは普通ならば終わりを告げるもの。
けれども今回の婚約破棄は、ただの三人による茶番劇である。
三話完結。ちょっとした暇つぶしにお読みください。
【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです
かのん
恋愛
「お前、可愛くないんだよ」そう婚約者から言われたエラは、人の大勢いる舞踏会にて婚約破棄を告げられる。そんな時、助けに入ってくれたのは、国の守護神と呼ばれるルイス・トーランドであった。
これは、可愛くないと呼ばれたエラが、溺愛される物語。
全12話 完結となります。毎日更新していきますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。
お馬鹿な主人公は、お馬鹿なりに頑張る。
かのん
恋愛
あ!私、主人公なんだ。
そう他人事のように思い出した瞬間に、焦りを覚える。
なんで、私が主人公?この物語の主人公は確か、冷静であり、かなり頭が良かったような。しかも実は亡国の生き残りの姫君。
え、私お姫様?いや、ムリムリ。だって私はただの馬鹿だよ?自分で言うけど、通知表平均以下よ?成績は下から数えた方が早いよ?いや、ムリムリ。
これは主人公に生まれ変わってしまったお馬鹿な少女が、お馬鹿なりに奮闘する物語。
ファンタジー部門にいたのですが、恋愛が増えていきそうなので、恋愛部門へと移動することにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる