【完結】妊娠中のお姉様の夫に迫られて、濡れ衣を着せられた

プロローグ

　私が好きになったのは、姉のことが好きな人だった。

　姉か私のどちらかがいずれ彼の婚約者になる。

　私を選んでほしかった。

　けれど、彼が見ているのはいつも姉ばかりだった。

　だから、笑顔で協力をした。

　私の恋心なんて隠して。

　彼の幸せの方が大事だと思った。だから、自分の恋心には蓋をした。

　それなのに。

「お父様！　信じてくださいませ！　お父様！」

「ええい！　黙れ！　姉が妊娠中にその夫と不貞を働くとはなんという恥さらさしか！」

　父に頬を叩かれ、母は涙をただただ流す。

「違います！　私はっ！」

「貴方なんて、もう妹とは思わないわ」

　涙をはらはらと流しながら姉に睨み付けられる。

「ずっと、ずっとあの人を私から奪う機会を待っていたのでしょう！？　だって、貴方昔からあの人のことが好きだったものね！　でも、もうあの人は私のものなのよ！」

　姉の言葉は衝撃的だった。

　知っていたのだ。

　知られていたのだ。

　ずっと秘めていた想いを。

　そしてそれは、私の想いに気づきながらも姉はそれを知らないふりをしていたということ。

　私が苦しんでいるのを知りながらも、、あの人の横で、さも私の想いなど気づいていないふりをして、笑っていたということ。

　姉が、はっとしたような顔で顔を背ける。

　私は、小さく笑いをこぼした。

　人は悲しみを通り越すと、笑えてしまうらしい。

　私は反論するのをやめた。

　もう、この人と一緒にはいたくない。

　何を言っても無駄だ。

　幸せを願っていたというのに、なんと自分のバカなことか。

　けれど、最後に一言だけ。

「お姉様。私はお姉様の幸せを壊そうだなんて思ったことは一度もありません。ですが、お姉様は違ったのですね」

　その後、私は自室へと軟禁された。

　部屋のなかで私は、考えることを放棄した。

　私は軟禁が解かれるのと同時に馬車にのせられ、北の辺境の土地にいる、遠縁の男爵家へと嫁に出された。

　修道院に入れられなかったのは、最後の親心なのだろうかと考えながら、私は馬車に揺られた。