【完結】私の愛しの魔王様

かのん

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九話

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 フィオーナが思っていたよりも結婚式の準備はどんどんと進められ、そして、いよいよ国中にお披露目をするという日、フィオーナはいつになく緊張していた。

 それもそのはずである。

 フィオーナの心は揺れに揺れていた。

 魔王に惹かれている。

 けれども同じ気持ちをアルベルトにも抱いてしまっているのである。

 今まで婚約者というものは政略的な意味合いでしか見たことがなく、また、婚約者がいるのだから恋愛のれの字すら考えたことのなかったフィオーナは、恋愛の超がつくほどの初心者である。

 それなのにもかかわらず、今、二人の男性に惹かれているのである。

 結婚式の準備が着々と進めば進むほどに心の中は荒れていった。

 しかもここには人間などおらず、フィオーナはこの心の中に秘めている思いを誰にも打ち明けることが出来ずにいた。

 せめて人の国であったなら、誰かにこの自分の思いを吐露し、そして諌めて欲しかった。

「アルベルト・・様。」

 つい、そうポロリとフィオーナが漆黒の花嫁衣装に身を包み、呟いた時であった。

 部屋の中から突然空気がなくなってしまったように息が苦しくなり、フィオーナは喉を押さえた。

「人間ごときが、アルベルト様の名を呼ぶなどおこがましい。」

 振り替えると、そこには見知らぬ美しい女が立っていた。

 灰色がかった髪は腰ほどまでに長く、その瞳は真っ赤に燃えるような赤。

 口を三日月のように歪ませた女は、フィオーナの元へとつかつかと歩み寄ると喉を手でぐっと掴み、ぎりぎりと締め上げてくる。

「アルベルト様の妻になるのは、本来は私だったのに!・・でも、大丈夫。私が貴方になればいいんだもの。」

 次の瞬間、フィオーナの視線はぐらりと揺れた。

 だが、そんな中でも女の姿の変化は見えた。  

「あ・・なた。」

「ほら、入れ替わり大成功。ふふふ。これで私がアルベルト様の妻よ!!」

 女の姿とフィオーナの姿は入れ替わり、女は嬉しそうに笑みを深めると言った。

「殺しはしないわ。でも、貴方の声は奪っておくわね。ばいばい。アナスタシア。」

 アナスタシアとは女の名なのだろう。

 フィオーナは次の瞬間、見知らぬ地面の上へと落とされ、嗚咽をもらしながら必死に息を吸った。

 呼吸が出来ず死ぬかと思ったが、ちゃんと生きているらしい。

 だが、声を出そうとしても出ず、そればかりか自分が今どこにいるのかさえ分からない。

 町の中のようであり、窓に写る自分の姿は、先程の女。

(入れ替わったのね・・ここは、何処なの。)

 フィオーナは唇を噛むと、拳を握りしめた。

(あの、女!!!なんて女なの!!)

 フィオーナは町の中を殺気を放ちながら歩き始めた。

(私は魔王様の妻よ!アルベルト様の妻ではないわ!勘違いして、バカよ!しかも、アルベルト様には、あんな恋人がいたのね!!!私バカみたい!)

 怒り狂うフィオーナの回りにはバチバチと火花が散る。

 アナスタシアと入れ替わった為に、アナスタシアの絶大な魔力をフィオーナは手にいれたことに気がついていない。

 だが、町に住まう魔族達は違う。

「四代魔族、業火のアナスタシアがご乱心だ!」

「すぐに魔王様に知らせろ!」

「魔力が町に広がって、弱い魔族がどんどん倒れていっているぞ!」

「だれか!結婚式会場にきっと乗り込むつもりだ!魔族騎士にも知らせるんだ!」

 町中が、パニックに陥り始めていることに、フィオーナは気づいてなどもちろんいなかった。




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