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八話 楽しいカフェ
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馬車の中でトーマス様はそれから黙り込んでしまい、何かを考えているようでした。
私としてはトーマス様と一緒に過ごせることを良い思い出としていきたいので、黙るトーマス様を静かに眺めさせていただきました。
考えに耽るトーマス様も素敵で、こうやって一緒に馬車に乗れることも夢のようだなと思います。
「さぁついた。どうぞこちらに」
馬車が止まり、降りる時にも手を差し伸べてくださいました。エレン様にはこのようにエスコートされた記憶はありません。
「ありがとうございます」
こうしていると、まるでトーマス様と恋仲になったかのようで、頭の中でだけそんな妄想を膨らますことを許してくださいと、内心思ってしまいます。
トーマス様が連れてきてくださったお店は、可愛らしい雰囲気のカフェでした。
貴族用に個室もあり、個室からは中庭が見られるようになっています。
「可愛らしいお店ですね」
「あぁ。お気に入りなんだ」
トーマス様は甘いものを好まれるようで、結構な量を注文していました。そして机の上にどんどんと運ばれてくるお菓子を見つめながら、先日のお菓子もここのものなのだと気づきました。
「可愛らしいですね。見た目も華やかで、味も美味しくて、素敵です」
「そうなんだ。はは。ミリー嬢は舞踏会でもよくお菓子を口にしているようだったから、ここのお菓子が気にいるんじゃないかと思っていたんだ」
「え?」
「ん?」
私がお菓子を食べる姿を舞踏会で見られていたのだろうか。そう思うと少し恥ずかしくて目を伏せると、慌てた様子でトーマス様が言った。
「あ、違うぞ。あの、つい可愛らしくお菓子を食べている姿が偶然目に入っただけで……いや……はぁ。違わないかもしれない」
「え?」
「実のところ、これまで何度か舞踏会でミリー嬢を見ていて、その、美味しそうにお菓子を食べるから、それが可愛らしいなぁと思っていた」
その言葉に私は驚きと恥ずかしさを感じた。
「そ、そうなのですか?」
「あ、あぁ」
憧れのトーマス様にそう思っていただけていたなんて本望だなと思う。そして、この時間が終わらなければいいのにと思うけれど、楽しい時間はいつもよりも早く流れて行ってしまう。
会話の中で、私の話した情報によって第一王子殿下の仕事の手助けになったとのことであった。
それは嬉しいけれど、これがそのお礼だということは、もうトーマス様に会う機会はないかもしれない。
今回が最後かと思うと、寂しい。
「どうした?」
そう尋ねられ、私は勇気を振り絞って言いました。
「あの……また、こうやって、一緒に過ごしてはいただけませんか?」
どこぞの男性の後妻になるまで、ほんのわずかな自由期間。その間だけでもいい。
私の言葉にトーマス様は少し驚いたような顔をしたけれど、すぐに優しい微笑みを携えてうなずいてくださった。
「もちろん」
その一言が嬉しくて、社交辞令だとしても、私は心が満たされるのを感じた。
私としてはトーマス様と一緒に過ごせることを良い思い出としていきたいので、黙るトーマス様を静かに眺めさせていただきました。
考えに耽るトーマス様も素敵で、こうやって一緒に馬車に乗れることも夢のようだなと思います。
「さぁついた。どうぞこちらに」
馬車が止まり、降りる時にも手を差し伸べてくださいました。エレン様にはこのようにエスコートされた記憶はありません。
「ありがとうございます」
こうしていると、まるでトーマス様と恋仲になったかのようで、頭の中でだけそんな妄想を膨らますことを許してくださいと、内心思ってしまいます。
トーマス様が連れてきてくださったお店は、可愛らしい雰囲気のカフェでした。
貴族用に個室もあり、個室からは中庭が見られるようになっています。
「可愛らしいお店ですね」
「あぁ。お気に入りなんだ」
トーマス様は甘いものを好まれるようで、結構な量を注文していました。そして机の上にどんどんと運ばれてくるお菓子を見つめながら、先日のお菓子もここのものなのだと気づきました。
「可愛らしいですね。見た目も華やかで、味も美味しくて、素敵です」
「そうなんだ。はは。ミリー嬢は舞踏会でもよくお菓子を口にしているようだったから、ここのお菓子が気にいるんじゃないかと思っていたんだ」
「え?」
「ん?」
私がお菓子を食べる姿を舞踏会で見られていたのだろうか。そう思うと少し恥ずかしくて目を伏せると、慌てた様子でトーマス様が言った。
「あ、違うぞ。あの、つい可愛らしくお菓子を食べている姿が偶然目に入っただけで……いや……はぁ。違わないかもしれない」
「え?」
「実のところ、これまで何度か舞踏会でミリー嬢を見ていて、その、美味しそうにお菓子を食べるから、それが可愛らしいなぁと思っていた」
その言葉に私は驚きと恥ずかしさを感じた。
「そ、そうなのですか?」
「あ、あぁ」
憧れのトーマス様にそう思っていただけていたなんて本望だなと思う。そして、この時間が終わらなければいいのにと思うけれど、楽しい時間はいつもよりも早く流れて行ってしまう。
会話の中で、私の話した情報によって第一王子殿下の仕事の手助けになったとのことであった。
それは嬉しいけれど、これがそのお礼だということは、もうトーマス様に会う機会はないかもしれない。
今回が最後かと思うと、寂しい。
「どうした?」
そう尋ねられ、私は勇気を振り絞って言いました。
「あの……また、こうやって、一緒に過ごしてはいただけませんか?」
どこぞの男性の後妻になるまで、ほんのわずかな自由期間。その間だけでもいい。
私の言葉にトーマス様は少し驚いたような顔をしたけれど、すぐに優しい微笑みを携えてうなずいてくださった。
「もちろん」
その一言が嬉しくて、社交辞令だとしても、私は心が満たされるのを感じた。
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