【完結】私の愛しの魔王様

かのん

文字の大きさ
上 下
8 / 15

八話

しおりを挟む

 フィオーナは、アルベルトと共に仕事をしていたのだが、途中で執事がお茶を用意したことでその手を止めた。

「お茶にしよう。」

「そう、ですね。」

 ちょうどきりもよいところであり、アルベルトに同意すると、フィオーナは椅子に腰を下ろした。

 アルベルトは少し躊躇った後に小さく息を吐くとフィオーナの隣へと腰かけた。

「え?」

 思わずフィオーナは驚き、アルベルトに視線を向けると、アルベルトは困ったように眉間にシワを寄せた。

「嫌か?」

「えっと、そう言うわけではありませんが・・その、少し近すぎるかと。」

「そう、か?」

「はい。結婚前の淑女としてはやはり殿方との距離はしっかりとらねばなりません。」

 その言葉にアルベルトは、眉間のシワをさらに深くした。

(獣の姿の時にはあれほど近くに来るくせに、この姿では許さないと?)

 アルベルトの中で、フィオーナへの獣好き疑惑が高まっていく。

「その、君は獣が・・好きなのか?」

「え?いえ、別に。」

 あっさりと否定されたアルベルトは困惑し髪を撫で上げた。

 否定されたけれど、ならば何故こうも獣姿の時と対応が違うのかという疑問がアルベルトの中で起こる。

 ため息をつくとアルベルトは席を立った。

「少し頭を冷やしてくる。」

 部屋から出ていったアルベルトの背を見送ったフィオーナは、大きく息を吐くと両手で顔を覆った。

 耳まで赤くなっているのが自分でもわかる。

(ダメよ!フィオーナ!私は魔王様の妻になるのだから、いくら魔王様と声かにていても、いくら魔王様と雰囲気がそっくりでも、流されてはダメ!)

 はっきり言ってしまえば、フィオーナは毎日仕事を共にするうちに、次第にアルベルトに惹かれている自分に気がつき始めていた。

 けれども自分は魔王の妻になるべくしてここへ来たのだ。

 そう、何度もじぶんに言い聞かせるのだが、どうしても魔王と同じように惹かれてしまうのだ。

 魔王のあの艶々とした毛並みに惹かれるように、アルベルトの美しい黒髪を撫でたくなる時もある。

 自分はこんなに淫乱な女だったのだろうかとフィオーナは両手で顔を覆いながら呻き声を上げた。

「はぁ・・魔王様に会いたい。」

 会えばきっとこの心の中の熱が嘘だと思えるはずだ。

 アルベルトと魔王の二人の男性に心惹かれるなど、フィオーナは大きくため息をまたもらす。

 その頃アルベルトはカラシュを捕まえると、大きくため息をつきながら言った。

「人間の女とは、こうも難しいのか。」

 そんな弱気な魔王を見たことのなかったカラシュは、結婚式を出来るだけ早めるようにしましょうという提案しか出来ないのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

公爵家令嬢と婚約者の憂鬱なる往復書簡

西藤島 みや
恋愛
「パルマローザ!私との婚約は破棄してくれ」 「却下です。正式な手順を踏んでくださいませ」 から始まる、二人のやりとりと、淡々と流れる季節。 ちょっと箸休め的に書いたものです。 3月29日、名称の揺れを訂正しました。王→皇帝などです。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...